The wizard(46) [10.04.08.〜]
「な……! え、偉そうに! これは俺の身体だっての! テメエなんぞが偉そうに言うな!! 言われなくても誰にもやらねえっての!」
何だか妙に照れる。胸の奥に沸々と湧き上がる嬉しさと羞恥に、内心うがあっと髪を掻き毟りたいような、傷のある胸に抱きついて顔を押し付けたいような、どうしていいか分からない感情に襲われた。
それを見ているゾロの瞳に浮かんだ愛しくてたまらないという甘やかな視線と、強い想い。枕に顔を埋めたサンジは、それに気付かなかった。
そうだ、すっかり忘れていたが。
「ウソップとエースは?」
「無事だ」
「当たり前だ、アホ。今どこだ?」
「お前は顔に出るから言わねえ」
「ああ!?」
「とにかく俺が結界張っているから問題ねえ。それより、誰を盾に取られようと、お前は絶対に自分を守れ。悪魔と契約して受け入れるな。いいな?」
「分かったって」
「女が絡んでも、だぞ」
「うっ……」
「今から躊躇してんじゃねえ! 俺にだって限界はある。もしお前が悪魔に捕まりそうになったら、俺はそれを最優先で阻止する。その結果、ウソップとエースを守りきれなくなったとしてもな」
「それは駄目だ」
「知るか」
「俺は嫌だぞ」
「だから何だ。お前が約束守りゃいいだけだろ」
「そりゃあ、まあ……そうだけど……」
「お前がきっちり自分を守れば、俺は結界を張ったままにできる。分かるな?」
「……分かった」
まだ不満が残っていることが容易に分かる表情。でも、今はそこにこだわってはいられない。
「これから具体的に何が起きる? 俺はどう対処すりゃいい?」
「奴を完全に仕留めるに、まず奴を生き返らせる。その時、一瞬だが、お前らに結界は張ってやれねえ瞬間がある。奴の肉体と魂の両方を切り捨てる間のほんの一瞬だ。その時、お前はとにかく自分を守れ。それだけ考えろ」
いいな、と念を押す視線は鋭い。
「分かった。後は任せる」
「ああ、そうしろ」
そうは言いつつも、やっぱり少し唇が尖っている。
ゾロはそれを指でつまんだ。
「痛っ! 何しやがる」
「拗ねたり不満だったりすると、いつもアヒルみてえに尖らせるだろ。こうしてみてえと、その度にな」
また手を伸ばすが、叩かれた。
「止めろ、バカ!」
「今まで出来なかったことはやっておかねえと。せっかく触れるんだしな」
「こんなこと、わざわざすんな!」
「じゃあ、どんな事ならいいんだ?」
ニヤリと笑うその顔。
「エロ親父丸出しな顔しやがって」
「何考えやがった? エロ眉毛」
「な、何も考えてねえ!」
くくっと笑って、ゾロはサンジを引き倒した。
「てめっ! もう無理っ!!」
「分かってる」
そう言うと、腕枕をしてすっぽりと胸に抱き込み、シーツを掛けた。
「下手に悪魔を刺激しないように、奴らは夜は動かねえ。今のうちに寝ておけ」
「てめえはここにいて大丈夫なのか?」
「言ったろ? 俺は見張りだ」
「アルビダお姉様がお待ちなんじゃねえの?」
言ってから、さすがにまずかったと思った。派手なため息に、反射的に顔を上げてしまった。
特徴的な眉を下げた顔を見たら、ゾロは苦笑するしかない。
「ったく、そんな顔するなら最初から言うな」
いつも髑髏にされているお返しのように、白く丸い額を指で弾く。
「何の反応もねえ男は、ベッドの上じゃ役立たずだとよ。奴らは奴らでお楽しみ中だ」「反応しなかったのか?」
「さっきそう言ったろ」
「いや、まあ、うん」
「何だ」
俄かに信じられないと思いつつ、いやあれは俺だからなのかとか即座に思い返してみる。ついでにさっきまで自分にされた事やら自分がした事やらまで思い出し、音が出そうな勢いで赤面した。
その顔を琥珀の瞳に見つめられたくなくて、潜り込むように俯いた。
その途端、逞しい胸と傷跡が目に入る。さっき俺はこの傷に……と、うっとりしかかる。
「うぎゃー! ああ、もう!!」
両手で髪をグシャグシャとかき回す。
「だから何なんだ」
「うるせえっ!!」
ちょっと呆れ気味でも本当によく分かっていないゾロに、自分の頭の中が伝わってしまうといたたまれない。そんなことはないと分かっていても、つい背を向けて腕の中に収まった。
またため息が聞こえたが、そこに小さな笑いが含まれているのが分かり、結局いたたまれなくなる。
ゾロは、その金糸を優しく梳きながら、ちらりと覗く真っ赤になった耳に唇を落とした。
「お前の母親に、お前をあの男から守ると約束した。どんな事からも守ると自分に誓った。だから、お前は前だけ見て、お前のするべきことをしろ」
囁くような小さな声。だが、とても強い想いが伝わる。
俺はこんなにも守られてきたんだと、サンジは溢れてしまいそうなゾロへの気持ちを押さえ込むように、自分を包む逞しい腕を抱き締めた。
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