晴れた日に [10.12.23.]
ゾロは、どくろにすむ、ちょっとかわったぼうれいだ。しばふみたいなかみのけで、こわいかおをしてる。口もわるい。でも、とってもやさしい。
生まれたときからずっとずっとおれのそばにいてくれてる、だいすきなぼうれい。
きょうは、そのゾロのたんじょうびだ。
プレゼントはなにがいいか、いっしょうけんめいかんがえた。
でも、ゾロはぼうれい。
ごはんもケーキも食べられない。
おもちゃにも花にもさわれない。
本は、もういっぱいよんでる。
おめでとうのぎゅーも、だいすきのちゅうもできない。
いつもいろんなことをおしえてくれるゾロ。
いつもいちばんにおれのことをかんがえてくれるゾロ。
いつもおれをまもってくれるゾロ。
いつもいつも。
だから、どうしてもプレゼントをあげたいんだ。
「ゾロ、ゾロ、出てこいよ〜」
髑髏をペチペチと叩く小さな手。
「何だ」
「お散歩しよう」
「してくりゃいいじゃねえか」
「ゾロと行かなきゃ意味ねえ」
「ったく」
「だから、俺がいいって言うまで出てきちゃダメだぞ」
「今お前が呼んだんだろうが!」
ふと、小さなザックに気付いた。
「何持っていくんだ?また飯か?」
「ピクニックじゃねえ。お散歩だって」
そういうと、髑髏をアヒル柄のタオルで包んでザックに入れた。
「これで外に出られるよな?」
軽く目を見張ったまま、ゾロは黙ってしまった。
「俺、いっぱいいろいろ考えたんだけど、ゾロが喜ぶものが全然浮かばなかったんだ。本当はケーキ作ろうと思ったけど、ゾロが食えないなら意味ねえもん。ゾロ、庭でも気持ちよさそうにしてるから外が好きかなあって、でもドクロからあんまり離れられないから、いつも家の中と庭だけだろ。俺がゾロの家を持って歩けば、一緒に外にお散歩行けるかなって考えたんだ。すげえだろ?」
自信満々に話したが、ゾロの表情は変わらない。
チャームポイントのぐるぐる眉毛をへにゃんと下げてゾロを見た。
「タオルでくるんだし、転ばないように走ったりしないから。……やっぱり無理なのかな?」
本当に大事そうにザックを抱えて、俯いた。
ゾロはその金色の丸い頭を撫でてやった。もちろん実際に触れるわけはない。それでも、この仕草でサンジはとても安心する。
「許可取ったのか?」
「お散歩するだけだから、行ってきますだけで大丈夫」
「俺を連れていく許可だ」
「……許可なんていらねえ」
「駄目だ。母親を困らせてえのか?」
ゆるゆると首を振る。
「言ったろ?俺は監視されなきゃならないモノなんだよ。その役目はお前の母親だ。ちゃんと筋は通せ」
少しして、サンジは顔を上げた。
「絶対楽しいから、絶対お散歩するからな」
「分かった。ここで待ってるから行ってこい」
パッと明るい顔になり、勢いよく頷いてきびすを返した。
ドアを開けたところで立ち止まり、振り向いてゾロを見た。
「モノじゃねえ。ゾロはゾロだ。ゾロの悪口を言うのはゾロだって許さねえからな」
分かったな、と偉そうに言い捨てて駈けていった。
ずっと模索し、自分でも諦めていたことをさらっと言ってのけた、小さな魔法使い。
「……ったく、参った」
外の世界なんざ、興味もなかった。
だが、サンジと一緒なら、きっと世界は色付いて見えるのだろう。
パタパタと走ってくる足音。
「ゾロ〜!!俺がいろいろ連れてってやるからな!お気に入りのところ、いっぱいあるんだ!」
「許可出たのか」
「うん!」
満面の笑み。
髑髏の入ったザックを丁寧に背負うと、俺に手を伸ばした。
「俺から絶対離れるなよ。ちゃんと側にいろよな」
「分かった、分かった」
そして、俺は扉の外へと踏み出した。
そこには見たことのない世界が広がっていた。
「行こう、ゾロ!」
end.