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The wizard(25) [10.04.08.〜]


 唐突に周囲が明るくなった。
 途端に流れ込む香水の匂い。
 分かっていても気分が悪い。否、分かっているから余計に気分が悪いのかもな。

「お目覚めよね」

 うるせえ。

「本当につれないんだから。ねえ、姿を見せてくれない? 髑髏も色っぽいけれど」

 うるせえ。触るな!

「痛っ! そんな警戒しなくてもいいじゃない。私はただ、貴方に想いを伝えたいだけよ。聞いてもらえないから感じてもらいたいだけよ。ねえ、貴方に触れさせて」

 何でテメエなんぞに触られなきゃならねえ。本当に気分悪いな。血と思い込ませて聖水でも飲ませてやろうか。あーうぜえ!!

「あんまりにもつれないと、金髪の坊やに嫉妬して少し苛めたくなってしまうわねぇ」

 ………………。

「あら、気持ちを分かってくれたのかしら? やっと貴方に触れさせて……ひっ! な、何!? 苦し……熱っ!! ぎ、ぎゃああああ!!!!!!」

 誰が触らせるか。顔じゃないだけ有り難いと思え。

「何故十字架の焼き印が!? 一体どこに……! いえ、あるはずないわね。どういうこと!?」

 さっさと出ていけ。近くにいるんじゃねえよ。
 ……!!
 この気配!!
 やっぱりコイツか!!

「勝手に近づくなと忠告したはずだ」
「これはどういうことよ! どこに十字架を隠していたのよ、随分じゃない!」
「俺じゃねえ」
「ほかに誰がいるの!」
「いるじゃねえか」
「何言ってるの。ゾロがそんな事出来るわけないでしょ」
「ただの亡霊を俺が必要とすると思うか? こいつは只の魔法使いの亡霊じゃねえ」
「何ですって?」
「それより、言った通り準備出来てるだろうな?」
「ええ」

 何を企んでやがる?

「我が一族のプリンスを守りたけりゃ、髑髏から出てこい」

 ……まだ情報が足りねえ。

「俺は平気であのガキを傷つけられることは知ってる筈だ。まあ、殺しはしねえがな」

 相変わらず嫌な笑い方をする奴だ。
 仕方ねえ。

「よく来たな。亡霊生活も飽きただろう。髑髏の呪縛から解放してやる。その後俺を復活させるんだ」
「いくらお前でも、道具がなけりゃ呪いは解けねぇぞ」
「ちゃんと揃えてあるさ」
「見せろ」
「『約束』したらな。安易に剣を近づけられるか。いいか、俺を復活させろ。そして、俺が元の様に戻れたら、テメエ等を解放してやる」
「テメエ等?」
「テメエと、大事な大事なプリンスだ」
「その前に俺がテメエを殺すとは思わねえのか?」
「だから『約束』するんだろ。お前のことは調べてある。だが、一応の手を打ちながら呪縛を解く。『約束』を反故にしたらどうなるかは、やってみりゃあ分かる」

 ……。

「プリンスはなかなかの美青年に育ったらしいな。その綺麗な顔が苦痛に歪むのは、さぞかし絶景だろうよ」

 コイツ……!!

「あらあ、ここまで言われても仏頂面なの? 貴方の歪んだ表情が見たいのに。思っていた程、サンジは特別じゃないのかしら?」
「特別さ。じゃなきゃ、俺は今頃こんななりじゃねえ」

 この状況じゃあ、選択肢は一つか。

「分かった。テメエを生き返らせる。だが、俺が『約束』を守っている間、あいつには指一本触れるな」
「ああ。『約束』しよう」

 そのにやけ面が信用出来ねえんだがな。
 さて、どうするか。まあ、なるようにしかならねえか。


* * * * *



「記憶が完璧ってわけじゃねえが」

 しばらく沈黙していたサンジが、腹を括ったように話し出した。

「あの男は、魔法使いが悪魔連中と闘ってる現状は、まるでボランティアだって言ってよ」
「ボランティアねえ」

 エースは肩をすくめた。

「昔は、っつっても恐ろしく昔だけどな、俺達の存在も仕事も誰もが知ってて、評価もされてただろ? どこぞの王様になってた奴もいたり。それが今じゃペテン師かアブネエ奴扱いだ」
「じゃあ、その男の使命ってのは、魔法使いの社会的地位向上ってことか? 本当に普通の人間社会と変わらねえな」

 ウソップは、魔法使いの神秘性が薄れるなあと、ちょっと残念そうに付け足した。
 ごめんねーと笑ってから、エースが続いた。

「でも、それなら陰でコソコソ動く必要はないよ。堂々と議論すればいいことだ」
「奴はそんなマトモなことは考えねえよ。対等なんか望まねえ。奴の狙いは支配さ」
「「支配?」」
「ああ」

 サンジは煙草のフィルターを噛み締め、吐き捨てるように言った。

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