equivocal(1) [10.03.12.]
お似合いだなあなんて、不覚にも思っちまった。
「こんなに可愛い女の子連れなんて生意気じゃねえか」
「練習試合の打ち合わせだったんだから仕方ねえだろ」
「先輩一人だと、絶対たどり着けないですから」
「レディは迷子の付き添いかい?」
「そうなんですよ」
「……おい」
「だってそうじゃないですか。せっかく部活休みだったのに」
「ちょうどよかったじゃねえか」
「何がです」
「聞きてえこと、あるんだろ」
「あ! そうでした! じゃあ、この方が?」
「俺?」
「あの、あの……誕生日プレゼントに何を貰ったら嬉しいですか?」
「こんな可愛いレディからなんて、その笑顔が一番だよ〜♪」
「アホか」
「あ?」
「お前へのじゃねえ。説明もすっ飛ばし過ぎだ」
「ああっ、すみません! 私、そそっかしくて」
「そんなところも君の魅力だよ」
「自分に降り懸からねえからな」
「迷子が偉そうな口きくんじゃねえ」
「迷子じゃねえ」
「彼女のお陰だろうが」
「あの……」
「ああ! ごめんね〜」
「コイツの付き合ってる奴が、てめえと同い年でヘビースモーカーなんだよ。来週誕生日だから、何かやりてえんだとよ」
「でも、何がいいか分からなくて」
……彼氏?
あ、毬藻の意味深な目線。ムカつく。無視だ、無視!
ええと、年下の彼女が選んでくれるプレゼントだっけ。
「自分のことを想って選んでくれたってことが嬉しいものだよ。これだけ年が離れてれば尚更さ」
「そうでしょうか」
「そうだよ。こんなに可愛い彼女だ。しかも自分はいい年で、君はまだ高校生。内心不安なものさ。だから、君の気持ちが何よりなのさ。ちょっと失礼」
客が増えてくる時間か。ゆっくり相談に乗ってやれないな。
同じ月に生まれて同い年で同じヘビースモーカーで同じ年下に惚れて。
違うのは、かたや彼女を手に入れていて、かたや男に片恋中。
くそったれ!
あれ?
「帰っちゃうの? ご馳走するよ」
「ありがとうございます。せっかくだから、ちょっとお店を回ってきたいと思って」
「そうか。でも時間が時間だからね。気をつけて」
「はい。今度是非食べに来ますね」
「心からお待ちしてま〜す♪」
ああ、可愛い笑顔! 恋するレディは素敵だなぁ。
「で、何でテメエはそこにいる?」
「邪魔にならねえように」
「テメエが言っても可愛くねえ。彼女一人で行かせたのか」
「何で付き合わなきゃならねえんだよ」
「迷子防止で付き合ってくれたんだろうが」
「ここに連れてきてやっただろ」
「こんな時間にレディを一人歩きさせるとは」
「一緒に行った方がよかったか?」
ちょうど来客だ。聞こえねえよ。
ディナータイムが始まりそうだな。毬藻の相手なんかしてられねえっての。
「なあ」
「あ? 仕事中だ、忙しくてテメエの相手なんざしてられねえ」
「まだ序の口だろ。夜は、メニューに載ってるやつ、全部注文できるのか?」
「材料が尽きなければな」
「今日のお薦めは?」
「全部に決まってんだろ」
「……中でもイチ押しは?」
「ビーフシチューと、春野菜のバーニャカウダかな」
コイツから料理のことを聞かれるのは初めてだな。
ひょっとして。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
二度目の姿。詰め襟を脱いでのエプロン姿は、デニムの時よりギャルソンらしい。
誕生日プレゼントだと思っていいんだろうか。
別に誕生日だからって特別な思いはなかったけど、こんな嬉しいものだったっけ。
プレゼントはやっぱり物や値段じゃないよ、レディ。
今夜は特別美味しい料理を作れそうだ。
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