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CAFE (1) [10.01.20.]


 それは、コンクリート打ちっ放しの外観に植木の映えるモダンの店構えの、小さなカフェだった。
 テラスのテーブルにいるリスに誘われて、サンジはゆっくり階段を上った。あと一段という所で、リスはすぐ側の木に登ってしまった。
 残念。小さなレディとご一緒したかったな〜と呟きつつ、一人で外のテーブルにつくのもちょっとなあと、赤い縁取りのドアを開けた。


* * * * *



 カウンターとテーブルが3つの、シンプルモダンな小さな店だが、各テーブルには小さな花が生けてあり、心地よい暖かさを感じさせた。
 昼にもティータイムにも中途半端な時間。店内には客はいなかったが、サンジは景色のいい窓の側ではなく、一番奥まった席に座った。
 その席のすぐ横には、ケーキの小さなウィンドウがあった。
 レアチーズ、季節のフルーツのシフォン、そして洋梨のケーキの3種類。
 サンジは紅茶とそれを全て頼んだ。
 程なくテーブルにケーキが並べられた。
 紅茶を一口飲み、驚いた。失礼だが、こんな所でこれほど美味しく淹れた紅茶が飲めるとは。

「これは貴女が?」
「ええ」

 黒髪の女主人はにっこり微笑んだ。それだけで、お互いの腕が知れた。

「紅茶とケーキは特別なの。お茶はいくらでもお代わりしてね」

 優雅な仕草で促され、サンジは一つずつゆっくりと味わった。
 食べている間はカウンターの中にいながら、カップの中がなくなりそうになると、すっとお代わりを注いでくれる。決して邪魔をせず、流れるような仕草。お陰でサンジは、驚きと嬉しさにどっぷり浸かっていられた。


* * * * *



「お口に合ったかしら?」
「ええ、見つけました」
「見つけた?」
「あ! すみません! 実は俺、今度自分の店を出すんです。そこでケーキも出したいんですけど、俺はパティシエじゃなくてコックなんです。だから、一緒にやってほしいパティシエを捜してて」
「『やってくれる』ではなくて、『やってほしい』なのね」
「ええ。俺の店ですから」
「でも、ケーキはこの3種類しか作れないわよ」
「充分です。素朴で、何となく自分でも作れそうっていう暖かな手作り感があって。でも、絶対に自宅では作れない、プロの技術と工夫が隠されてる。俺は、家庭的な洋食屋を作りたいんです。でも、しっかりとプロのこだわりと味を提供したい。そのスタンスに、これはぴったりだ。ずっといろんな店を巡って来たけど、こんなに理想そのもののケーキを見つけられるなんて、これはもう運命と言いたくなる」

 話ながら、だんだんと興奮を押さえられなくなるのを自覚しながら、それでも止められなかった。
 サンジは姿勢を正し、真っ直ぐに女主人を見た。

「俺の店に来ていただけませんか?」
「素敵なお話だけれど、それを作っているのは私ではないのよ」
「え?」
「私の弟よ」
「じゃあ、弟さんに会わせていただけませんか? 運命の出会いがレディの作ったものではないのは残念ですが、やっと見つけたんです!」
「それは構わないけれど……」

 思わず女主人の手を握りしめながら、必死に懇願していた、その時。

「汚ねえ手で触ってんじゃねえ」
「あ?」

 声のする方に視線をやると、詰め襟の制服に剣道の道具を担いだ、鋭い目つきの男がいた。

「今、俺の一生で一番大事なお願いをさせていただいてるところだ。ガキは黙ってろ!」
「離せ」

 男は、持っていた竹刀でサンジの手だけを叩いた。

「てめえ! コックの命に何しやがる!!」
「だったら忠告を素直に聞きゃあいいだろ。そんなに大事なら、叩かれる前に気配で分かれ」
「ああ!?」

 正に喧嘩が始まりそうになったところで、女主人が口を開いた。

「お帰りなさい。ちょうどいいところに。こちらのコックさんが、あなたに会いたがってたのよ」
「「あ?」」
「コックさん、この子が私の弟で、このケーキを焼いているの」

「……!」

 もういろいろびっくりし過ぎて、何て言っていいか分からない。声すら出ない。温かみがあって優しい繊細なケーキを作ったのは、このふてぶてしくて、がさつで乱暴な、この男なのか!

「俺が作って悪いかよ」
「コックさん、ご自分のレストランで出すケーキを探しているんですって。今あなたのケーキを召し上がったところなんだけれど、とっても気に入ってくださったの」
「そりゃどうも」

 そのまま荷物を持ち直し、きびすを返し、店を出て行った。

「コックさん?」

 女主人の声に、ハッと我に返った。

「本当に本当に本当に本当ーーーに、これをヤツが!?」
「ええ」

 その微笑みに嘘はないだろう。じゃあ本当に、ケーキを作るどころか食べもしないだろうと思われるような、あの緑男が。しかも学ランってことは、まだガキじゃねえか。
 ……学ラン!?


→(2)












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