The wizard(18) [10.04.08.〜]
「絶対の禁忌は、死者を甦らせる事なんだ。そのための魔法の研究は許されていないし、またそれに繋がりかねない一切のことが禁じられている」
「まあ当然といえば当然だよな。それにいくらなんでも無理だろ」
「うん。理論的にも不可能だといわれてる」
「いわれてる?」
「禁じられて研究されてないから断言してないだけだよ。不可能だということを証明されてないから、断言しない。でもまあ、無理だろうね。小さい頃から読まされる絵本に、禁忌を犯して死者を甦らそうとした魔法使いの話があるんだけど、もちろん成功しないどころか、その後本人も大変な目に合うんだ」
「啓発絵本か」
絵本の類いに興味のあるウソップは、読んでみたいと思った。
「インプリンティング。洗脳に近いよな」
「サンちゃ〜ん」
ちょっといたずらな目をしていたのは、そこまでだった。
「でもね、その絵本は全くの作り話じゃなかったんだよ。実際に禁忌を犯した魔法使いが実在した。それも研究とかのレベルじゃない」
サンジは煙草を握りつぶし、ウソップは持っていたグラスをテーブルへ置いた。
エースはビールを一口飲んで、続けた。
「ゾロは、死者を甦らせたんだ」
どれくらい沈黙が続いただろう。ほんの僅かだったか、それとも数分はあったのか。
サンジからは、人形のように表情が消えていた。
ウソップは刑事らしい思案顔をしていた。
エースは黙って2人が落ち着くのを待った。
ウソップは、独り言のようにサンジに言った。
「ゾロは、サンジもゾロの罪状を知らないと俺に言ったんだけどよ」
「ああ、知らなかったな」
表情のないままに答えた。
ウソップはエースを見た。
「それを何であんたが知ってるんだ?」
「さすが刑事さんだなあ」
「俺も知りてえ。どうやって調べた?」
「まあ……ちょっとね」
相変わらずおどけた様子で答えるが、そこに少しの困惑が混じっているのを、敏腕刑事が見逃してくれる筈もない。
「マズいことをやらかしたのか?」
「いや、まあ」
ヒュッと黒い閃光が走り、エースの首ギリギリのところでサンジの足が止まった。
「とっとと吐きやがれ。次は本当にオロスぞ」
「分かったよ」
観念したエースは、座り直して2人に向き合った。
「さっき言ったように、ゾロへの刑の執行中、お偉方はみんなそっちにかかりっきりになる。だから、その隙にちょっと保管庫へお邪魔したんだ」
「保管庫?」
「まあ資料室ってかんじかな。ピンキリな情報満載の部屋だ。X-ファイルの真相も眠ってるよ」
エースは、ウソップに茶目っ気たっぷりに話した。
思わず食いつきそうになったが、その話は後だと自制する。曲がりなりにも刑事だという自覚はたっぷりある。
「許可取ったわけねえよな?」
「くれないの分かってるからね」
「すげえ量だっただろ? よく毬藻の資料なんか見つけられたな」
以前罰として最近の資料整理をさせられた時のことを思い出し、サンジはウンザリした。
「仕事柄、資料整理は得意だからね。割と簡単に見つけられたよ。ある意味目立ったし」
「目立った?」
「うん。仕舞ってある場所は分かりにくいんだけど、資料自体はね。何せ異様な薄さだから」
「魔法使いの場合は知らねえけど、大罪の調書ってのは、膨大になるもんじゃねえのか?」
ウソップは、署の資料室を思い出す。
「普通はね。小さな事でも資料はそれなりの量になるものだろう? その中にあって、数枚だけの資料があったんだ」
「それが毬藻のか」
サンジは、フーッと長く煙を吐き出した。
「何が書いてあったんだ?」
「本当に少ししか書かれていないんだ。具体的な魔法の件は全く書かれていない。簡単な裁判記録だけって感じでね。でもまあ、ゾロの身に下ったことだけは分かった」
約300年前、一人の魔法使い、くいなが悪魔の手にかかり死亡した。その死を悲しんだ婚約者のゾロは、魔法界の禁忌を犯し、くいなを甦らせた。
だが、甦ったくいなはそれを受け入れられず、半狂乱に陥った。だが、ゾロが裁かれることになると正気を取り戻し、自らの生を否定、死を求めた。だが、その高潔なまでの正義感に感服した最高評議会は、時を経てくいなを転生させることを許可した。
そして、贖罪の一つとして、ゾロの手でくいなの胸に白刃を突き立て、昇天させた。
一方ゾロは、刑に従い、赤い刀で自ら首を切り落とした。
最大の罪を犯したゾロは、その肉体とそこに宿る能力全てを剥奪され、その魂は浄化されることを許されず、まず地獄へと落とされ、骸の首が髑髏になると、それに魂を縛り付けらた。また、その類い稀な知識は、魔法界の為にのみ駆使することも命ぜられた。
そして50年に一度、魂は地獄へ送られ、その業火を受けさせられた後、また髑髏へと戻されることを繰り返す。
どんな形であれ、魔法界へのマイナスな兆候が少しでも見受けられれば、くいなの転生は差し止められ、ゾロも永遠に地獄へ送られることになるのだ。
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