The wizard(28) [10.04.08.〜]
「サンジさん、ゾロの言うとおりな人ね」
「え?」
クスクスと少女の様に笑った。
「ゾロの言うとおりって」
「生まれ変わってから2回会ってるの。2回っていっても、1回目は出て来てくれなかったけれど」
「レディがわざわざご所望なのに、心底失礼な奴だな」
「レディ!?」
今度は面白くてたまらないように笑った。
「ゾロの所へ向かう前に私に会いに来て。そこでならお話出来るから」
「ここじゃ駄目かい?」
「より安全な場所がいいから。私はここにいるから。魔法からも魔物からも治外法権でしょ?」
渡されたメモを見ると、エースは悪戯でも企むような笑顔になった。
「ある意味、一番怖いね」
じゃあ、と軽く手を振って、くいなは出て行った。
「サンちゃん」
「……もう生まれ変わってたんだな。それなのに毬藻は髑髏のままだ」
「まだ許されねえのかな……。いい奴なのにな」
「ほら、あと少しだろ? さっさとして、彼女に話を聞きに行こう」
しんみりしかけた2人に発破をかけ、エースも塩を手にした。
先に我に返ったウソップが聞いた。
「治外法権って、彼女はどこにいるんだ?」
「教会だよ。彼女はシスターになったんだよ」
「シスター!?」
「そう。『今度は神に嫁いだ』んだって」
「何だそりゃ」
「彼女がそう言ったんだよ」
「魔法使いに亡霊に悪魔に、今度は教会。オールスターだな」
ウソップの言い種に、空気が少し和んだ。
今はとにかくゾロを奪い返す。余計なことは、考えるな。
サンジは自分に言い聞かせ、よし、と声に出した。
「こんなもんだろ。ウソップ、銃に込めておけよ」
各々立ち上がって荷物を準備する。
サンジがホッケーのスティックを持ち直した。
「さあ、行くか」
「サンジ、てめえはお坊ちゃんだったのか」
「プリンスと呼んでいいぜ」
「なんでだよ」
サンジの一族の屋敷は、歴史の風格を纏う豪邸だった。
5年前から無人のはずだが、そんな感じがしないのは、庭の手入れは人に頼んでいるからだろう。建物からは全く気配を感じない。
「何もなさ過ぎるなあ」
エースが苦笑する。
屋敷を見渡していたサンジの視線が、ある一点で止まった。
「サンジ?」
ウソップの声にはっとすると、サンジはホッケーのスティックを門の鍵のところに刺すようにした。すると、重厚な門が内側に開いた。門が開ききっても中には入らず、スティックで正面に円を描き、そのまま敷地内に突き立てた。すると、その点から敷地内に向かって一陣の風が吹いた。
風が収まると、無言のままサンジが屋敷へと歩き出す。
「さっきのは何したんだ?」
「結界を解いたんだよ。さて、中には誰がいるのかな」
「うおぉ、入ってはいけない病になりそうだぁ」
そう言いながら、震える足でサンジに続いた。
屋敷へ入る大きな玄関も、鍵のところにスティックを当てると、門と同じように自然と彼らを迎え入れる。 中の調度品には皆白い布が掛けられ、確かに無人である様子だった。
迷いなく広い屋敷内を歩き、応接間へと向かう。その部屋も、ソファやピアノにすら布が掛けられていた。バルコニーへ続く大きな窓の側にあるスツールも例外ではなかったが、その上にあるものだけが剥き出しになっていた。
開けっ放しで無造作に置かれた鳥籠。その下にある魔法陣の描かれた布。そして、鳥籠の中には髑髏。
サンジは側へ急ぎ、それへ手を伸ばす。
「あれ、ゾロか?」
いる気がしねえと、ウソップが青い顔で呟く。
「うん。ゾロの髑髏だけど、空き家みたいだ」
「笑えねえよ。おい、サンジ、大丈夫か?」
それには答えず、サンジが抱きかかえた髑髏をそっと下ろした時。
「噂通りの成長振りだな」
いきなり聞こえた声に、3人が振り返った。部屋の入り口に1人の男の亡霊とアルビダがいた。
「ソイツが最近増えた面倒なやつか。もう1人は何だ?」
「ただの刑事よ。私の店にも来たわ。アナタのプリンスのお友達」
人間とはあからさまに違う気配に、ウソップはとっさにエースの後ろに隠れながら聞いた。
「あいつら、人間じゃねえよな」
「本当、鋭いね」
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