The wizard(52) [10.04.08.〜]
「ゾロの事はまあ分かったとして、次は生き返らせる手段を知らないとだろ」
「お、分かったって、さすが敏腕刑事」
からかう口調でサンジが言うと、ウソップはお前も言うかという表情をした。
「分かってねえけど分かった事にしておくんだよ。先進まねえだろ」
「お前、いい奴だな。今度おごってやるよ」
「サンちゃん、サンちゃん、俺は?」
「エースにおごったら、破産するだろ」
「えーそんなあ」
本気でがっかりするエースに、ウソップとサンジは顔を見合わせて笑った。
「まあ、飯の話は後にして。続きを話してもらえるかい?」
「続き?」
「だから、お前の叔父さんを生き返らせる方法だよ」
「あー、毬藻が言うには、奴を完全に仕留める為に、斬る時だけ結界を張れねえから、その瞬間はなんとか切り抜けろだとよ」
一瞬の間が空いた。
「い、いやいや、サンジ君、ぶっ飛ばし過ぎないでくれたまえ」
「てめえ、誰だよ」
「誰だよじゃねえよ。ええと、生き返らせる前にゾロが叔父さんを倒すってことか?」
「いや、生き返らせてから、肉体諸とも葬るみてえだな」
「二度と出て来られないようにする為には、それが最善策だな。だから、まずクロコダイル卿を生き返らせるのは確実ってわけだ。で?」
エースが先を促すが。
「で? って?」
「サンちゃん、時間ないんだからさっさと話す!」
「そんなこと言われても、もう話すことなんかねえよ」
「肝心のことがまだだろうが」
思わずウソップが応じるが、サンジはスパーっと煙草を吹かしてしれっとしている。
「本当にさあ……そんなんだから、いつもお小言貰うんだよ」
「ジジイ共の愚痴なんて、いちいち聞いてられるか」
瞬間、エースの持つ指示棒が異様な伸び方をし、サンジの頭を叩いた。
「いってえな!」
「教育的指導だ」
エースの目には、有無を言わせない威圧感があった。穏やかな年長者的な面しか見せられてなかったウソップは、サンジの上司としてのエースの厳しさに、ちょっと面食らった。
そして、更に驚いた事に、叩かれたサンジはやり返さないばかりか、渋々な態度ながら、先に白状したのだ。
「……聞いてねえもんを話せるかよ」
「「は?」」
「だから、ゾロはそこんところは話してねえんだよ」
「おいおい、一番肝心な事だろ。そんな事分からねえ訳じゃねえよな」
「鼻が生意気な口聞いて……痛ぇっ!」
再び棒が伸びた。
「ウソップに当たるなよ。まあ、ゾロがいたのが短時間なら、話が聞けなくても仕方ないか。……サンちゃん?」
「あ、いや、まあ、俺も毬藻が連れて行かれた後に聞いてねえ事に気付いたからな。やっぱり俺も抜けてたよ。悪い」
「状況が状況だ。仕方ねえだろ。反省は事件解決後にするんだな。今出来る事に全力を尽くそうぜ」
「それが敏腕刑事たるコツか?」
「まあな」
軽口を叩くようにしてサンジを励ますウソップとは対象的なエースの生暖かい視線に、サンジは精一杯のポーカーフェイスを繕う。
「サンちゃん、それどうしたんだ? 虫さされ?」
思わず反応しかけたが、指がピクリと動いただけで、これまた精一杯抑え込む。跡はゾロが隠した。自分でも確認した。大丈夫、エースには見えてねえはずだ。
「何かなってるか? ずっと使ってねえベッドで寝たからな、何かいたかも」
「そうだね。ずっと使ってなかっただろうからね、いろいろ」
エースがさっきの僅かな反応を見逃す訳がなかった。
さすがに気まずいじゃねえかだから状況が状況だって言ったんだエロ毬藻、とサンジが思った時。
「でも、よかったよ」
「何が」
「それこそいろいろね」
「ああ?」
「早くゾロを連れて帰ろう」
エースの力強く優しい笑顔に、サンジは軽く目を見開いた。
「エース」
「そのためには、どんな些細な情報でもないよりはましだよ。言われたことは本当にもうないか?」
「他にねぇ」
煙草をぶらぶら揺らしながら考えてみる。
「そういや、レディを盾に取られても自分たちの身を守れとか言いやがったな」
「……それが一番難題そうだな」
「うん、そうだね。とりあえず、ウソップの事は俺に任せて。ウソップ、サンちゃんは当てにならないから、俺の言うこと聞いてくれ」
「全面的によろしく」
「てめえら、何言ってやがる!」
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