QLOOKアクセス解析

unofficial site 砂の船 - Z×S -

The wizard(1) [10.04.08.〜]


 大通りから一本入ると、そこは古い店が建ち並ぶちょっとノスタルジックな街並みが人気の通りになる。
 その一角に、『the wizard』はあった。

「いらっしゃーい……なんだ、ウソップか」
「なんだとは失礼だな」
「麗しのレディ専門店にしてえなあ」
「じゃあそうしろよ」
「警察が報酬払ってくれりゃできるんだよ。いっつもただ働きさせやがって」
「仕方ねえだろ。お前はあくまでもコンサルタントだしよ」
「エスパーには金払ってんじゃねえか。俺の方が実績あるってのに」
「お前が解決してくれた事件は、局では未解決扱いだからな」
「馬鹿ばっかりだな。もうやらねえぞ」
「そういうなよ。俺を助けると思ってさ」
「で、結局ただ働きだろうが、オラ」
「今回は、俺がきっちり払うからよ」
「なんだ、やべえのか?」
「まだ俺の勘だけどな。超能力じゃ無理だ。お前の分野だと思う」
「胡散臭い超能力より俺様を買うとは、流石だな。話を聞いてやろう」

 大概はお前の方を胡散臭く思うんだと、賢明なウソップは心の中でだけ呟いた。
『the wizard』と書かれた店の主人サンジは、店名通りの魔法使いということだった。
 店は一見アンティークショップ兼カフェで、実際「the wizard」という名のそれだと思っている人がほとんどだ。香やら石やら売っているが、せいぜい占いの類としか思われていない。気分や体調に合わせたオリジナルなお茶をブレンドして売っていたりするから尚更だ。おまけに出される料理がすこぶる美味い。
 魔法使いらしきものといえば、店の奥にある何とも古めかしい重厚な机の上の皆目分からない文字の本と、一つの髑髏くらいだろう。
 いつもは本の陰に隠すように置かれているそれは、今日は珍しく真ん中にあった。

「なあ、ずっと聞きたかったんだけどよう」
「おー」
「あの頭蓋骨、本物か?」
「それは職務質問か?」
「ちげーよ!」
「んなことより、店閉めてやってんだ。事件の話、聞かせろよ」
「あ、ああ」

 はぐらかされたことで本物だと理解したが、追求する気はなかった。あれに触れるサンジの手は、粗雑に扱うように見せ掛けながら、決してそうではないからだ。
 ウソップは、気を取り直して本題に入った。

「建築中の建物で、焼死体が見つかった。真っ黒で、まだ性別も不明だ。けど、手のひらの刻印だけははっきり分かるんだ」
「刻印?」
「ああ。何かの柄みたいなんだけどよ。でもって、床には魔法陣が書かれてた」

 ふーんと相づちを打ちながら、新しい煙草に火を着ける。

「で、俺に聞きてえのはどこまでだ?」
「まずは魔法陣の意味だな。これは警察からの要請だ」
「ボランティアか」
「それで、個人的の依頼では、身元の手掛かりな」
「それこそそっちの得意分野だろ?」
「多分普通の捜査じゃ出てこねえよ。場数のお陰で、何となく判別つくようになっちまった」
「っつうことだ、毬藻君」
「毬藻じゃねえ」
「うおっ!?」

 いきなり後ろから声がして、軽く椅子から飛び上がってしまった。

「悪い、驚かせたか」

 ちょっと皮肉に見える笑みを浮かべた男が立っていた。

「話は聞いていた。そいつの顔が分かればいいんだろ?」
「あ、ああ。頼めるか?」
「俺は構わねえが」
「おいおい、最終的に決めるのは俺だ。まず現場を見てからだな。こいつを使うかは、それからだ」
「なあ、なんでそんなに慎重なんだ? 最初から連れて行けばいいじゃねえか」
「あ? 連れて行くよ。ただ、姿を見せないだけだ。だって考えてもみろよ。まっ昼間のお天道様の照らす中に亡霊なんて、世間一般の夢を壊すじゃねえか。おまけにこの風貌だぜ。この世のものとは思えない神秘性の欠片もねえ」
「じゃあテメエこそ黒いマントをすっぽり被りやがれ。ついでに箒も持ってな。そうすれば、魔法使いに見えなくもねえんじゃねえか?」
「そんなビジュアルに頼らなくても、俺様は立派な魔法使いなんだよ! それにそんなファッションセンス、耐えられるか! 箒なんざ以ての外だ!」
「世間一般の夢を壊しちゃならねえんだろ? 魔法使いらしくしたらギャラ入るんじゃねえか?」
「亡霊が金か!?金の亡者か、テメエ」
「ボランティアに文句つけてるのはテメエだろうが! 毎回その愚痴を聞かされる身にもなってみやがれ!」
「ご主人様に偉そうじゃねえか」
「だれがご主人様だ」
「俺以外に誰がいる。オラ、『ご主人様』って呼んでみな」
「テメエが俺を『師匠』って呼んだら呼んでやろうか?」
「誰が言うか!」
「えーと、とりあえず、いいか?」
「「あ」」

 捜査協力から知り合ったサンジとウソップだが、初対面から妙に気が合い、プライベートでもよく付き合うようになった。今ではもう一番親しい友人なんじゃないかと思う。そしてそれは、決して一方的なものではない。ウソップがゾロの正体を知っていることがその証だ。サンジがゾロを亡霊だと紹介したのは、ウソップが初めてだった。
 ウソップは、サンジが本物の魔法使いだと今はもう信じている。信じているというより、ちゃんと分かっている。そして、壁を通り抜けるところを見せてもらったり、触れないことを試させてもらっているから、ゾロが亡霊だということも分かっている。そして、さっきの髑髏がゾロの住処で、それが一層亡霊だということを実感させる。
 大概黒いスーツを着て店に立つサンジは、透けるような白い肌に見事な金髪、身のこなしは実に優雅で、魔法使いというよりは紳士、はたまた一流の執事のようだ。但し女性限定だが。一方のゾロは、Tシャツにカーゴパンツというようなラフな格好がほとんどで、体躯は服の上からでもはっきり分かるほどに鍛えられている。こんな2人の風貌で、誰が魔法使いと亡霊などと信じるだろうか。
 だが、何よりも、毎回のように見せられるその辺のチンピラ同士のそれと何ら変わるところがないこのやりとりが、一番世間一般のイメージから掛け離れているんだと、ウソップは常々思っている。勿論口には出さないが。

「いつ出られる?」
「いつでも。そっちの都合に合わせるぞ」
「店は?」
「臨時休業だ。個人経営の利点だな」
「じゃあ、すぐに。現場と遺体安置所、どっちから行く?」
「現場を見て、それから遺体とご対面といこうか」
「了解。手配するな、ありがとうよ」
「おう。じゃあこっちも準備するよ」

 そう言って、ウソップは携帯を取り出し、サンジは奥の部屋へと入っていった。ゾロの姿はいつの間にか消えていた。
















「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -