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The wizard(19) [10.04.08.〜]


* * * * *



「ゾロは、婚約者を、狂わせ、その手で命を絶ったのか。禁忌を犯してまで生き返らせた、その命を。その上、それだけの歳月を、年も取らず、ただ独りそこにいるのか……」

 どれだけの孤独なんだと、ウソップは呟いた。
 エースはサンジを伺い見た。サンジは、ただ黙ってゾロの方を見ていた。その表情は長い前髪に隠されて見えなかった。
 同じようにサンジを見つめつつ、ウソップはエースに尋ねた。

「どれだけ年月が経てば、ゾロは赦されるんだ?」
「どうだろうね。その辺は書いていなかったからなあ」
「少なくともレディが転生するまでは、髑髏住まいだろ」

 顔はゾロの方に向けたまま、サンジは呟くように言った。。
 ウソップは、サンジがゾロを想っていると分かっている。はっきり聞いたことも言われたこともない。聞けば、もれなく足蹴にされて否定されるだろう。それでも、サンジにとってゾロは特別なことは確かで、ゾロにとってもそうだと思っている。だからこそ、ゾロが禁忌を犯した理由を知った今、サンジの心中を推し量ることは難しいと、思わず溜め息をついた。
 聞きたいことはいろいろあるが、ゾロ本人が出てこないことには知る由もない。

「もうここまで首を突っ込んだら、最後まで聞きたいからね。ゾロが出てきたら吊るし上げよう」
「尋問は俺様に任せてくれ」
「頼もしいね、刑事さん」
「じゃあサンジ、ゾロが出てきたら連絡くれよな」
「サンちゃん?」
「あ、ああ、悪い。分かった、連絡するよ」

 サンジは2人の姿を見送りながら、長いこと外で煙草を吸っていた。


* * * * *



 その夜、サンジはなかなか寝付けなかった。
 ベッドから抜け出し、ゾロの元へ向かう。被せられていた布を取り、鳥篭から髑髏を取り出した。
 なんとなく評議会へ行く前より傷ついて見えるのは、きっと気のせいだろう。髑髏と額を合わせ、目を瞑る。駄目だと思いながら、その口元に軽く触れるだけのキスをした。そして、優しくその胸に抱きしめた。

「ゾロ……」

 誰も聞く者はいない。言ってしまいたい。心の内を叫んでしまいたかった。
 サンジは、いつもの眉間に皺を寄せた不機嫌な顔を思い出しながら、髑髏の眉間を指で擦り、胸に抱えたままソファで眠りについた。


* * * * *



 ちょうど1週間目の朝、ふと気配を感じて目を開けると、ちょっと困ったような顔をしたゾロがいた。

「ゾロ!」
「おう」
「大丈夫なのか?」
「ああ、まあな。ようやく寝れそうだ」
「はあ? 1週間寝っぱなしだったろうが」
「寝てねえよ。痛くて寝れっか。痛いっていうのとも違うか。まあいい。とにかくやっと熟睡できそうなんだ。一応姿を見せておかないと。エースとウソップもうるせえだろ」
「まあな。……って」
「寝てねえって言ったろ? 聞こえてた」
「布、掛けられてたぜ」
「よく見たか? 連れて行かれた時のと違えよ」
「聞こえてたか」
「ああ」

 ベッドに腰掛けたサンジにずいっと顔を寄せた。亡霊のゾロは触れられないから感触はないが、額同士がくっ付いているようだ。

「! 何、顔、近え!」
「てめえがしたことだろ?」
「あ?」

 寝てなくて、エースとウソップとの会話も聞いていたゾロ。ってことは、サンジが髑髏にしたことも当然知っているわけで……。

「ななな、何、え、何だよ、ちょっと待て! 落ち着け!」
「てめえがな」

 くくっと喉の奥で笑った顔に、思わず見とれた。
 その時。

「!!!!!!」
「今日は寝るから、エースやウソップにまたにしてもらってくれ」

 そう言って、大きな欠伸をしながら髑髏に消えた。

 感触は、ない。でも、確かにゾロの唇が触れた。
 サンジは、真っ赤な顔のまま、しばらくその場を動けなかった。


* * * * *



 地獄なんてところは、何回来ても慣れやしない。
 肉体の苦痛なんて、魂で感じるそいつに比べりゃなんてことはない。さっさと負けちまえば楽になれそうなものを、こんな時は自分のタフさと性格が徒になるが、今回ばかりは早く戻りたくて仕方なかった。
 正直なところ、禁忌やら罪悪やら背徳やら、そんなものは最初からどうでもよかった。
 共に生きようと、愛していると言われた。だから、ただ再び共に生きることを望んだだけだった。
 それが愛した女に刃を突き立てることになるとは。
 くいなが、俺のしたこととそれをした俺自身を否定した時、それまでの何もかもが虚構になった。幼い時から必死になった自分の存在意義など最初からなかったんだと絶望もした。
 くいなの胸に白い刃を突き立てた時に俺の精神は無に帰し、自分の首を切り落とした時にその肉体も捨て去った。
 ただそこにあるだけの霊体に成り下がる。
 動物のように特に本能的なものであるほど近づくものはなく、まして人ともなれば、曰く付きの髑髏になど誰もが恐怖と嫌悪で近づくことはなかった。
 喜び近づくのは、地獄に落とされた時にここぞとばかりな様子の悪魔共だけだ。
 あることすら忘れられた、ないことにされた霊体。
 それでよかった。
 小さな手を伸ばされるまでは。

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