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アイドルタイム(1) [11.12.08.]


「あれ? 今日は休みじゃないんだ」

 ドアを開けるなり、不躾なことを言われた。

「金曜は定休じゃねえよ」

 カウンターで何かを書いたまま、一度だけチラッと視線を寄越した。

「臨時休業かなあとね」

 カウンターに一番近いテーブルに腰を下ろすと、これまた不躾な視線でサンジを見やった。

「なんだよ」
「お昼ご飯食べたい」
「ランチタイムはとっくに終了しております」
「じゃあ夕飯で」
「まだ準備中です、クソお客様」
「サンジ〜」
「飯目当てじゃねえんだろうが、エロオヤジ」
「俺がエロオヤジならサンジもだろ」
「俺はダンディーなオジサマにはなっても、オヤジにはならねえよ」
「エロは否定しないんだ」
「愛に溢れてるんでね」
「あ〜あ、やだね。愛に飢えたエロオヤジは、腹減って倒れそうなんだけど。マジで何か食わせて」

 そこで漸くサンジはエースの顔をまじまじと見た。

「仕事に没頭するのはいいが、ちゃんと限度を弁えろよ」
「だから倒れる前にここに来ただろ」

 サンジはノートを閉じて立ち上がり、キッチンへと向かった。

「何食う?」
「肉」
「生肉でいいか?」
「サンジの飯なら何でもいいよ」
「全く。とにかく量だろ」
「そこは否定できねえな」

 くくっと笑いながら料理に取り掛かると、あっという間にエースの好物がテーブルに並べられた。

「美味そう! いただきまーす」

 言い終わる前には既に口いっぱいに肉を頬張っているのは、毎度のことだ。呆れつつも、相変わらずな様子にはやっぱり安心するものだと、自分に入れた紅茶を飲んだ。

「しかし、元気だな」
「あ?」
「ハニー君の誕生日だろ、今日」
「ハニー君……そうだけど」

 サンジは、その響きにげんなりした顔で答えた。

「溢れんばかりの愛で、ふらふらになってると思ったんだよ」

 にやんとした含みのある笑顔を向けられ、嫌そうな顔をした。

「本っ当にエロオヤジだな」
「サンジの幸せを願ってるだけだろ。何、もうソッチはあれなわけ?」
「そんなわけねえだろ」
「乙女なサンジ君は、19になる瞬間を一緒に〜とか……ねえな」
「ねえよ」
「意外に男前だからな」
「仕事に支障を来してたまるか」

 憮然と言い放つ様子に、エースは明るい声で笑った。

「幸せなら何よりだ」

 不遜なようで実は気を回しすぎる男に対して、いつも心配が先に立ってしまう。今回帰国して再会した時に、その表情と雰囲気に、驚きよりも安心と嬉しさをを感じたものだ。

「で?」
「あ?」
「ハニー君、来るんだろ? 何時頃?」

 そろそろかなと言いながらドアの方を見たサンジの視線が何かをとらえたようで、煙草を挟んだ指をちょいちょいと動かし、呼び寄せる仕草をした。
 振り向くと、緑の短髪の青年が入ってきた。
 物怖じしないが不躾でもない視線が、結構好印象だ。それでいて、嫉妬というより独占欲を少し滲ませているところなんかもう。

「若いねぇ」

 からかう様にエースが言う。コートを脱ぎもせずに近づいてくる姿に、サンジは苦笑する。

「よう、お疲れ」
「ああ」
「や〜っと会えた。思っていた以上にいい男で嬉しいよ、ハニー君」

 眉間にぐっと皺が寄せられる。初対面の人間にここまであからさまな表情をするのは珍しい。

「俺がハニーって言うからだ。まあ許してやってくれ」

 くくっと笑いながら、皺を伸ばすように眉間を指でグリグリと触れると、ゾロは痛えと言ってその指を掴んだ。

「何飲む?」
「エスプレッソ」
「はいよ。ここ座ってろ。エースの挑発に乗るなよ」

 立ち上がり、ゾロの脱いだコートを受け取り、キッチンへ入っていった。

「ふーん」

 サンジの後ろ姿を意味ありげに見るエースを、ゾロは片方の眉を上げて見る。


→(2)












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