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The wizard(44) [10.04.08.〜]


「くいなちゃんを生き返らせたことは、すぐバレたのか?」
「隠さなかったからな」
「何で?」
「そんなこと考えもしねえよ」
「アホだな」
「うるせえ」

 言い返さないということは、自覚しているのか。珍しくばつの悪い顔だ。

「それに、くいなが評議会に駆け込んだんだよ」

 蒼い目が丸くなる。驚くと途端に幼くなるなあと、つい脱線してしまう。

「評議会には既にくいなの死は伝わっていたから、そりゃあ驚いただろうよ」

 いつもの皮肉めいた表情のまま続けた。

「目が覚めて、生き返らせられたことが分かって半狂乱のようになって、そのまま出て行った。何なんだとよく分からないでいるうちに上層部連中に捕まって、それでもまだよく分かってなかったな。評議会でくいなに弾劾されて、初めてそういうことかって悟った」

 手を頭の後ろで組んで、そのままドサッと上体を倒した。

「もう、どうでもよくなっちまった」
「……くいなちゃんに剣を突き刺すこともか?」
「よく覚えてねえ。ただ、刑が決まった時、久しぶりにあいつの笑顔を見た。あいつにしてやれることは、楽に死なせてやることなのかと思ったな。そんなもんだ」

 くいなちゃんに剣を突き立てる時、謝ったって聞いた。
 どうでもよくなったんじゃねえ、絶望して諦めたんじゃねえのか?
 サンジは、仰向けに寝ているゾロの上にうつ伏せで勢いよく倒れ込んだ。

「ぐおっ」
「な〜にがどうでもよくなっちまっただ、毬藻が愁傷なこと言ってるな、アホ」

 いつもの、どこか斜に構えた挑発的な口調でからかった。

「ああ!?」

 ゾロも、いつものガラの悪い態度で応じる。
 ウソップなら即刻謝るその目つきに、今は安堵を覚える。
 そんなサンジに何を感じ取ったか、目つきとは裏腹に、優しい手つきで金糸をすいた。

「で? テメエはその後首を切られたんだろ? 何で生きてる?」
「その情報はどこから手に入れた?」
「エースが評議会で資料を読んだ」
「何て書いてあった?」
「テメエがくいなちゃんを甦らせたこと。その罰として、くいなちゃんを刺し、自分の首をはね、その頭蓋骨に霊体として呪縛させられた。すげえ簡単に書いてあったってよ」
「そうか」

 ゾロは、サンジの髪で遊びながら少し思案しているようだった。サンジは、その琥珀の瞳を見つめながら黙って待った。

「俺は珍しい『子供』だった」

 金色の目。希有な魔法の力。並外れた回復力。

「『子供』が悪魔になることはありえねえんだが、その可能性を否定できねえとずっと観察されてたんだ」

 琥珀が金色に変わる。
 サンジは、その瞳を敢えて憮然とした態度で見返した。

「悪魔が魔力で死者を甦らせるには代償がいる。俺がくいなを甦らせたのは純粋な魔法で、代償はいらなかった。魔力じゃねえ。それが悪魔にも問題だった」
「何でだ?」
「代償なしで甦るなら、それを糧とする悪魔は生きていけねえだろ」
「魔法使いは大盛況だろうな」
「そして、人は死なねえから増え続け、秩序は乱れる。だから、そんな魔法が存在することは双方の脅威だ。魔物と魔物使いが同席する中で満場一致で極刑が決まり、俺は封印された」
「極刑で封印?」
「人か魔物かどっちか分からねえ存在だから、どっちの法に則って処分するかで揉めて、結局どっち付かずの形に収まった」

 魔法使い即ち人として裁くか、或いは悪魔として裁くか。
 どちらにしても極刑は間違いないのだが、優位に立ちたい思惑が絡み合い、もめにもめた。

「だから、何もかも中途半端になっちまった。死んで地獄に送られることもねえ。かといって、生きて罪を償うこともねえ。だが刑にはかけないとならねえ。それで、生きながら死ぬってことになった」
「でも、幾ら何でも首を斬ったら死ぬだろ」
「どうしても頭蓋骨は必要だったから、斬るしかねえだろ。使ったのは妖刀だし、俺は簡単にはくたばれねえ体質だからの荒業でよ。それでも死なねえわけはねえから、時間との勝負ってな。斬った瞬間に、肉体は血を抜かれて一気に冷却されて仮死状態にされ、そのまま凍結だ」

 あまりの荒業っぷりに、驚くというよりもはや呆れた。同時に、確かに魔法だけでできることじゃないと分かる。
 妖刀を使って斬り、霊体を呪縛するのは魔法だ。だが、血を抜き仮死状態を一瞬で作るのは、やはり悪魔の力だろう。

「今、その頭の中は水晶って言ったよな。それもその時にか?」
「自分の頭の中身が移されるのを見た奴ってのは、そうそういねえだろうな」
「シュールだな……」

 想像して鳥肌が立つ。竦めた肩を、大きなごつい手が撫でた。

「さらにシュールだぞ。魂を地獄へ落とされてその業火を受けている間、目の前には自分の首がある。中身はないとはいえ、見た目はそのままのそれが朽ち果てていくのを見せられた」

 サンジは絶句し、体が冷えていくのを自覚した。

「首が髑髏になり、魂をそれに縛り付けられると、死んだ母の実家で監視されることになって、今に至るってところか」
「最後の方、かなり端折ってねえか?」
「あ!? 地獄から連れ戻された後は、それこそ表に出なかったから知らねえよ。忘れた頃にまた地獄に落とされる以外、てめえの世話をさせられるまで、現世とは無縁だったからな」
「……そんだけ寝てりゃ、もう十分だな。寝腐れ毬藻め」

 額をゾロの胸に押し当て、目頭が熱くなるのを必死で堪えた。
 思うことも、伝えたいことも、取り敢えず後回しだ。今はそれよりもと、自分に言い聞かせる。
 顔を上げ、伸び上がってゾロの額にキスを落とすと、琥珀の目が軽く見開かれた。

「何だ?」
「何でもねえ」

 ポスッとゾロの隣に寝転がった。


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