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The wizard(43) [10.04.08.〜]


 あいつは剣士で魔法使いだ。
 俺もその力は持っていたが、まだそれを生業にするかどうかは決めていなかった。両親以外は知らないとはいえ、金色の目を持つ俺が、魔法使いになっていいのかどうかってのもあってよ。
 でも、あいつと生きていくなら、それがいいんだろうと思った。一緒にいれば、何か分かるかも知れねえと思ったしな。
 でも結局、俺はあいつに何もしてやれなかった。
 あいつが悪魔に殺されたとき、俺に何ができるんだろうと考えた。
 一緒に生きてやると約束したんだから、それを果たさねえと思って、禁忌と知っていながらあいつを生き返らせた。
 結果は、もうくいなはそんなこと望んじゃいなかったことも知らねえで、ただ余計に苦しめただけだった。
 愛しているなら一緒に生きていくために助けるべきだと思ってしたことだった。けど、それを拒否されても別に哀しくもショックもねえんだ。
 それで愛しているとか、おかしいだろ。
 やっぱり俺にはそういう感情はないのかと諦めたな」

 少し淋しげな苦笑を浮かべた。

「でも、今なら分かる」

 ソロは手を伸ばし、白い頬を掌でそっと包んだ。
「理屈じゃねえよな」

 こんなもんで分かったかよ、と言うその金色を帯びた瞳の奥にはいろいろな感情が揺れ、それを覆い隠すように熱が過ぎった。
 蒼い瞳からは、雫が一つ零れ落ちた。

「……それでも、ちゃんと愛せていたよ」

 サンジは、頬に当てられた手に擦り寄るように目を瞑り、いろんな愛情があるんだから、と囁いた。

「てめえが言うなら、そうなのかもしれねえな。
 くいなを巻きこんで、自分はこんな立場になっちまってるが、俺は『子供』になることを選んだことを後悔したことはねえ。自分で決めた道を後悔しねえ。これから先もだ」

 ゾロの言葉は、まるでゾロ自身に言い聞かせているようだと、サンジは思った。

「帰ったら、一緒にくいなちゃんに会いにいこうな」
「あいつ、余計な事ばっかり話しそうだな」
「俺、くいなちゃんとタッグ組むぜ」
「ぜってえ止めろ!」

 サンジは声を立てて笑った。くいなちゃんに、早くゾロは大丈夫だと話してやりたい。

 ゾロ、もう絶対独りになんかさせねえ。させてたまるか。


* * * * *



 彼の視線はいつもどこか遠くを見据えたもので、何を考え何を思っているかなんて、分かった試しはなかったわ。だって、結論しか口にしない奴でしょう? 過程とか途中経過とかは話してくれないんだもの。
 でもね、剣だけは雄弁で、その剣を正面から受けられることが、私は何より嬉しかった。
 独りでも揺らがない背中を愛していたわ。希有な存在に応えてもらえて、幸せだと思ったわ。
 例え彼が本当に私を愛しているわけじゃなかったとしても。
 彼は私を愛していると思っていた。でも、それは愛じゃない。特別だけど、愛じゃなかった。でも、それでもよかった。私がゾロを愛していて、私だけが彼を受け止められるんだって。
 でも、私は欲張りだったから、だんだん物足りなくなっていったの。本当に愛してほしくなった。
 ちょうど剣士としての限界も見え始めて、魔法使いに専念しなければならなくなった時で、剣士でなくなればゾロの心である剣を受けられなくなるって、焦っていたのかもしれない。
 だから、その隙を突かれて悪魔に負けたんだと思う。自業自得ね。
 ゾロは、悪魔を倒した後、倒れ込む私を抱き止めてくれた。初めてゾロから手を伸ばしてくれたと、幸せに死ねると思ったのに、見上げたゾロの瞳は金色に光っていた。
 自分の中で何かが壊れた。
 ゾロは『子供』の振りをしていたんだと、私を餌として『鎖』に繋ぐ時を待っていたんだって思った。
 悪魔には欲望と深い親愛はある。でも、恋愛の情はないの。愛情を理解できないの。だから、最初から愛情なんてあるわけがなかったと、ゾロが私を愛せないのはそういうことだったのかとも思ったわ。絶望もした。
 でも、もういろんなことから解放されるんだとほっとしたわ。
 それなのに、ゾロは私を生き返らせてしまった。
 悪魔と結婚するなら魔法使いを続けてはいけないの。狩る者と狩られる者が一緒にいては、ね。だから、ゾロと共に生きるということは、魔法使いではいられないということ。
 剣士も辞め、魔法使いも辞め、私を騙し続けた悪魔を愛していくなんて、その時の私の心は耐えきれなかった。
 その上、最大の禁忌を犯した大罪人なんて、絶対に赦されない。赦したくなかった。
 愛してなんかいないくせに、愛していると思っていることも許せなくなった。
 もう何もかもが負の感情となってゾロに向かったわ。
 だから、ゾロの刑罰と私の転生が決まった時、本当に嬉しかった。今度こそ本当に解放されるって。
 だから、ゾロが私に剣を突き立てる前に「ごめんな」って言った時、ゾロの気持ちなんて私には何の意味も持たなかったから、何を謝っているかなんて考えもしなかった。
 思い知ればいいと思いながら、斬られたの。
 そして……。
 貫かれた時、ゾロの琥珀の瞳と目を合わせた時、やっと思い出したの。
 雄弁な彼の剣は、嘘をつかないことを。
 いつだって、ゾロは真っ直ぐに私を見ていてくれた。彼は私を愛していると思っていたことも、でも本当は愛していないことさえ伝わるくらいに誠実だった。
 小さい頃から、ずっと必死で自分の在り方を模索している姿を、その剣を通して知っていたはずなのに。
 私は、彼にとってたった一人の心を開ける人間なんだと、自分の優越感に浸っていただけで、彼を受け止めてなんかいなかった。理解しようとしたことすらなかったと、その時やっと気付いたの。
 ゾロはいつだって、どんなときだって、ただ「彼」としてそこにいたのに。手を伸ばせば、手を取ってくれた。訊ねたらきっと応えてくれたわ。私が勝手にゾロの周りでジタバタしていただけだったの。
 ゾロは私と生きていくために、人として魔法と剣の腕を磨いていく道を選んでくれたのに、それは、最大限の彼の証だったのに、そんなことすら気付かないで、私は感情に任せて酷い事を言ってしまった。
 私は、愛しているといいながら、真っ向から彼を否定したのよ。
 でも、気付くのが遅すぎたわ。
 ゾロは自分自身を封印してしまった。周囲を拒絶してしまった。心を閉ざし、本当に独りになってしまった。
 ゾロを追い込んだのは、私だわ。
 ゾロは、ゾロだったのに。それでよかったのにね。


* * * * *


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