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The wizard(58) [10.04.08.〜]


「きゃああ!!」

 アルビダが弾かれるようにスティックから手を離し、距離を置いた。

「この俺が、レディのお望みのままにして差し上げられないとは。心が引き裂かれる思いです」
「サンジ、やるじゃねえか。お前が女に攻撃できるとは思わなかったぜ」
「アホか! 俺は死んでもレディに攻撃なんかできねえよ」
「今したじゃねえか!」
「してねえよ。このスティックには聖水が混ざってるから、お姉様は長時間触れられねえで、弾かれちまうだけだ。でもって、攻撃はできねえけど身を守んなきゃなんねえから俺の周囲に結界を張っただけだ。ああ、お姉様、お怪我はありませんか?」

 そう言い放すサンジは、先程のような冷たく綺麗な笑みではなく、いつもの偉そうなチンピラまがいの態度と不遜な表情を浮かべていた。
 話を振られ、笑みに呆然としていたアルビダも、はっと我に返った。

「ええ。怪我はしていないけれど、びっくりしたわ」

 何とか気を取り直し、妖艶な様でサンジを誘う。

「ああ、お姉様。できることならそのお誘いに身を委ねたい〜」
「今からでも遅くはなくてよ」
「でも、お姉様は俺を野郎に渡す気でしょう? 俺は野郎に用はねえ」
「あら、大丈夫よ。貴方の意識があるうちには渡さないわ。貴方にあるのは私との官能の時間だけよ」
「それが本当なら……と言いたいところなんですが、本当に残念でなりません。そのお誘いをお受けするには、貴方は為さってはならないことをされた」
「どうあっても防御は解いてもらえないのね」
「ええ、申し訳ありません、レディ」

 アルビダは、いつものようにメロメロなサンジの瞳の視線の中に、冷えたものを感じ取っていた。
 その時。

「ゾーローーー! こっちは片付いたぜー!!」

 明るい大声と共に、部屋の天井の一角から異空間が現れた。そして、そこからひょこっと黒髪の少年が顔を出した。

「ルフィ!」

 その名を、エースが呼んだ。

「あれ、エース。久しぶりだなあ♪」

 反応したのはエースだけではなかった。

「何でトリックスターが出張ってきやがる!!」
「お前誰だ? あ! やべえ! 俺、内緒だったよな。悪い、ゾロ。忘れてた、ニシシ♪」
「ったく、テメエは相変わらずだな。まあいい。こっちもいい頃合だ」
「片付いたって……オイ、何をしやがった?」
「誰に聞いてる。俺か? ルフィか?」

 お互いに攻守の手を緩めないまま、ゾロはニヤリと笑った。

「お? お前がサンジか? 眉毛、おもしれー♪」
「うっせえ!! テメエは何なんだ!」
「俺はルフィだ!」
「知るかぁ!!」

 実も蓋もないルフィとサンジの会話にエースが口を挟んだ。

「ルフィはトリックスターだよ」
「この猿が?」
「猿じゃねえ!」

 今度は何だと、1人常識人ぶるウソップが聞いた。

「待て待て、トリックスターってのは何だ? エースの知り合いか?」
「まあね。その話は後だ。ルフィ、お前、何したんだ?」
「ゾロに頼まれて、エネルをぶっ飛ばしてきた。だから、もうサンジの心配はいらねえぞ」
「エネル? あの大悪魔か?」
「おう」
「それがサンジと何の関係があるんだ?」
「うーん、何だったかな、よく分かんねえけど、とにかくもう心配いらねえんだ」
「「分かるか!!」」

 威張っていうルフィに、思わずサンジとウソップが突っ込んだ。
 ただ、クロコダイルの反応は違った。チッと舌打ちをして、吐き捨てるように言った。

「偉そうなことを言いながら、使えねえやつだったな」
「フン、これで悪魔連中は使えなくなったな」
「あんなくだらねえ輩なんぞ、最初から大して当てにはしてねえよ」
「造反している魔法使いも使えねえ奴ばかりじゃねえのか」
「馬鹿は使いようなんでな」
「てめえが使いこなすからってか」
「それにな」

 自信に溢れた不敵な笑みを浮かべた。

「あの悪魔の器が必要なくなったってことは、プリンスを五体満足にしておく必要もなくなったってこった」
「何?」
「あれを餌にすりゃあ、使える悪魔くれえ山程釣れそうじゃねえか。極上の餌だ」
「ああ?」
「そうされたくなけりゃあ、さっさと俺を生き返らせろ。まだ完全じゃねえだろう? 妙にしっくりこねえと思っていたが、トリックスターが絡んでいやがるんなら納得がいく。いつまで幻影の中に閉じ込めておく気だ? 生き返らせさえすりゃあ、プリンスを餌にはしねえよ。『約束』だからな」
「その口からその言葉を聞きたくねえもんだな。焦るな。頃合だっつったろ。お粗末な魔法で薬で動かされた体にはなかなか力が馴染めなくてな。……望み通り『約束』を守ってやろうじゃねえか」

 そう言うと、振るっていた刀を全て鞘に収めた。

「ここはトリックの世界じゃねえ。‘本物’だ。夢の中じゃあ、生きるも死ぬも意味がねえ。てめえはちゃんと‘本物’の世界に生かしてやる」

 金の瞳からは何の感情も読み取れない。

「そして、そこで消え失せろ」

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