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Another universe(1) [11.11.17.]


 時として、過ぎる才能は狂気と紙一重だ。
 その天才科学者は、正しくそれだった。
 その頭脳は幼い頃から群を抜き、幼い故に容認された発想も、その成果を伴うことで批判や懸念を返り討ちにしてきた。だが、それも他の科学者の頭脳が追いつける次元のものであるうちのことだった。理解できる者が1人減り、2人減り……と脱落していく。そして、誰1人彼についていけなくなった時、その才能は狂気とみなされ、彼は国家機関の監視下に置かれながら病院へ閉じ込められた。


* * * * *



 その2年後。
 あまりに不可解な事件が世間を騒がせていた。
 連続銀行強盗事件。しかし、強盗といっても、誰も何も傷一つ付けられていない。ただ忽然と金庫の中の金だけが消えているのだ。勿論証拠も残されてはいない。密室殺人ならぬ密室強盗と言うべきか。これまでに既に9件。
 だが、10件目にして、初めて痕跡が残された。犯人の1人の遺体である。だが、それは事件を一段と複雑怪奇なものとするのに十分だった。その遺体は、壁を通り抜ける途中の様相で見つかった。つまり、上半身は金庫の側面の外で、下半身は金庫の中にあったのだ。
 科学捜査を進めている中で、ある研究者から一つの情報が得られた。その事例の参考になるような研究論文の存在を聞いたことがあるというものだった。
 その論文の存在は事実で、世界的に有力なとある企業が所有していた。
 しかし、その企業のトップは、その論文を提出することを拒み、それどころか国家レベルで取り引きを持ち掛けた。即ち、論文を提出する上に事件解決に協力する代わりに、その論文を書いた科学者を引き渡すよう要求してきた。
 そのあまりにも上からな態度に、担当刑事らは激怒したが、どうにも理解できない事件であったために、とにもかくにもその科学者の手を借りることに渋々合意した。
 そうして、担当刑事が病院に科学者を迎えにいくと、そこには見事な金髪の青年が待っていた。

「久々に煙草が吸いてえんだ。さっさと出しやがれ」

 老齢なマッドサイエンティストな風貌を想像していた刑事達は面食らった。

「ああ、間違いなく天才は俺だ。だから、さっさとしろって言ってんだ。ナミさんをお待たせするんじゃねえ」

 あっけに取られたまま、とにかく退院手続きを済ませ、まずは取り引き相手の企業へと向かった。

「ナミさーん! おお! 歳月が一層貴女を美しくさせたんだね。天使かと思ったよ」

 相変わらずねえと、2年振りの再会にもそっけない態度の彼女は、そんな科学者を綺麗にスルーして、担当刑事に事件の内容を話すよう促した。こんな若くてふざけた態度の男が天才科学者とは信じきれない刑事達は、とりあえず説明の出来ない犯人の様子を話した。
 すると、なんだそんなことかよと、こともなげに天才科学者は言った。あまりに簡単な様子に、また刑事達は半信半疑な態度を取ると、仕方ねえと、グラスに小石を8分目に入れ、その上にライターを置いた。

「いろいろ説明したって分からねえだろ。見てろ」

 そういうと、そのグラスを中身がこぼれない程度に小刻みに震わせた。すると、少しずつライターが小石の中に入っていった。

「要は、こういうことだ。ガキの頃、砂遊びとかやらなかったか? この小石が金庫の壁で、ライターが犯人だ。犯人を中心に半径1m位のところに何かを固定した跡があるはずだ。恐らく6ヶ所。同心円周上にな。で、その内側には特殊な金属の輪を貼り付けたあとが……、あー、分かんねえか。円状に水の触れた形跡がある。その円の内部に振動を与え、通り抜けられるようにしただけだ」

 刑事の1人は、現場に科学捜査班を向かわせ、痕跡を探すよう指示した。だが、その刑事も含めて、話を聞いていた刑事達は、なんとも納得できかねるような意見を口にする。

「納得できねえなら、ナミさんが渡した論文を読め。納得できねえんじゃなくて、理解できねえんだろ? 言葉くれえ正しく使えよ。まあ、安心しろ。普通は理解できねえから。国に許可さえ取ってくれりゃあ、その装置を作ってやるよ。その目で見るのが一番だろ?」

 天才というのは、人の気持ちを逆撫でせずにはいられないものなのかと思いながら、刑事達は上へ話を上げ、さらに上へ上へと話は伝わり、装置を作る許可が出た。

「ご苦労さん。じゃあ、俺のラボの使用許可も勿論取ってあるよな?」

 返された言葉に何故と疑問と、今度は何だという気持ちが表情に出てしまう。

「は? そっちが構わねえならナミさんの会社の研究施設を使わせていただくけどよ。但し、そうなると、データは全部蓄積されるぜ。国家機密に近いデータが実績として一般企業に渡されることになるんだが、構わねえんだな?」

 国家機密という言葉に慌てるたあ流石に公務員だよねと、こっそりナミに耳打ちするサンジは、とても天才科学者には見えない。2年振りのいたずらっ子のような笑顔に、ナミもつられて笑顔になった。
 先程と同様、話はどんどん上へあがり、ラボの使用許可もすぐにおりたが、代わりにオマケもついてきた。どこの所属かさえ分からない様な相当上部からの監視役だ。
 だが、そんな者達には目もくれず、サンジはラボに到着すると、さっさと設備の確認を始めた。同時に、1人の男が訪れた。

「ウソップ! 久しぶりだなあ。アシスタントについてくれるのか。ありがてえ。それじゃ、早速で悪いが、機器の点検を頼む。俺は設計図を描いちまうからよ。あ、てめえらは何も触るなよ。勝手に触って危ない目に合っても保障はしねえぞ。ウソップ以外は絶対触るな」

 ウソップと呼ばれたナミの会社の技術屋は、勝手知ったる様子でテキパキと作業をこなしていった。そして、サンジは1人紙に何かを描き始めた。
 1時間ほどして、点検が終わり、サンジのペンも止まった。

「タイミングぴったりだな。こっちも終わった。これでいけるか?」

 ウソップは、今描かれたばかりの図面に目を通すと、幾つか質問をし、サンジがそれに答えていった。

「じゃあ、それで頼む。俺は少し出てくるから、よろしくな」

 出てくるという言葉に、刑事達が怪訝な顔をした。

「墓参りに行きてえんだけど、連れていってもらえねえか?」

 告げられたのは、国家に忠誠を誓って亡くなったり、その繁栄に尽力した人物が埋葬されている墓地だった。
 刑事と監視役が1人ずつ同行する形で、サンジは墓地へ向かった。


→(2)












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