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The wizard(59) [10.04.08.〜]


 これまでも不機嫌な声や怒った言い草は山程聞いてきた。だが、ここまで凍りつくような声は初めて聞いた。ゾロの本気な怒号というのはこういうものなのかと、場違いなことを思ってしまった。周りは皆気圧されたように動かない。それを傍観するような自分が不思議だ。

「……言うじゃねえか。不自然な肉体に取り付いているだけの亡霊が」

 一瞬でも飲まれたようになった自分に舌打ちをして、クロコダイルが悪態をつく。

「その亡霊に頼って生き返りてえんだろ。くだらねえこと言ってるんじゃねえ」

 何の感情も見出せないような冷たい声でそう言い放つと、ゾロはサンジのほうを見やった。

「おい、そのスティック、寄越せ」
「あ?」
「スティック」
「何でだよ」
「使うから」
「何に」
「こいつをちゃんと生き返らせるに決まってんだろ」
「まだ完全じゃねえのか? ちんたらやってるんじゃねえよ!」
「じゃあさっさと寄越せ!」
「何で俺のを貸さなきゃなんねえんだよ。そこに3本あるだろうが!」
「これじゃねえんだよ」
「あ?」

 腰から外した黒い刀をサンジに向かって投げた。咄嗟に片手を伸ばして受け取ると、その隙にスティックをゾロの元へと引き寄せられてしまった。

「何しやがる!」
「それも十分てめえの‘杖’になる」
「これはてめえの‘杖’の1本なんだろうが」
「昔な」

 その言い草に、なんとなくその剣を抜いてみると、そこには刀身がなかった。
 さっきまでクロコダイルと遣り合っていた時、確かに刀身はあったはずだ。

「終わったら、返す」

 そう言うと、スティックは先程の様に光を放ち、それが鎮まった時にはその姿を変えていた。

「まさか、秋水……!!」

 その本来の姿を見てエースが思わず口にしたのは、やはり伝説と化した剣の名だった。
 その呟きを聞いたのか、ゾロはニヤリと口角を上げた。

「一応油断はするんじゃねえぞ」

 そうサンジに向かって言い放つと、反論の隙すら与えない程に間髪を入れずに叫んだ。

「ルフィ! 頼む!」
「おう!」

 応じると同時に、その腕がゴムのように伸び、エースとウソップとサンジを左腕に、残りの魔法使いとアルビダを右手に絡めとると、周囲の空間がルフィの背後から別空間に囲まれ始めた。
「何しやがる!」

 ルフィの作り出す異空間には、ゾロとクロコダイルは取り込まれずにいることを察知したサンジが、その拘束から逃れようと暴れるが、ルフィの腕はびくともしない。

「駄目だ。特にお前らには見せられねえ」
「知るかっ!! 離しやがれ!!」
「ゾロは見せるなって言ったから、駄目だ」
「うるせえっ!! ゾロ!!」

 あっと言う間にすっかり空間は隔離され、もはやどちらが別空間なのかも分からなくなった。
 サンジの抵抗も止み、ルフィは腕を放した。

「ゾロは、特にサンジとエースには絶対見せるなって言われたんだ」

 サンジは聞こえているのかどうか、ゾロがいた方をただ見つめている。
 それをチラッと見てから、エースが聞いた。

「それは、禁忌の魔法を使うからか?」
「知らねえ。俺は魔法のことは分かんねえしな」
「ええと、君は魔法使いじゃなくて悪魔なのか?」
「おう! 俺はトリックスターだ。お前も魔物か?」
「俺は普通の人間だ」
「その鼻で?」
「うっせえ!!」
「ルフィ、ウソップはナミちゃんの同僚だよ」
「あー、お前がウソップか。いい奴なんだってな♪ ナミが言ってたぞ」
「ナミが? そりゃあ……って、お前、ナミの知り合いか?」
「あ、でも、俺がトリックスターだっていうことは内緒だから、ナミには言うなよ」
「ナミちゃんは、単に大食らいの子猿程度に思ってるから」
「猿じゃねえ!」
「で、俺の弟だってことになってるから、そこのところ、適当に話合わせておいてね」

 場違いなくらい緊張感のない話になってきているところに、サンジが割って入った。

「おい、クソガキ。俺をここから出せ」
「嫌だ」
「てめえの意向は聞いてねえ」
「俺もお前の言うことは聞いてねえ」
「ああ?」
「ゾロと『約束』したからな。あいつ、約束破ると、恐えから、やだ」
「トリックスターがたかだか亡霊を恐がってんなよ。トリックで誤魔化しゃいいだろうが」
「ああ、それ、無理だ。ゾロ、めちゃくちゃだからな。トリックの空間ごと斬り捨てるから、ぜっっっっってーバレる」
「空間ごと斬るって……」

 思いっきり力を入れて、とんでもないことを言い放つ。なまじいろいろな知識を持つ分だけ、エースの反応が一番呆然としたものだった。「めちゃくちゃだろ? そんで、すっげー馬鹿」

 そういって、サンジを見ながら笑った。



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