「ありゃ、また泣いてんの?」
「ひ、っう、たかおー…!」
「おーよしよし」
ひょこっと顔を見せた高尾に抱きついて、また溢れてきた涙をぐしぐしと拭う。高尾は何もいわず頭を撫でてくれて、このやりとりを何回したのか思い出せないくらいにはフられるたびに毎回甘えてしまっていた。
「今度はなに?」
「まえとっ、い、一緒!やっぱりこいびとには思えないって、ううう」
「あ、こら。目ェこすんなって」
両方の手首を高尾に掴まれて、涙がまたぽたぽたと頬を伝った。
「どうせ、高尾もばかな女だっておもってるんでしょ」
「…まあ、見る目ねーなとは思うけど?」
「〜っだって!そのときはこの人が運命の人だって思うんだもん!」
昔から恋愛体質だったわたしは何度も恋をし、フられ、涙を流してきた。中学までは女子の友達に泣きついていたけれど、最近泣きつかれる役目にあるのは高尾だ。高尾とは高校からのつきあいだけれど、馬があうとでもいうのかいろいろな縁があってすぐに仲良くなった。
あっ悪ィ、と笑った高尾を睨みつけて、すんっと鼻をすする。
「あのひとも、わたしのこと好きって言ってくれた、し。…最初は」
「最初は、だろ?」
「……高尾、今日いじわるだ」
「だぁってなまえ懲りねんだもん」
「だって寂しいんだもん、そんなときに優しくされたら好きになっちゃうじゃん」
「で、またフられんだろ?」
「っほんと、今日の高尾いじわる…!」
またじわじわと滲んできた視界を拭おうとして、高尾に手首を掴まれていることを思い出した。はなして、と揺すっても反応はなくて、手首に落としていた視線を高尾にもどすと、予想外に真面目な顔をして見つめられていたから、つい、驚いた。
「は、はなしてってば」
「なまえさあ、気付いてない?」
「…何に」
「いま、俺がちょーっと顔動かせばキスできちゃうってこと」
「キ…っ!?」
「お前、無防備すぎじゃね?」
ぎゅう、とさらに手首を握られる力が強くなって思わず顔をゆがめた。ゆっくり近づいてくる高尾から逃げるように身体をよじるけれど思うようにはいかなくて、迫る高尾から逃げられない。吐息混じりに耳元で名前を囁かれて、目をきつく瞑った。
「たかお、やだ…っ」
すぐ近くで高尾が呼吸するのを感じて、心臓がかわいげもなくどくどくと脈を打った。それからすぐ頬にやわらかい感触が…
って、あれ?
「……ほっぺ?」
「ぶ、くく…!」
「ちょ、高尾!」
目を開くと、俯いて肩を震わせている高尾が真っ先に目に入って、カッと顔が熱くなった。
だ、だまされた!
「たーかーおー!」
「っ悪い悪い!でも、ほら。涙とまったじゃん?」
「止まった、けど、でも!」
行きどころのない羞恥心が熱い顔をさらに熱くさせる。きっと、いまのわたしの顔は真っ赤っかだ。どうにかこうにか顔を隠したいのに、まだ手首は高尾の手の中にあって隠せない。離すどころかさらに引き寄せられて、高尾の胸のなか、つまりは抱き締められているようなかたちになってしまった。
「た、高尾?」
「んー?」
「ちかく、ないですか」
「さっき自分から抱きついてきたじゃん」
「そう、だけど…」
「…意識しちゃう?」
「なっ」
「なまえ、顔まっか」
「ううううるさい!」
「かっわいー」
「ちょ、高尾、お願いやめて…」
「やだ、って言ったら?」
「え、えーっと…」
「嫌いになる?」
「…ならない」
「じゃあ、離してやらねーよ」
すき、と囁くみたいに小さな声で言われて、思わず目を見開く。高尾は優しい顔で笑っていて、不覚にも、ときめいてしまった。なんて。
20120914
恋愛光線びび び