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The wizard(15) [10.04.08.〜]


* * * * *



 評議会に出廷すると、審議も何も、一言も話すことも許されなかった。
 ゾロは、議長の呼び掛けにその姿を現した。何を聞かれるのか、どうされるのか、心配と緊張が走ったが、その場に居合わせることも許されず、問答無用で懲罰房に放り込まれた。
 議場から引きずり出される俺を、ゾロはいつもの皮肉めいた笑顔で見ていた。


* * * * *



懲罰房に入ると、時間の感覚がおかしくなる。いつもと違って落ち着かないのは、髑髏が側にないからだとは思いたくない。
 暇すぎて、つい余計な事を考えてしまう。
 遠い昔、死ぬことも許されない罪を犯した魔法使い。その戒められた身柄を代々預かって監視している一族。
 でも俺は、犯した罪を知らない。一族のことも実はよく分かっていない。一族といっても自分以外もういない。だからか、一族の教育が施されないままだ。その方が評議会にとっても都合がいいらしく、髑髏と俺を纏めて監視していた。イライラしながらも、ただ黙って現状に甘んじていた。
 本当は、いつだって知りたかった。
 でも、幼心に知りたがったら取り上げられると思った。独りになりたくなかったから、必死に勉強した。俺の態度如何でゾロの評価も変わってくると、魔法の使い方にも気をつけた。
 でも、今はもうあの頃とは違う。
 それなりに力もつけた。評議会と対峙する覚悟もできた。
 何より、知りたい。知れば何かが変わるだろう。変わることが怖かったが、今回の件で、何だかよく分からないが、もういいやと開き直った。
 過去をとやかく言いたいわけじゃない。あまりにも知らなすぎて淋しいのだ。側にいるからと誤魔化してきたが、もういい。もっともっと側にいたい。自分の心の側に、ゾロの心が欲しい。ゾロにとって自分は特別だという自負はある。でも、その特別の持つ意味は知らない。それが知りたい。そのためにはゾロの過去を知る必要があると思う。だから知りたいのだ。
 その身体を抱きしめることはおろか手を触れることさえできない。だから、せめてその心は抱きしめたいと思う。その罪も、痛みも、孤独も、全てひっくるめて。ほかの誰でもなく、俺だけが。
 もう限界だった。
 ここを出たら、ゾロと話そう。
 喧嘩になっても、傷ついても、傷つけても、逃げないし、逃がさない。ちゃんと聞きたい事を聞いて、知りたいことを教えてもらって。その後どうなるかなんて想像もつかないし、怖いけれど。
 もし玉砕したときには、ウソップと自棄酒でも飲もう。
 早くここから出たいと、切実に思う。

 ゾロに会いたい。


* * * * *



 それからどれくらい経ったのか。
 房に入れられた時と同様な唐突さで放り出された。
 いつもなら延々とお小言を賜るのだが、それもないどころか出廷さえないままだ。

「何だか気味悪いな」
「何が?」
「まあいいや。帰っていいんだろ?」
「うん。気をつけて」

 エースの言い方が何故か引っかかった。

「何に気をつけるんだ?」
「別に。挨拶だよ」

 その笑顔の目の奥は、やはり笑っていない。でも、いつもとはまた何かが違う気がする。

「はい、荷物。ゾロは1週間ほど出られないってさ」
「あ?」
「相当なダメージらしい。キツいようだな」
「ダメージ? あいつが?」

 びっくりした。
 普通の霊は、結界にふれたり聖なるものに近づいたりするとダメージを受ける。
 でも、ゾロは普通の霊ではないから、そういったものとは無縁だ。つまり、何も感じられないのだ。
 それが回復するのに一週間もかかるダメージを受けるとは、一体どれほどの術をかけられたのだろうか。

「エースはその場にいたのか?」
「まさか。俺みたいな下っ端評議委員なんて、ゾロに関われるわけないよ。俺がサンジの担当だからゾロに会えたり話したりできるんだ。そうじゃなかったら、ゾロも髑髏から姿を現さないよ。ゾロはちゃんと弁えてるから。でも、大丈夫。ゾロはサンちゃんの為にならないことはしないよ。ゾロにとって、サンちゃんは全てだから」
「何だよ、それ」
「俺の妬きもちかな」

 ちょっとおどけたように、いたずらな笑顔を向けた。

「さ〜て、あんまりここで油売ってるのもよくないからね。取りあえず今日はもう真っ直ぐ帰りなよ」
「話が中途半端だぞ」
「ここに長居はよくないだろう? 俺は、サンちゃんをここからさっさと帰せって命令を受けてるんだから」
「なんかすっきりしねえな」

 思わず声に出てしまっていた。

「眉間に皺が寄ってるよ」

 エースはサンジの眉間を人差し指でぐりぐりと撫でた。それは、サンジがゾロによくやる仕草だった。

「いつもはこんなことできないもんなあ」
「あ?」
「今のうちに触っておこう♪」

 今度はサンジの頭を撫でた。

「エース」
「いつもは弾かれちゃうからね」

 気付いてないだろうとからかうように言った後、少し悲しいような、優しい笑顔になった。

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