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人生にはあらゆる試練というものがあり、わたしという平凡の代名詞のような女子には関係ないと思われるかもしれないけれど、まったくもってそんなことはないのです。激しいだるさと腹痛がからだを遅い、思わず座り込んでしまったひとけのない第二校舎の廊下。立ち上がることも叶わず下腹部を抑えて回復を願うばかり。

そう、わたしは現在進行形で女の子の日なのである。

しかし、今わたしが頭を悩ませている理由は他にあった。ひとけのない廊下で動けない、と言えば危機的状況におかれているように聞こえるが、ポケットには携帯が入っているし、流石にずっとわたしが戻ってこなければ友人が何かしらの行動を起こしてくれるはずだろう。ならば何故、と思ったそこのあなた、


「おい、どうした。言わなければわからないのだよ」


原因は、わたしのすぐそばで大きな身体を折り曲げてしゃがみこんでいる彼にあるんです。


「……あの、緑間くん、本当にだいじょうぶだから…」

「そんな真っ青な顔をして、大丈夫もなにもないだろう」


眉間にシワを寄せた緑間くんは少し苛ついたようにわたしの顔を上げさせた。心配してくれるのはとってもありがたいのだけれど、バスケ部の超エースで変人と言われながらも、その整った顔で異性からも人気が絶えない緑間くん。ついでにそれが自分好みのそれだったとしたら、「生理中なんです」なんて言えるほどわたしの神経は太くなかった。さっきからそれとなく悟って貰おうと奮闘しているわたしをよそに、わたしの右腕をがっちりと掴んだ彼はちょっとやそっとじゃはなしてくれそうにない。

ありがた迷惑、ってこういうことをいうんだろうなぁ…。


「…立てないのか?」


先ほどまでとは違う、少し優しい声で問われる。首だけで頷くように答えると、緑間くんはフンと鼻をならした。


「少しじっとしているのだよ」

「え…?っう、わあ!」


背中と膝の裏に暖かい感触を感じるて、一瞬感じた無重力に目をつむる。ひょい、と音が聞こえるかと思った。次に見えた視界はいつもより数段高い位置で、目線を少し上にあげると緑間くんの顔がすぐ近くにあった。

こ、こここここれって


「お、おひめさまだっこ…!」

「?、何か言ったか」

「えっいや、あの、その、えと」

「…何なのだよ」

「お、おろしてください…!」

「歩けないのだろう?」

「そ、だけど。でもっ…お、重いでしょ…?」

「むしろ軽すぎるくらいなのだよ」


きちんと三食食べているのか、と至極真面目な顔をした緑間くんの問いかけに首が取れそうになるほど頷くと、彼はそうか、ならもっと食べたほうがいいとかなんとか言ってさっさか歩き出してしまった。もちろん、わたしは緑間くんに抱えられたままだ。


「み、みどりまくんっ!おろして、本当に大丈夫だから…っ」


緑間くんのたくましい腕の中で無駄なもがきを続けながらそういうと、緑間くんはぴたりと足を止めてため息をはいた。


「…お前が俺のことをどう思っているか知らないが、廊下でうずくまっている女子を放っておけるほど非道な人間ではないのだよ」


眉間にシワを寄せた緑間くんは苛ついたようにしていたさっきとは違い、なんだか照れているようだった。それにつられるようにわたしの頬も熱くなってしまって、わかったのならじっとしていろ、と正面を向きなおして言った彼の言葉に、そっとうなずくことしか出来なかった。



20121001
思わぬところから春がきた

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