The wizard(14) [10.04.08.〜]
その夜、店を閉めた後、奥の部屋で昼のウソップの話をしていた時だった。
「サンちゃ〜ん」
店から声がした。
サンジは、溜め息を一つついた。
「……エース、だよな」
「ああ」
「バレたかな」
「だろうな」
もう一つ溜め息をついてから立ち上がり、店へ向かう。ゾロもその後ろに続いた。
「サンちゃん」
エースはちょっと困ったような表情でそこにいた。
「本日の営業は終わりました、クソお客様」
「残念ながら、サンちゃんのご飯を食べに来たんじゃないんだよねぇ」
「やっぱりなあ。今回は何日くらいだ?」
「さあね。それに……」
エースは少し強張った表情でゾロを見た。
「ゾロ、お前もだ。いつもの付き添いってわけじゃなく、ご指名だ」
「何でだよ。毬藻にゃ何にもできねえのは分かってる筈だろ? 評議会が力も自由も奪ったんだから」
間髪入れずに怒鳴り返したサンジとは対照的に、ゾロは片方の眉を上げただけだった。
「その辺は俺にもよく分からないんだよね。だから、理由を聞いてみたんだけど」
「何でだって?」
「『お前が知る必要はない』だってさ」
「ああ? それで引き下がったのか?」
「サンちゃ〜ん」
いきり立つ様子に思わず苦笑した。
「そもそもゾロは謎だらけなんだ。上層部中の上層部しか真実は知らない。その存在の全てに関して、触れないことは暗黙の了解だ」
「だから何だってんだ」
「分からないかな。いないことにしている存在を名指しで呼び出したんだぞ。おかしな話だ。上層部が動くとなると、事はデカい」
「な……」
「何でもねえよ」
それまで黙っていたゾロが、口を挟んだ。
「定期的に呼び出されて、術を重ねられてるから、今回もそんなもんだろ」
どこか緊迫感を含んだ2人とは対照的に、欠伸混じりに言う。
「……初めて聞いたぞ」
「そりゃそうだろ」
「何で言わねえ?」
「定期的といっても何十年間隔だからな。次がいつかなんかいちいち覚えてられるか」
「じゃあ、問題ねえんだな?」
「ああ」
「とにかく、2人まとめて評議会に出廷だ。サンちゃん、準備して。あ、ゾロは俺が預かるから」
「何で」「‘俺が’連れてこいと言われたから。分かったら準備してね」
有無を言わせない、あの目の奥の笑っていない笑顔に、また食ってかかろうとしたが、ゾロの視線を感じてそちらに視線をやると、無言で「行け」と言いやがった。偉そうに!
「くそっ!」
床を踏み抜くんじゃないかという荒々しい足音をさせながら、サンジは奥の部屋へと入っていった。
「ゾロ」
片方の眉を上げて応える。
「本当か?」
「呼び出しか? 本当だ。術が弱まってくるとかけ直されてきた」
「ふうん……。じゃあ、本当に問題ないんだな? これはその呼び出しなんだな?」
これにも片方の眉を上げて応えた。
どうとでも取れるその態度に、エースが何か言おうとして、止めた。
そこへサンジが戻ってきた。左手にはホッケーのスティック、右手には大事に抱え込むようにして髑髏を持っている。
「こいつはどうやって持っていく気だ?」
「これに」
そういって、エースはポンと鳥篭を出して見せた。
「ったく、趣味の悪いこって」
悪態をつくサンジの右手は、なかなか髑髏を収めようとはしない。
「おい、1人で懲罰房に入れるのか? 怖いんじゃねえのか? 半人前のお子様が」
「半人前じゃねえ! だれがお子様だ、怖くねえよ!!」
そう怒鳴って、髑髏を鳥篭に入れた瞬間、それに引きずられる様にゾロの姿が消えた。
「強力な呪文と結界で作られた特製の檻だそうだ。で、さらにこいつを被せる、と」
そういって、黒い布を鳥篭に被せた。布の裏側には、目には見えない文字がびっしり書き込まれていた。
「何でここまで?」
「さあ。さすがに俺もゾロについては何にも知らないよ。サンちゃんは、本人から何か聞いているんじゃないの?」
「改まって何か聞くこたあねえからな」
「これだけ側にいると、そんなもんかもしれないね。特にゾロは。まあ、それは追々。じゃあ行くよ」
「あ、ちょっと待ってくれ」
そういうと、ドアに『close』のプレートを掲げた。
そして、エースとともにサンジの姿も消えた。
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