Birthday cake [10.03.05.]
「おはよう、ロビンちゃん。今日も素敵だね♪」
「おはよう、コックさん。いい天気ね」
「デート日和だ」
「そうね」
「くそう、フランキーの奴、変態のくせにロビンちゃんみたいな美しくも聡明な女性のハートを手に入れるとは!」
「ありがとう。でも、そういう誉め言葉は好きな人だけにした方が効果的よ」
「うーん、それが一番難しい」
「その人だけに言うのは無理?」
「いや、誉め言葉じゃない言葉になっちまう」
「毬藻は誉め言葉とは違うわね」
「嫌がらせだよね」
二人は目を合わせて笑った。
「でも、嫌ってはいないわよ」
「ありがとう。でも、好かれてもいないよ。そもそも本気だと思われてないからね」
「そうかしら」
「女の子大好きなのは事実だし」
「改めたら?」
「出来ると思う?」
「無理そうね」
「無理だろうね」
また二人で笑った。
「今日のケーキはこれで全部よ」
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
納品を済ませると、サンジが真剣な顔を誤魔化す笑顔で尋ねた。
「ロビンちゃんは、嫌じゃないの?」
「何が?」
「……弟が男に口説かれてるんだよ」
「そうね」
手を頬に当て、ちょっと首を傾げて言った。
「弟の人を見る目を信じているし、自分の目も信じているわ。それに、あの理解されにくい弟の本質を見抜こうとして、多少なりとも理解した上で好きになってくれたあなたの目も」
「ありがとう」
「傍観しかできないけれど」
「十分だよ」
「私が反対したら、諦める?」
「どうだろう。でも、ゾロに拒否されるよりまいるかも」
「あら。私って、意外にキーパーソンだわ」
クスクスと笑うロビンの表情に、サンジは心が和らぐのを感じた。
「ありがとう、ロビンちゃん」
「今のその顔を見せて貰えたので十分」
「にやけてた?」
「いいえ、優しい素敵の笑顔よ。にやけ顔はこれから」
「え?」
「はい。お届けもの」
渡されたのは、白い小さなケーキの箱。
「いろいろ考えて、それになったみたい。イメージを味で表現できる技量はないから、せめて色はって。あの3種類以外のケーキって初めてなのよ。ね? 本気だってこと、あの子はちゃんと分かっているわ」
「ロビンちゃん……」
「一人の時に開けてあげて。何せ、初めてだから」
彼女にしては珍しい、ちょっといたずらな笑顔。
「ありがとう」
「Happy birthday」
にっこり笑って、ロビンは店を後にした。
小さな箱を、一人厨房で開けてみる。
小さな蜂蜜色のタルトタタン。
飴細工のバースデープレート。
「色って……こんなに綺麗な金色……」
呟き、片手で顔を覆った。
震えているのは、心臓だけだといい。
開店準備をしなきゃと思いながら、なかなか顔をあげることが出来なかった。
end.