The wizard(27) [10.04.08.〜]
エースはかすかに青ざめた。
サンジはいつもの小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、煙草の煙を眺めた。
話をしながら、サンジはもう一つ思い出していた。
クロコダイルが倒れ、ゾロが振り向いた時、その瞳が金色だった。それは一瞬のことで、直ぐにいつもの鳶色に戻ったが。
あれはどういうことだろうか。
エースに聞くべきだと思いながらも躊躇してしまう。
金色の瞳は、上級の悪魔が持つものの筈だからだ。
翌日。
さすが敏腕といわれるだけあって、ウソップの捜査は的確で速かった。
ゾロを盗んだのは、アルビダの店で働く男とその妹だった。店の会員の男に、具体的な指示通りに動けば大金をやると言われ、きっちり仕事を果たしたというわけだ。
その男によるとアルビダは全く関与していないといい、勿論アルビダ本人もそれを否定する。それに関しては、追求できる要素が見つからないので断念した。
だが、盗みを依頼した会員の男が死亡した。死因は急性アルコール中毒。その男の部屋から布に包まれた骸骨が見つかった。
ウソップから連絡が入り、サンジが現場に向かった。
「ナミすわ〜ん♪」
「はいはい、これよ、サンジ君の?」
サンジはそれを一瞥した。
「本物みたいだ」
「じゃあ、これにサインしてくれたら持って帰っていいわよ」
「ありがとう、ナミさん。今度ご馳走するよ」
「ディナーコースにワイン付けてね。楽しみにしてるわ」
サンジは骸骨を布でくるんでデイバッグに入れ、現場を後にした。
それに気づいたウソップは、すぐに追いかけてきた。
「サンジ!」
立ち止まり、煙草に火をつけながらウソップを待った。
「あの骸骨、受け取ったって?」
「ああ。ナミさんにいただいたぜ」
「あれ、ゾロじゃねえよな」
「よく分かったな」
「嘘ついたのか?」
「本物だとは言ってないぜ」
「何で受け取った?」
くわえた煙草をユラユラと揺らした。
「ここから先、警察は巻き込めねえよ。これで事件は解決だろ?」
「そうだけどよ。俺は手を引かねえぞ」
揺らしていた煙草が止まる。
ウソップの表情から、怯えながらも揺るがない決意を読み取って、サンジは長く煙を吐いた。
「てめえを危険な目に合わせたくねえんだよなあ。カヤちゃんに申し訳立たねえじゃねえか。いくら天才的な俺でも保証はできねえぞ」
「ああ」
「物好きめ」
「俺はゾロが好きなんだ。あいつを助けてえんだ」
サンジは眉をちょっと下げて困ったように笑ってウソップを見た。
「俺はお前も好きだから、だから絶対引くワケにはいかねえよ」
「野郎にモテても嬉しくねえ。……サンキュー」
夜、サンジとウソップは、サンジの店の奥の部屋にいた。
塩を詰めた銃の弾を作りながら話をしている。
「しかしこの部屋、面白えなあ」
「分かったから、手を動かせ」
「でもよ、これ効くのか?」
「悪いモノにはな。お化けが怖けりゃ部屋の入り口の隙間を塩で埋めとけ。入って来られねえから」
「へえ。そんなもんなんだ」
「塩はすげえぞ」
お互いが経験した過去の事件の話で盛り上がっていると、エースが一人の女性を伴ってやってきた。
「おお! なんて素敵なレディ! こんな散らかしているところに」
「サンちゃん、俺もいるんだけどなあ」
そんなエースをきれいに無視して、サンジは彼女に手を差し出した。
「さあ、レディ、こちらへ」
「あなたがサンジさんね。私、くいなといいます」
ガタッとウソップが立ち上がる音がした。
サンジは目を見開いて固まった。
「サンちゃん」
呼びかけに気づいていないのか、くいなを見つめたまま動かない。
「何か情報を得られないかと悪あがきしてみたら、彼女が既に生まれ変わっていたと分かってね。訪ねたてみたら、彼女、前世の記憶を持ったままだったから、一緒に来てもらったんだ。……サンちゃん?」
サンジはまだ固まったままだ。
くいな。ゾロの婚約者。禁忌を犯すほど大切な女性。ゾロが愛した女性。いや、生まれ変わっているなら、また愛されるのかもしれない。
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