The wizard(55) [10.04.08.〜]
「まだ閉じるな。てめえが入ってこなくてどうする」
そういって、霊体の男を顎で指した。
「ほう、もうお呼びか」
「早くしろ」
「くくっ。俺も気が長え方じゃねえが、てめえも短えな」
そう言いながら、道を開けさせ、自分から中に入っていった。
男が目の前に来ると、ゾロは突き刺してあった赤い刀を引き抜き、棺の蓋を切り捨てた。
「てめえの死体に重なれ」
男は、その言い草が気に入らないというように顔を顰めるが、無言のまま自分の死体の上に同じ体勢で重なった。
ゾロは雪走と呼んだ刀を口に咥え、先ほどのように聞こえない程の小さな声で呪文を唱えると、突き刺していた白い刀も引き抜き、精神を統一するように目を瞑って刀を構えた。ゾロが不思議な気を纏った様に見えたと同時に、一陣の風が吹いた。
そして、目を開いたとき、その瞳は金色だった。
魔法使い達も、そして霊体の男さえ、目を見張った。
そのとき、ゾロは両の手に持った刀で死体の心臓を貫いた。瞬間、辺りは強烈な光に包まれた。
魔法使い達は、あまりの強さに弾かれ、後退った。
時間にすれば、ほんの数秒。しかし、光が消えても、呆然となったままだった。
そして、ゆっくりと棺の中から男が立ち上がった。
「これは魔力で甦らせた感じじゃねえな。純粋な魔法かどうかも疑わしいが、取りあえずさすが見事と言っておこうか」
憎々しいほどの言い方は、先程までの声と違い、しっかりと実体を伴って響いた。
ゾロは、何の感情も読み取れない金の瞳のまま男を見ていた。
そこに突然声が聞こえた。
「だから、ちょっと待てって!」
「うるせえ!!」
空間に魔法陣が浮かんび、そこからサンジが現れた。
「人の家で好き勝手やりやがって。プリンスのお出ましだ、出迎えぐらい丁重にしやがれ、クソ魔法使い共」
肩にホッケーのスティックを担ぎ、銜え煙草でチンピラよろしく周囲を見渡しながら不遜な態度で言い放つ。
思わず結界を緩めてしまい、あまつさえこの場へ踏み入れることをも許してしまったことに、魔法使い達に動揺が走った。
しかし、そんなものには目もくれず、サンジはその中心に目を止めた。誰もが反応した金の瞳には何の反応もせず、にやんと小馬鹿にしたような笑みを含みながら言った。
「ぷぷっ、仮装大会か?」
「あ?」
「似合わねえな、その格好。やっぱり毬藻には腹巻だろ」
「似合う似合わないの問題じゃねえ」
「いや、お洒落な俺としてはビジュアルにも拘るぞ」
「ビジュアルに拘った結果がスティックかよ」
「アイスホッケーは氷上の格闘技だぞ! どれだけレディがメロメロか知らねえのか?」
「プロになってから言え。そんなヒョロヒョロじゃあ吹っ飛ばされて終わりだろ」
「ああ? テメエこそそれは何だ? それがてめえの‘杖’か? 似非サムライか!」
「誰がだ! のこのこ出てきやがって、このアホアヒルが!」
その場にいた者は、あまりに場にそぐわない会話が喧嘩になりつつあるのをあっけに取られて見ていたが、実はサンジの後からこの場へと足を踏み入れていたエースとウソップは、また始まったかと呆れて顔を見合わせた。
「あー、君達、今そんな話をしてる場合かね」
「「ああ!?」」
恐ろしく柄の悪い2人が振り向いたが、ウソップの顔を見て、ようやく我に返った。
「ああ、そうだった。まずは馬鹿どもの相手が先だったな」
そういうと、サンジは煙草を深く吸い、煙を大きく吐き出した。
そして、その煙草が指からポロッと落ちた。
あ、と思った瞬間。
ゾロは2本の刀でたった今生き返らせた男に切り掛かり、サンジは一番近くにいた魔法使い達を蹴り倒し、エースは反射的にウソップに防御の魔方陣を張った。
金属同士がぶつかり合う派手な音を聞きながら、サンジは魔方陣を張り続けていた魔法使い達を次々と蹴り飛ばし、エースは魔法を使ってサンジに蹴り飛ばされた魔法使いを1人1人ロープで縛り上げた。そのときに、しっかり‘杖’も取り上げる。
サンジの荒業に、ウソップは防御の魔方陣の中から聞いた。
「何で魔法じゃなくて蹴り飛ばしたんだ?」
「ああ? 魔法より早え。軟弱な奴等ばっかりだしな」
「八つ当たりっぽく見えなくもない気がしないでもないんだけど」
「教育的指導ってやつだ。な、エース?」
「まあ、それでもいいんじゃない、この際」
「いいのかよ!!」
そう言っている間に、サンジは、エースが縛り上げた連中をスティックで描いた魔方陣の中央に集め、逆に封じ込めた。
「この程度の力量で加担しようとするなよ、クソ魔法使い共が」「……どうやら力を加減していたのは、ゾロだけじゃなかったようだ」
自分が封じた魔法使いに悪態をつくサンジを見つめながら、エースが小声で言った。
「あそこにいるのは、まあそれなりに実力はある連中だ。いくら‘杖’を取り上げたからといって、あの人数をまとめて封じ込められるなんて、俺は知らなかったよ」
「エース……それは、。サンジが隠していたっていうことか?」
「いや、どうだろう。隠していたっていうより、そこまで発揮する機会が今までなかっただけなのかもしれないな」
「確かに、そういう隠し事ができるタイプじゃねえよな」
「偉そうに自慢するならともかくね」
「ああ、すげえ威張る様子なら簡単に想像できるな」
「鼻! 何か言ったか?」
「鼻って呼ぶな!!」
サンジが2人の元へ歩いてきた。視線はゾロへ向けられたままに。
「エース、連中が張ってたあの魔方陣、壊してえ。1人でやるから、ウソップを守っててくれ」
「了解」
「へ? 危険なのか?」
「たいしたことねえよ。封じ込めに使われてた念が吹っ飛ぶだけだ」
「な、なんだ、そうか」
「ただし、あれだけ強固にパワー全開で張られていたものだからね、その衝撃波は結構強いよ。ということで、ウソップ、一応これ着てくれ」
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