The wizard(48) [10.04.08.〜]
妖艶な笑みを浮かべ、愛欲も露わな仕草でゾロにしなだれかかる。
「それも一つの理由ね。私達の種族にとって、ミホーク卿は魔王よりも崇拝される御方。その血をこの身になんて、考えただけでもう……」
恍惚として自分の体をかき抱く様子は、普段の高慢なアルビダを娼婦のようにみせた。
「私を散々無視してくれた色男さん、貴方が私を受け入れてさえくれたら、大切な坊やがこんな目に合うこともなかったのに」
「ご心配なく、お姉様。俺は辛い思いなんてしてないですから」
アルビダは軽く目を見張ると、クスクス笑ってゾロの頬から首筋を撫で下ろし、反対の首に口付けながら言った。
「今はまだ、ね。これからよ」
逞しい胸に手を這わせながら、サンジを見る。
「貴方の大事なこの人は、私が大切にするから安心して。貴方もそれは大事に愛して貰えてよ」
「は? 誰に?」
「あらゆる魔物に。ああでも大丈夫よ。辛いといっても、過ぎる快楽ゆえ。甘受しさえすればいいのよ」
クスクスと笑ったまま、ゾロを扉の向こうへと促した。
「ゾロ!」
「無駄よ。貴方の大事な亡霊さんは、もう私のもの。そうね、お別れくらいさせてあげましょうか?」
「お優しいですね、お姉様。でも、結構。そいつは貴女のものにはなりませんし、どうせ俺の許に戻ってきますから」
カッとアルビダの瞳が赤く染まった。
「現状が分かっていないようね、坊や。まあいいわ。せいぜいそう思っていなさいな。綺麗な顔は、絶望の表情の時に一番の美しさを放つものよ。貴方のその蒼い瞳は、どこまで美しくなるのかしらね。楽しみだわ」
そう言い捨てて、ゾロと共に部屋を出て行き、そしてまた結界が張られた。
だが、先程と違い、閉じ込められたのではなく、守られているのだ。サンジはそう強く思った。
さて、どうしようか。
結界からは出られそうもないが、いつ解かれてもいいようにしておかないと。解かれた時っていうのは、いわば山場な訳だからな。山場……修羅場? まあ、とにかく、一番面倒な時な筈だ。
そういえば、死者を甦らせるって、どうするんだ? ひょっとして、肝心なこと、何も聞いてねえんじゃねえ?
そんなことを考えていると、いきなりエースとウソップの声が聞こえてきた。
「ウソップ!! エース!! どこだ?」
「サンジ!?」
「サンちゃん、無事か?」
「ああ! 2人は?」
「無事だけど、この状況は……」
「ひええっ」
「どうした!?」
目に見えない質量を感じた瞬間、目の前には宙に浮いた2人が現れ、落ちた。
「痛えっ!!」
「あ、ごめんね」
「2人共、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「今大丈夫じゃなくなった……早くどいてくれ」
「あ、ごめんね」
ウソップの上に落ちたエースが立ち上がり、手を差し伸ばしてウソップを立たせた。
「サンちゃん、ここは?」
「俺の部屋だ」
「何がどうなってんだか、状況も全く分かんねえな」
エースは部屋の外側を見るような視線で、ぐるっと見回した。
「結界の中かい?」
「ああ。絶賛監禁中だ」
「俺達も纏めて監禁ってわけじゃねえよな」
「卿にとっちゃ、俺達は邪魔でしかないからね。監禁する意味はないよ」
「やっぱりゾロの機転なんだな」
そうなんだろ?と、ウソップがサンジに問い掛けた。
「ああ」
「断言出来る?」
「出来るさ。ついさっきまで、ここにいたよ」
「ゾロが?」
「ああ」
「分かったことを教えてもらえるかな?」
そう言って、エースは椅子に座り、ウソップは机に寄りかかった。
サンジはベッドに座り、何から話そうかと少し考える。
先に口を開いたのはウソップだった。
「ここにいて話せたってことは、ゾロはあいつ等の手下の振りをしてるってことだよな」
「ああ」
「何でだ?」
「クソワニの計画をぶち壊すだめだ」
「計画って、卿の復活かい? それなら断ればいいだけじゃないのか?」
「そうだよな。どうせゾロを消しちまうことはできないんだから、手伝わなきゃいいよな」
ゾロしか方法を知らないのだから、危害は加えられないと思うのは正論だ。
「仮に」
エースがサンジに向かって言う。
「サンちゃんを盾に取ろうとしても、それこそ全力でサンちゃんを守るだろうし、実際できるんだろうしね」
「ってことは、サンジの叔父さんの復活だけじゃねえわけだな」
ウソップもサンジを見て言った。
← | →