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The wizard(29) [10.04.08.〜]


「分かるだろ」
「幽霊の方はまだしも吸血鬼の方はなかなか分からないよ」
「あっちは吸血鬼かよ」

 感情を押し殺した目でクロコダイルを睨み付けながら、サンジが問う。

「あいつはどこだ」
「なんだ、まだ子守が必要か?」
「毬藻を出しやがれ」
「聞いたが、随分と女好きらしいじゃねえか。いつまでも亡霊付きの髑髏の添い寝がいるようじゃあ、いい女も出来ねえぞ」
「返せ」
「一度捨てたじゃねえか」
「返せ!」
「奴の管理は俺が請け負ってやる。霊体同士、うまくやるさ。お役御免にしてやるから、女でも男でも好きに連れ込んで楽しみゃいい」
「うるせえなぁ、ゴチャゴチャと。テメエ如きがどうにかできるタマじゃねえよ。あれは俺のだ!! とっとと返しやがれ!!」
「あら、私がお手伝いするから大丈夫よ」

 それまで妖しげな笑みを浮かべていたアルビダが、艶めかしい手つきで呼び寄せた相手。

「何で……!!」

 叫んだのはエース。ウソップは口を開けて凝視した。
 アルビダは、艶めかしい手つきのままにその男の頬から首筋、胸までをなで下ろし、そのまま腰に手を回して豊満な体を押し付け、勝ち誇ったような視線をサンジに投げかけた。

 現れたのは、霊体ではなく肉体を持ったゾロだった。

 サンジはその蒼い目を見開き、絶句していた。
 その姿を感情のない目でゾロが見た。その瞳は赤みを帯びている。
 視線が合い、弾かれる様にサンジは我に返った。

「テメエ、何してやがる」

 相変わらずの様子で、返答はない。

「あらあら、貴方の声は届かないようね。ごめんなさい。私達の技量では、これ位が限界なのよ。でも、もう少し経てば、もっと本物になるわ。これ以上どれだけいい男になるのかしら。ねえ?」

 ねっとりとした情欲を隠さないままに、その首筋を舐め上げた。よく見ると、そこには小さな噛まれた痕があった。

 その雰囲気に当てられながら、ウソップはエースに小声で聞いた。

「甦らせたのか?」
「まさか。そんな力はないよ」
「じゃあどういうことだ?」
「考えられるのは……」
「うるせえネズミだなあ」

 言うと同時に、クロコダイルが2人に影を放った。
 が、間一髪、エースが撒いた塩に浄化される。
 サンジがスティックで魔方陣を張り、エースとウソップを防御で覆った。

「小物が邪魔だ」
「テメエが何しようが別問題だ。今はとにかくゾロを返せ」
「帰りたくねえとよ」
「ああ!?」
「気の遠くなる年月を封じ込まれ、いつまでたっても開放される気配もなく、延々とガキの子守りをさせられる。今こうして自由になれたんだぜ。極上の女もいる。戻るわけねえだろうが」
「テメエと一緒にするんじゃねえよ。おい、毬藻! 帰るぞ!!」
「無駄よ。これは私のもの」

 クスクスと笑いながら、その紅い唇をゾロに寄せる。

「そんなに子守りがいるのか。こいつがいなきゃ何にもできない泣き虫のままか。それならお前もこの屋敷にいさせてやろうか」
「誰が……!」

 一発の銃声が響いた。
 だが、ウソップが撃った塩の弾は、クロコダイルに届く前に砕け散った。
 
「何でお前が!」

 エースがゾロに向かって叫ぶ。
 感情のない目のまま、エースの方を向くと、ゾロは軽く指先を動かした。
 まずい、とサンジは叫んだ。

「ウソップ! エースに捕まってろ!!」

 ウソップが言われたとおりにするより先に、エースがその首と腹に腕を回し、しっかりと捕まえた。
 先ほどのサンジの作った防御の魔法の上に、とっさにエースが二重に防御の魔法を掛けるとほぼ同時に、2人を衝撃が襲った。

「ウソップ!! エース!!」

 無表情のまま、ゾロが掌を二人に向け、そのまま握る仕草をすると、二人は防御の魔法陣ごと姿が見えなくなる。

「何だ? 暗えぞ、サンジ!!」
「サンちゃん、こっちはいいから、自分のすべきことを……」

 見えないが、声はする。気配はある。が、ゾロが再び手を開くと、声も気配も消えた。

「な……」

 悪魔のものをその魔方陣ごと包み込み、移動させる魔法。それは確かに存在する。ゾロが盗まれた時と同じだ。大抵は、魔方陣を描いた布で本当に包み込んでしまう。悪魔を移動させる場合は、数人の魔法使いで取り囲み、見えない布で包むように魔法で覆う大技になる。
 それをゾロは自分の手一つでやってのけた。
 初めて見る、ゾロの力。いや、初めてではない。だが、肉体を持つと、ここまで強大な力を発揮するのか。

「さて、邪魔は消えた」
「じゃあ、お楽しみの時間かしら? 貴方が甥っ子をお気に入りなのは分かっているもの」

 2人の舐めるような視線を受け、気持ち悪さに鳥肌が立つ。

「そうしたいものだが、『約束』は破れん」
「あら、なんて不似合いな台詞」

 フン、と意味深な卑下た笑みをする。

「自室でお休みいただこうか。まだ時間がある。ゆっくりしているといい。一族のプリンス」
「誰が言うとおりにするか」

 そう吐き捨てた途端、体の自由が利かなくなり、そのまま懐かしい自室へ閉じ込められた。



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