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The wizard(13) [10.04.08.〜]


「レディを笑いのネタにするんじゃねえ!」
「いってえ!!」

 サンジはトレイでウソップの頭を叩き、そのまま仕事に戻っていった。

「飯時だから、蹴られねえと思ったんだけどな。トレイを忘れてた」
「角でやられなかっただけマシだ。続きは食いながらでいい」

 くくっと笑いながら、食事をするよう促した。

「サンキュー。あの教会、悪魔払いや何やらで、その筋ではすげえ有名な教会なんだってな。知ってたか?……相変わらずうめえな、サンジの飯は」
「ああ。今と違って、そういうことを隠したりしなかったからな。悪魔払いとか、霊とか。今じゃ信じねえ方が普通だろ」
「そうだなあ。ナミなんて、正にな。今回のもナミがシスターに食ってかかってたけど、まあ向こうの方が数段上手だな」
「年季が違えよ。あのばあさん、俺を見ても動じなかったしな」

 食べる手が止まって、ウソップはゾロを凝視した。

「お前、教会に入れるのか?」
「ああ」
「霊は入れねえんじゃねえのか?」
「俺は悪霊じゃねえよ」
「悪いのは面構えと頭の中身だ。ほらよ、ウソップ。スペシャルブレンドのアイスティーだ」

 サンジは言うだけ言って、グラスを置いてまた仕事に戻っていった。

「アホの権化が入れるのに、俺が入れないわけあるか」
「てめえ! 人がいねえ時に言うのは卑怯じゃねえか、毬藻頭!!」
「聞こえてんなら問題ねえだろ。俺は誰とは言ってねえ。自覚してるって訳だ。アホの権化」
「ったく、お前ら、続きは客がいねえときにしろ! せっかくの飯がまずくなるだろ!」
「俺の料理がまずいだと!?」
「そうじゃねえ! ほら、レディ達が怯えてるぞ」
「ああ! 俺としたことが!!せっかくの楽しい時間を台無しにしてしまうところでした。レディ達、心よりお詫びを」

 けっと吐き捨てたゾロをサンジは一瞥したが、ゾロは見向きもしなかった。

「本当にどうしようもねえな、お前ら」
「うるせえ。話が終わりなら、戻るぞ」
「食事が終わるまで付き合えよ。続きも知りてえし」
 
 ゾロは片眉を上げた。
 ウソップは小声で聞いた。

「悪霊じゃねえとしても、霊だろ? 教会なんて入ったら、消えちまったりしないのか?」
「俺は未練があってこの世に残っているわけじゃねえからな。除霊も無理だ」
「じゃあ、お前は何でそんなになっちまったんだ? 普通は心残りがあってとか、そういうもんだろ? 除霊も無理とか、普通じゃねえってことだろ? あ、いや、立ち入ったことだよな、悪い。答えられないならいいんだ。うん、悪い」
「いや、構わねえよ。俺は罪人で、これは俺に下された刑ってこった」

 予想もしていなかった答えに、ウソップは言葉を失った。

「罪人?」
「おう」
「何をやらかしたんだ?」
「死刑すら軽いと判断されるだけのことだ」

 この男には珍しく、ちょっと困ったような苦笑いのような表情をした。

「……サンジは知ってるのか?」
「何を?」
「罪状」
「いや」
「何で?」
「聞かねえから」
「何で聞かねえ? これだけ一緒にいて」
「俺が答えないからだろうな」
「何で?」
「さっきからそればっかりだな」
「職業病だ。で? 何で答えないんだ?」
「知ってどうする?」
「どうするって……」
「あいつが知る必要はねえ。それだけだ」

 そう言ったゾロの目には、何とも言えない感情が浮かんでいた。言わないことはサンジの為なんだと、ウソップには思えた。

「……そうか。答えてくれて、ありがとうな」

 ゾロは、いつものように片眉を上げて応えた。そして、サンジを見た。

「あいつは救いようのないアホだからな。お前みたいな奴とつるんでねえと、ますますアホになる一方だ」

 ウソップもサンジを見た。くるくると、女性客には最高の対応を、男性客には適当な対応をしながらも、楽しそうな表情をしている。
 そっとゾロに目を移すと、いつものふてぶてしい表情が、ほんの少しだけ揺らいでいた。
 何となく見ていられなくなり、またサンジに視線を移すと、それに気付いたサンジがこっちへ歩いてきた。

「どうした?」
「あ、ああ、今日も美味かったぜ」
「当たり前だ」
「今回の事件、情報提供の謝礼が署から出た。身元判明に多大な貢献ってわけだ。で、こっちは俺個人の謝礼な」
「よし、ウソップ、今日のランチはおごりだぜ」
「サンキュー。じゃあ、俺は署に戻る。本当に助かった、ありがとうな。またよろしく頼むぜ」
「おう。頑張って働いてこい」
「お前もな。……ゾロ、サンキュー」
「いや。またな」

 そういって、2人して席を立ち、ゾロは部屋の奥へと消え、それを見届けてからウソップは店を出た。
 サンジがゾロに特別な想いを抱いていることは、なんとなく感じていた。
 そして今日、ゾロの心の奥底にあるものを、ほんの少し、本当にほんの少しだが垣間見せて貰った様な気がした。
 無性に恋人の胸で泣きたくなって仕方がない。
 その気持ちを振り切るように、走って署に向かった。



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