The wizard(47) [10.04.08.〜]
空が白む頃、ゾロは腕の中で眠るサンジの額にキスを落とし、ベッドから抜け出そうとした。
「ゾロ……?」
まだ覚醒しきっていない声で名前を呼ばれる。聞き慣れているはずなのに、今朝は一段と甘やかに聞こえる。
「奴らが動き出す前に準備しておかねえとな」
サラリと金糸を梳く。
サンジは手を伸ばしてゾロの頭を引き寄せ、2人は軽いが雄弁なキスを交わした。
ベッドを降りようと、ゾロが背を向けると。
「あ」
「何だ?」
「………………」
「?」
振り返ると、真っ赤な顔で視線を反らされた。
「どうした?」
「……悪い」
明後日の方を見ながら、自分の背中を指差す。
ゾロは、姿見に背中を映した。
「そういうことか」
思わずニヤリとしてしまう。
「オヤジくせえ顔してんじゃねえ! どうすんだ、それ」
真っ赤な顔で噛みつくように言われても、照れ隠しなのがバレバレだ。
「まずいか」
「当たり前だ!」
「仕方ねえ」
そういうと、背中を映した鏡に向かって指を軽く動かした。
「これでいいか?」
サンジは絶句した。
見せられたのは、綺麗な背中。
「治癒の魔法を使えるのか?」
「出来なくもねえが、さすがに簡単にはいかねえよ。これは隠しただけだ」
そういってサンジに近付き、シーツを捲った。
「何しやがる!」
「こいつもまずいだろう?」
指さされた先には、赤い鬱血の跡。
同じように指を揺らめかせ、首筋と鎖骨、胸元に残るそれに軽く触れると、すっと消えてしまった。
「すげえ……」
「隠しただけだ。消えてねえよ」
「魔法使いが自分の身に掛けられたことに気付かないくらいの魔法だぜ。それも指一本でだ」
「ちっ」
素直に感嘆を口にするサンジと対象的に、ゾロは不満そうに舌打ちした。
「何だよ」
「気に入らねえ」
「何が」
「せっかく付けたのに」
「あ、アホかっ!」
サンジの、コロコロかわる表情。湧き上がる想いを押し込めるように、一度力強く抱き締め、離した。
「ケリをつけて、さっさと帰るぞ」
「ああ。レディ達が開店を待ちわびていらっしゃるからな」
「言ってろ」
2人は好戦的な笑みを交わした。 ゾロはさっと服を身に着けてサンジを見やると、サンジもまた身仕度を整えていた。ゆっくりとまばたきをすると、現れたのは、あの紅い瞳。
ニヤリと笑うと、腕を組んで部屋の扉に寄りかかって立ち、また目を閉じた。
「おい」
サンジの呼び掛けにピクリとも反応しない姿は、あの時に見たものと同じ。
瞬時にサンジの顔付きも変わった。
状況を把握出来るよう、精神を集中し、高めておかなければ。
その時。
コンコンと、軽く扉が叩かれた。
「開けてくれる?」
ゾロはゆっくりとした仕草で扉を開け、同時に結界が解かれる。
「よく眠れたかしら?」
「アルビダお姉様」
「ごめんなさいね。私は貴方が大好きだから、本当は辛い思いをさせたくなかったのよ。私も心が痛むわ」
「でも、その優しいお心を苦しめつつもクソワニに協力されているのは何故です? 腹巻き毬藻の血のため?」
「あら、知っているなんてびっくりだわ」
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