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The wizard(61) [10.04.08.〜]


「駄目だ。約束したって言っただろ?」
「黙ってたら分からねえよ」
「そういうズルは、ゾロは一番嫌うだろ?」

 ルフィの言い方に、サンジはさっきとは違う感情からむっとする。

「俺だけちょっと覗くのは? おれは普通の人間だし」
「うーん、そうだなあ」

 ウソップの申し出に、ちょっと考えるルフィ。

「やっぱ駄目だろ」
「何で?」
「なんとなく」
「なんとなくって……」
「じゃあ、勘」
「いや、大して変わってねえよ!」
「そうかあ? まあ、とにかく駄目なもんは駄目だ。あいつ怒らせると面倒だしよ」

 懐柔しやすそうでなかなかの頑固者らしい。まあ、あの約束馬鹿の友人みてえだからそんなもんだろうと思う反面、やはり見たい。
 それにしても、異空間にさえ影響を与えている情況下で、ゾロは大丈夫なんだろうか。魔法を振るった当人なんだから大丈夫だろうとは思いつつも、やはり心配してしまう。完全な肉体ではない身でこれだけのことをしているんだから、心配もするだろうと、誰に対してでもなく自分の内で言い訳してしまう。
 長い間凍っていた肉体。それを無理矢理起こされ、昏睡状態のような体に憑り付き、動いている状態だ。それで空間を揺るがすほどの魔法を使って、果たして体は耐えられるんだろうか。
そう思って、唐突に疑問が生じた。
 あいつは、本当に憑り付いているだけなのか? そんな状態で、そもそもあれほどの魔法を使えるのか? 体が慣れるだけの時間が必要だったと言ったが、単にそれはルフィが某かの悪魔をぶっ倒すのを待っていただけなんじゃないのか?
 生き返るには、悪魔と契約しなければならない。それもかなりの代償と引き換えだ。その情報は瞬く間に広まるもんだ。誰にも知られずに死者を生き返らせることはできない。
 魔法で生き返らせる方法は、ゾロしか知らないはずだ。
 だから、あり得ない。そのはずだ。
 まさかとは思う、だけど、ひょっとしたら―――。

「光が小さくなっていく」

 ルフィが呟いた。一同の視線がルフィに集まる。

「すげー! 本当に生き返った!!」

 素直に感嘆の声を上げるルフィと対照的に、サンジとエース、そしてウソップには緊張が走る。アルビダは、どこか夢見るような表情をしていた。
 そして、先ほどの比ではない衝撃が襲う。
「うわ!」
「ルフィ!」
「大丈夫だ。エース、ウソップごと結界張ってくれ。サンジは自分だけ守れ。アルビダは……何も言われてねえから分かんねえや」
「てめえ、レディに何ていい草だ!」
「自分の身くらい自分で守れるわ」
「ああ、さすがお姉様♪」
「お前、面白えな」
「ああ!?」
「ルフィ! 向こうはどうなってるんだ?」
「ワニとゾロが闘ってる。ワニの野郎、あれは魔法だけの力じゃねえぞ」
「何だって? アルビダ、何か知っていたら話してもらおうか」
「あら、何故私が……」

 エースに応えようと視線を流したが、その烈火の様な瞳に思わず恐怖を覚えた。

「話してもらおうか」
「あ……クロコダイル卿のあの腕は、魔法だけでできたものではないという話が……」
「ルフィ! 分かるか?」
「うーん、難しいことは分かんねえけど……でも、なんか変な感じはするぞ。ワニの腕が斬った跡は変な感じだ」
「な、なあ、本当に生き返ったのか? さっきまでと何が違うんだ?」

 ウソップがエースの後ろに隠れながらルフィに問うた。

「俺達は人間じゃねえから感じるんだ。人間かそうじゃねえかは、一目で分かる。一目っていうか、匂いっつうか、何だ、分かんねえけど、とにかく分かるんだ。すげーだろ」

 こんな雰囲気にそぐわないような得意げな顔でウソップを見返すが。

「分かんねえばっかりじゃねえか!!」
「小難しいことはどうでもいいんだよ、俺は」

 けろっとして受け流したところに、今度はエースが問う。

「じゃあ、今のゾロはどっちだ?」
「ゾロはゾロだって言っただろうが!!」

 ルフィが答えるより早く、サンジが叫んだ。

「そうだ。ゾロはゾロだ」

 ニシシと満面の笑顔でルフィも答えた。
 ああ、こいつはきっとずっと昔からゾロを知っているんだなとサンジは思った。よかった。少なくとも一人ぼっちではなかった。相手は魔物だけれど、それでも一人ぼっちではなかったんだと、少しほっとした。
 だが、そんな会話をしている余裕はなくなってきた。
 衝撃は激しさを増す。ラップ音のような音がする。

「何だ、この音は」

 ウソップが不安げな声を上げた。

「空間が軋んでる音だ。滅多に聞けねえぞ」
「そんなレアなもん、嬉しかねえよ!」
「うおっ、やべえ! こっちの空間を閉じるぞ! 本物の方に放り出されっから! できるだけあいつらからの衝撃を防ぐ! 耐えろよ!!」

 ルフィが叫ぶと、空間が歪み、霧のように薄れるのと反比例するように、重力が掛かる。そして、完全に異空間が消えると同時に重力も消え、投げ出されるような感覚を覚えた。
 次の瞬間、ルフィの背後からものすごい衝撃波が襲いかかってきた。
 ルフィの負担を軽減すべく、サンジとエースは急いで魔法陣を描き、そうしてやっと周囲を見られる状況にまで押さえ込む。

「ゾロ……!!」

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