ショッピング
「うい。俺明日買い物行くけど一緒に行くか?」
夜、夕飯を食べたあとのまったりと流れるこの時間。明日木曜は学校の創立記念日で学校全体が休みになる。教職に就くと平日休みなんてまた夢の夢。こういう特別な事がない限り平日休みなんてない。
「そっか。明日休みか。平日だから店も空いててゆっくり出来そう。何買うの?」
「スーツでも新調しようかと思って」
「じゃあ、私がスーツ選んじゃおうかなぁ。私も買い物したいし一緒に行きたい!」
決まりだな。明日はゆっくりういと買い物デートだ。
次の日外で昼ごはんを済ませデパートにあるスーツ専門店に来ていた。大体俺が買うのはいつも同じものだから面白くないとういがさっきから張り切って俺のスーツを選んでいる。
「トシさんはいつも白黒しか買わないもんね。たまには銀ちゃんみたいに下のシャツの色を明るめにするとか」
「着たことねーな」
「私も見たことないし」
2人でスーツを見て回っていると男の店員が何かお探しですか? と聞いてきた。スーツを一式新調したくてと答えると店員は新作の物を案内してきた。
それは中のシャツが選べるパターンのもので結構色の種類が豊富だ。ういはこれだったらシンプルで良さそうと水色の落ち着いたカラーのシャツを手に取る。どちらにしろ裾上げを頼まないといけないので試着はしなくてはいけない。
「トシさんこれ着てみて」
「おお」
俺はういが選んだシャツを受け取り店員に案内され試着室に入る。カーテン越しにういと店員が何か話している。一式着終えて鏡で全身をチェックしてみる。特にカラーシャツも落ち着いているので違和感もないしサイズもピッタリだ。カーテンを開ける。
「どうだ」
「トシさんめっちゃ似合ってる! それにしよう」
「サイズ感もよろしい様ですしいかがなさいますか?」
じゃあ、これでお願いしますとまち針で裾を上げる分だけとめて着替えを終えてレジに向かう。裾上げは30分程度かかるらしい。
「そういやういも買い物したいって言ってたな」
「あー服見たいんですけどトシさん女物のところいるの苦手だよね。だから私1人で見てくるよ」
「あー今日は付き合ってやるよ」
「ホント!」
特に買いたい店は決まっていないのか上から順に気になる店を見ていくことにした。そういえばさっき俺が試着してる時に店員と何か会話してたな。
「うい、おれが試着してる時店員と何話してたんだ?」
「ああ、今日はお2人ともお休みでデートですか? って。私、初めて彼女扱いされて嬉しくなっちゃった」
「一年前は仲の良いご兄妹ですね? だったもんな」
「そうそう。だからやっと私もトシさんに釣り合いの取れる女になったんだなーって」
ういはずっとその事で悩んでいたので今回の事はよっぽど嬉しかったんだろう。楽しそうに笑うういは気になる店を見つけたのか店頭に置いてある服を見ている。買い物自体2人であまり来ないがなんだか女物のところは居心地が悪い。でも意外とカップルでいると別に周りも気にしていないようなので俺も普通にういの隣に並ぶ。
「そういえばトシさんって女の人の好きな格好ってあるの? あっ、制服?」
「そんな訳あるか! そうだな別にういの格好は嫌いじゃないけど。その手にしてるワンピースはやめろ」
ういが手にしているのは背中のザックリ空いたワンピース。さすがに露出が多いのはいけ好かない。
「トシさんが言うならこれやめる。うーん、こっちはどう?」
そう手に取ったのは白いシャツワンピ。いいんじゃないか? と言うと店員に試着をしてもいいか聞きに行った。店員と2、3会話を交わすと彼氏さんもこちらどうぞと試着室まで案内された。
本当に兄妹って言われなくなったなと考えていると試着室のカーテンが開いた。……可愛い。しかし丈が短ぇ。何で最近のスカートはこうも丈が短いのか。
「とてもお似合いですよー!彼氏さん、彼女さん可愛いですよねー!」
「あっ、ああいいんじゃないか?」
「じゃあ、これにしようかな」
店員のテンションはすごいな。ついていけない。ういはまたカーテンの向こうに消えすぐに着替えを終えて出てきた。
「他に欲しいもんはないのか?」
「ここはもういいかな」
会計に向かおうとするういの腕にひっかかってるワンピースを取りレジに出す。店員もそのまま会計を始める。不思議そうに見ていたが俺が財布を出すと慌て始めた。
「トシさん、私自分で払うって」
「別にこんくらいいいだろ。普段家事とかしてくれてるし」
会計を済ませ袋を受け取り店を出る。トシさん本当にいいの? と見上げてくるのでプレゼントだ。プレゼントと言うとありがとうと返ってきた。他に見るもんは? と隣を見るとヘアアクセ見たいと言ったので小物屋で。
あまりちゃんと見たことがなかったがヘアアクセだけで随分種類があるもんだ。ういは大きいクリップみたいなヘアアクセを持ってる。そういやこの間壊れたとか言ってたな。選び終わったのを見計らって俺は手を差し出す。意図がわからないのか首を捻るうい。俺はもう養っていくと勝手に決めているのでういにお金を払わす気はさらさらない。
「それ買ってくるから」
「さっきも買ってもらっちゃったし自分で払うって」
「素直にプレゼントされとけって。外で待ってろ」
ういは少し不満そうだったが俺が折れないとわかると店の外に出て行った。それを確認すると俺はさっき見ていた白いリボンが付いてる髪ゴムも一緒にレジへと出した。小さい袋にまとめられたそれを受け取りさっき買った服の袋に入れ時間を確認する。
「もう買いたいもんはないか?」
「買い物はもう終わったよ。そろそろ裾上げ終わった頃だよね? 行く?」
ああと返事をしてスーツをもらいに行って、夕飯の材料を買って家へと帰ってきた。買ってきたものを出しているういの動きが止まった。その手には白いリボンの髪ゴム。
「トシさんこれ私選んでないんですけど?」
「その前に買ってたワンピースに合うと思って俺が選んで買った」
ありがとうと顔を赤らめるうい。今日のお礼に夕飯飛びっきり美味しいの頑張って作りますと買ってきたものを片付けて戻ってきたういは気合を入れてキッチンにいくういに期待してるぞと声をかけた。