制服が煩わしくて

土曜日。今日私は部活で学校に来ていた。最近はコンクールも近く土曜も練習でお休みは日曜のみ。普段の晋助の土曜は朝はいつもより遅く出て帰るのも早いのだけれでも今は学校全体の衛生管理を行わないといけない時期らしく仕事に追われているので帰りが遅くそのまま寝てしまうので2人でゆっくりとした時間が取れない。

こういう時タイミングは悪いもので日曜も2人して別の予定が出来てしまったりで。でもいつもと違って私が先に朝出ているのでどこか新鮮で最初は楽しかったりなんだけど。家でも学校でも同じ場所にいるのに寂しいなんて贅沢な悩みなんだけどさ。ほら、あれだ。イチャイチャしたいなーなんて。

部長の挨拶で今日も部活は終了。まだまだ直す所が必要なことも多いけどなんとかまとまってきたところだ。みんなが楽器を片付けながらそれぞれ帰って行く。私も楽器を片付けに音楽準備室に行き楽器を置いて音楽室へと戻りカバンを肩にかける。まだチラホラ残っている音楽室で携帯を見てニヤニヤしているかなちゃんを発見。

「彼氏とメールですかー?」
「実はこのあとデートでーす」
「羨ましいなぁー。どこ行くの?」
「この間みんなで見てた雑誌のお店でご飯食べるんです。たまたま電話したら予約がとれたので」
「いいなー」
「そっちこそずっと一緒でいいなーですよ」
「実は今ずっと一緒じゃないんだよね。あっち土曜も遅くまで仕事でさ。普段早く帰って来てるから体が慣れない、疲れたってさっさと寝ちゃうんだよね。日曜は日曜で私も彼氏も予定入っちゃうし」
「お互い大変な時期ありますよね。テスト期間前後は私もそんな感じですよ」

教師と付き合っていても結局ゆっくり出来るのは予定の入ってない日祝のみ。こっちが長期休みでも向こうは仕事だしで。この時ばかりは同い年カップルが羨ましくなる。そろそろ電車に向かおうとすると踊り場の階段の窓にポツリポツリと水滴が。

「雨降ってきた。傘持ってないよ」
「私折り畳み持ってますよ。入っていきます?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。職員室で傘借りてくから」
「私もまだ時間ありますし着いていきますよ。もしかしたら急な雨ですしもう借りれる傘ないかもですよ」
「かなちゃんは優しいなー。職員室まで同行よろしくお願いします!」

私の学校では忘れ物の傘で半年以上持ち主が現れないと借りれる傘になる制度がある。職員室まで行くと私みたいに傘を持ってない人が数人いた。かなちゃんの言う通りもう残ってないかな。そう思っていたが周りからこの間壊れかけの傘などを処分に回してしまったため残りが少なくやはり残っていなかった。駅まではかなちゃんに入れてもらえるけど降りた駅から徒歩でちょっと距離があるんだよね。

仕方ない走って駅まで行くかーと靴箱に向かう人達の波に逆らってもう少し奥へと職員室に入って行く。晋助の荷物を確認するためだ。まだ荷物があればかなちゃんと駅まで行って6つ先の駅のデパートで拾ってもらえる。なければとりあえず連絡を入れてみよう。この時期に風邪はひきたくないが最悪濡れて帰るしかない。あの距離のために傘を買うのはもったいないし。

晋助のデスクを確認するとちょうど荷物をまとめて周りにお先ですと挨拶をする晋助の姿。私は急いでかなちゃんの所に戻りながら晋助に気づいてもらうため電話をかける。近くで聞きなれた着信音が聞こえて数回鳴らしたところで即座にラインで傘を忘れたからデパートまで迎えに来てと打つ。晋助はうるさいって電話しか着信音が鳴らないよう設定してるからこういう時ホント困る。それになかなか携帯を確認してくれないからラインを送っても数時間返って来ないこともよくある。

かなちゃんに小声で今帰るところだったからデパートで拾ってもらうと伝え駅まで一緒に傘に入れてもらった。ラインを確認するとわかったと返って来ていた。

「先輩に私が傘貸してあげられればよかったんですけど彼氏も傘持ってないみたいで……」
「いいよ。いいよ。駅まで入れてもらったし、彼氏捉まったし」
「少しは車でラブラブできるんじゃないんですか?」

そうからかってくるかなちゃんは益々沖田さんに似て来たなぁと感じる。でもかなちゃんには敵わない沖田さんは見ていて面白い。そんな会話をしながら改札を通り私とかなちゃんが乗る電車が反対方向なのでそこでバイバイをしてホームに下りるとタイミング良く電車が来た。反対のホームに下りてきたかなちゃんに再度手を振って電車は発車した。ラインの通知音が鳴って確認をする。

先に着いたから夕飯になりそうなもの買ってる
5階の駐車場に停めたからデパートの5階のA出入り口で待っていてくれ

ありがとう、了解と打って送信をした。一緒に乗っていた同じ制服の生徒たちも6つも駅を通るとだいたい降りているのでここまで来ればバレる心配も少ない。まぁ、寮が付いている学校なので家から通っているのは半数以下だから地下鉄を利用する生徒も元から少ないんだけどね。寮にいた頃はずっとバレないかヒヤヒヤしてたもんなぁ。今もたまにドキッとするときあるけど。

駅に着きホームに降りて改札を通る。デパートまで外に出ないで直通なのが助かる。通路を通りデパートに入る。ここは2階なのでエレベーターで5階まで上がる。今は夕飯の買い物が終わって帰る人もだいぶ引いていてどこも飲食店が混みあってくる時間帯だ。5階と言っても売り場がある訳ではなく駐車場だけの階尚且時間帯のおかげでもあるのかエレベーター内は私だけだった。

さすがにこの制服姿で売り場に行き晋助の隣に並ぶのはマズイからね。養護教諭の顔なんてあまり知られていないかもしれないけど晋助は左目に眼帯をしているから覚えられてしまうことが多いのだ。

エレベーターが5階に着いてA出入り口を見ると黒いエコバックを提げた晋助がいた。お酒とタバコに物凄いお金を使う晋助なのでレジ袋にお金を払わないようにエコバックを常に車に置いているのだ。私に気づいた晋助はダルそうに手を挙げた。

「いきなり電話なって見たらういだったからびっくりした」
「ごめん。ごめん。傘忘れちゃって」

会話をしながら車に向かう。買い物ありがとね。と言うと少し不機嫌そうになった晋助。どうした? と聞くとウチの学校の生徒に会い買い物袋似合わないですねと言われたらしい。見慣れないと確かにこの風体にエコバックは似合わないかもしれない。ミスマッチではあるよねと返すと俺も変なイメージついてるなと笑った。

車のロックを解除して私は助手席に乗り込み晋助は運転席に座り後部座席の足元に荷物を置く。なんとなくだけど制服だとわからないようにネクタイをはずしただのYシャツに見えるようにする。下のスカートはよほど目を凝らさないとわからないしね。車を発進させた晋助は、そういえばと口を開いた。

「明日用事あるのか?」
「ないよ。忙しくてお互い日曜の確認忘れてたね。晋助は?」
「俺も無い」

2週間振りにゆっくりできる。そう考えるだけで頬が綻んでしまう。晋助を見ると久々にゆっくりできるなと何かを企んでいるような顔を向けられた。期待してないわけじゃないけどこの顔は変なこと考えている顔だということを知っている。車が車道に出ると雨脚が強まっていた。晋助をみると未だ楽しげに顔が笑っているので話しを逸らすことにした。

「今日の夕飯何買ったんですか?」
「ういが喰いたい」
「冗談いいんで」
「冗談じゃないんだけどなァ。適当にサラダとか惣菜。ういも疲れてるだろうし料理するのめんどいだろ」
「あ、うん。よくわかったね」
「ずっと飯作ってもらってるんだ。忙しい時めんどい時は言えばいいから。コンクールは来週だっけか?」
「うん。そうだよ。晋助は仕事落ち着いた?」
「全部終わった。月曜からまた通常に戻る」
「お疲れさまでした」
「コンクール行けそうだったら行くな」
「ぜひぜひ」
「行く事になったら教えるわ」

車はマンションに着いて地下に車を止めて私が先に家に帰り、その後を追って晋助が帰って来る。やはりどこまでも隠さなくてはいけないから。






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