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The wizard(26) [10.04.08.〜]


「守ってやるから平伏せってな。こっちは命掛けで悪魔や悪霊やらから守ってやってるんだから、その上に立つのは当然だってな。母の死後、父が俺を連れて行方を眩ましたのは、ソイツから俺を守る為だったみてえだ」
「何でゾロを置いていったんだい?」
「奴が俺を捜すのを少しでも妨害する為、それと……」

 新しい煙草に火をつけながら続けた。

「俺に魔法使いであることを忘れさせる為だったらしい」

 ゾロがいないことに散々泣いた。いろいろな事を忘れていっても、あの強面の優しい亡霊を忘れる事なんて出来なかったことは言わない。そんなのガキ丸出しじゃねえか。

「まあ、連れて行ったら、魔法界で問題になって簡単には行方不明になれねえだろうしな。結局、父と祖父が死んで、あの家に戻されちまったけど。で、その時から毬藻が俺の家庭教師になって、俺は一流魔法使いへの道を歩み出したわけだ」
「一流……」
「あ!? 何か言ったか、鼻」
「いいや。戻ってきた時、その男の考え方は変わらねえままだったのか?」
「よく分からねえ。ただ、奴が死んだ時にはやっぱりふざけた事を考えていやがったのは確かだな」「その根拠は何だい?」
「それが一因で死んだようなもんだ」
「どういうことだ?」

 刑事のウソップは、職業柄死因に敏感だ。

「珍しく魔法の勉強中に奴が来て、現時点での俺の力を知りてえとか言ってきやがってよ。そうしたら、毬藻がそれを拒否したんだ」
「サンちゃんの力?」
「そう。母も優秀な魔法使いで、奴も当時の上層部にいたくらいだから、まあ身内としてはどんなもんか測りたかったんだろうなあと思ったから、何で毬藻が拒否したんだか、最初は分からなかったんだ。でも、奴が何かを企んでて、それに俺を巻き込もうとしてたらしい。俺としちゃあ、奴より毬藻の方が信用できたから、毬藻に従ったんだが」

 フーっと大きく煙を吐いた。

「奴は俺を挑発した。母は、俺を巻き込もうとした奴と対立した結果死んだって分かってよ。おまけに父と祖父の死も奴が絡んでることをちらつかせやがった。もう怒り心頭でよ。奴を殺そうと思った。でも、当然歯が立たない。逆に吹っ飛ばされて頭を強打して。そのときのショックで、記憶の断片が飛んでるっていうか、細けえところまではっきり自信があるわけじゃねえんだ。ただ……」

 伺うようにエースを見た。

「大丈夫、今更だよ、サンちゃん。オフレコにするよ」

 安心させるように笑うと、先を促した。

「吹っ飛ばされただけで済んだのは、その瞬間に防御の結界に、守られたからだった。それを張ったのは、ゾロだ。それまで誰もが、ゾロにできることはゾロ自身を守るための結界を張るくらいだと思ってた。まあもちろんその威力は桁違いで、およそ“くらい”なんて簡単に片付けられるレベルじゃねえけど。でも、とにかく髑髏を中心にした魔法陣を描くことしかできないと思ってたんだ。さすがに奴も、一瞬何が起こったのか分からなかったらしい。でも、その後ゾロが『これ以上こいつに手を出すな』って言いやがって。奴は、ゾロにまだ魔法を使う能力があると知って、恐れるより狂喜したんだ」
「喜んだ?」

 エースが怪訝そうに言った。

「ああ。そして、『仲間が増えるのは嬉しいだろう。それもほかでもないこいつなんだからな』って笑ってな」
「仲間?」
「何の仲間だい?」
「さあな。一頻り笑った後、ゾロに『俺につけ。悪いようにはしねえ』って言ったのが最後だ。皮肉に笑った顔が、苦痛に歪んだと思ったら、そのまま倒れた」
「それはゾロが?」
「多分な……いや、俺はそうだと思ってる。指先だけだからはっきりとは分からねえが、何か描いたように見えた」
「霊体でありながら、指先だけで心臓を止められるのか」

 エースは思わず感嘆の溜め息をついた。
 ウソップはそんなエースを見て、苦笑した。そして、改まって言った。

「そうするとだ。奴のその思想を受け継いでいる奴らの中には、ゾロの能力を知らなかったとしても、その使命とやらを果たすためにゾロが役に立つことは知っている可能性はあるな。魔法界にクーデターを起こし、能力を持たない人間を支配下に置く社会を作り上げる。そのためにゾロを利用したい。だからゾロを誘拐した。そんなところか?」
「もしゾロの利用価値を知っているなら、それ以上にサンちゃんをどう巻き込むつもりだったかも知っているよね、絶対」
「そうだな」
「俺?」
「ああ。だって、サンちゃんを巻き込もうとして、それに反対する自分の姉や義兄たちを死に追いやってるし、ゾロに言った『仲間』っていう言葉が気になるよ。クロコダイル卿の死後もその思想が生きているようだから、そのための計画も生きてると思っていいよね?」

 エースはウソップに聞いた。
 ウソップは大きく頷いた。

「そうだな。それに、そう考える方が、ゾロが大人しく捕まった理由が分かる」
「何でだ?」

 間髪いれずに、サンジが聞いた。
 ウソップは、また苦笑した。

「遅かれ早かれ、お前が巻き込まれるからだろう? だったら、敵の懐に入っちまった方が情報は入ってくるじゃねえか」
「だからって、1人で勝手に」
「ゾロは、サンちゃんを守りたいんだよ。力がバレたらただじゃすまないだろうに、その力まで使って。今も5年前も。いつだって、サンちゃんの為ならゾロは危険なんて顧みないよ。言ってるだろ? サンちゃんは、ゾロの特別なんだよ」
「また半人前扱いしやがって」

 心にもないことを吐き捨てながら、サンジはその特徴的な眉を情けないほど下げ、今にも泣き出しそうな表情を見せた。そして、2人から少し離れ、片手で顔を覆いながら、煙草を吸った。
 エースとウソップは、黙ってサンジの心が落ち着くのを待った。
 新しい煙草を1本吸い終わると、サンジはいつものふてぶてしいような表情で2人の元へ歩いてきた。

「ゾロの居場所、検討がついたぜ」

 エースとウソップは驚いた。

「ある意味、灯台下暗しってな。俺の……一族の屋敷だ。だが、確信はねえ。だから、ウソップ、アルビダお姉様の店を調べて、実際に毬藻を持っていた犯人を突き止めてくれ。もし本当に屋敷だとすれば、迂闊に近づくと危険だ」
「今は無人だったはずだよね?」
「だからさ。あそこは誰かが入ったら分かるように結界を張ってある。でも、屋敷内から扉を開けられて入れば、その結界は無効になるだろ? 恐らく物騒なことを考えている連中がそこを溜まり場にしてる可能性があるなら、屋敷内から扉を開けるのは奴だ。つまり、クロコダイルの霊がそこに縛られているってことだ。未練に無念の塊で死んだはずだからな」
「ゾロを奪った理由は、その男の復活か!」

 思わずウソップは叫んだ。

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