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The wizard(28) [10.04.08.〜]


「サンジさん、ゾロの言うとおりな人ね」
「え?」

 クスクスと少女の様に笑った。

「ゾロの言うとおりって」
「生まれ変わってから2回会ってるの。2回っていっても、1回目は出て来てくれなかったけれど」
「レディがわざわざご所望なのに、心底失礼な奴だな」
「レディ!?」

 今度は面白くてたまらないように笑った。

「ゾロの所へ向かう前に私に会いに来て。そこでならお話出来るから」
「ここじゃ駄目かい?」
「より安全な場所がいいから。私はここにいるから。魔法からも魔物からも治外法権でしょ?」

 渡されたメモを見ると、エースは悪戯でも企むような笑顔になった。

「ある意味、一番怖いね」

 じゃあ、と軽く手を振って、くいなは出て行った。

「サンちゃん」
「……もう生まれ変わってたんだな。それなのに毬藻は髑髏のままだ」
「まだ許されねえのかな……。いい奴なのにな」
「ほら、あと少しだろ? さっさとして、彼女に話を聞きに行こう」

 しんみりしかけた2人に発破をかけ、エースも塩を手にした。
 先に我に返ったウソップが聞いた。

「治外法権って、彼女はどこにいるんだ?」
「教会だよ。彼女はシスターになったんだよ」
「シスター!?」
「そう。『今度は神に嫁いだ』んだって」
「何だそりゃ」
「彼女がそう言ったんだよ」
「魔法使いに亡霊に悪魔に、今度は教会。オールスターだな」

 ウソップの言い種に、空気が少し和んだ。
 今はとにかくゾロを奪い返す。余計なことは、考えるな。
 サンジは自分に言い聞かせ、よし、と声に出した。

「こんなもんだろ。ウソップ、銃に込めておけよ」

 各々立ち上がって荷物を準備する。
 サンジがホッケーのスティックを持ち直した。

「さあ、行くか」


* * * * *



「サンジ、てめえはお坊ちゃんだったのか」
「プリンスと呼んでいいぜ」
「なんでだよ」

 サンジの一族の屋敷は、歴史の風格を纏う豪邸だった。
 5年前から無人のはずだが、そんな感じがしないのは、庭の手入れは人に頼んでいるからだろう。建物からは全く気配を感じない。

「何もなさ過ぎるなあ」

 エースが苦笑する。
 屋敷を見渡していたサンジの視線が、ある一点で止まった。

「サンジ?」

 ウソップの声にはっとすると、サンジはホッケーのスティックを門の鍵のところに刺すようにした。すると、重厚な門が内側に開いた。門が開ききっても中には入らず、スティックで正面に円を描き、そのまま敷地内に突き立てた。すると、その点から敷地内に向かって一陣の風が吹いた。
 風が収まると、無言のままサンジが屋敷へと歩き出す。

「さっきのは何したんだ?」
「結界を解いたんだよ。さて、中には誰がいるのかな」
「うおぉ、入ってはいけない病になりそうだぁ」

 そう言いながら、震える足でサンジに続いた。
 屋敷へ入る大きな玄関も、鍵のところにスティックを当てると、門と同じように自然と彼らを迎え入れる。 中の調度品には皆白い布が掛けられ、確かに無人である様子だった。
 迷いなく広い屋敷内を歩き、応接間へと向かう。その部屋も、ソファやピアノにすら布が掛けられていた。バルコニーへ続く大きな窓の側にあるスツールも例外ではなかったが、その上にあるものだけが剥き出しになっていた。
 開けっ放しで無造作に置かれた鳥籠。その下にある魔法陣の描かれた布。そして、鳥籠の中には髑髏。
 サンジは側へ急ぎ、それへ手を伸ばす。

「あれ、ゾロか?」

 いる気がしねえと、ウソップが青い顔で呟く。

「うん。ゾロの髑髏だけど、空き家みたいだ」
「笑えねえよ。おい、サンジ、大丈夫か?」

 それには答えず、サンジが抱きかかえた髑髏をそっと下ろした時。

「噂通りの成長振りだな」

 いきなり聞こえた声に、3人が振り返った。部屋の入り口に1人の男の亡霊とアルビダがいた。

「ソイツが最近増えた面倒なやつか。もう1人は何だ?」
「ただの刑事よ。私の店にも来たわ。アナタのプリンスのお友達」

 人間とはあからさまに違う気配に、ウソップはとっさにエースの後ろに隠れながら聞いた。

「あいつら、人間じゃねえよな」
「本当、鋭いね」

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