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The wizard(12) [10.04.08.〜]


「やっぱりレディの幸せの涙は、ダイヤモンド以上の宝石だな♪」

 サンジの声で、ようやく我に返ったアルビダは、聞かずにはおれなかった。

「どういうこと?」
「コーザは2人いたんですよ」
「え?」
「俺は魔法使いですから。お忘れですか?」

 そういって、サンジは綺麗に笑った。

 結局、種を明かしてもらえず、不満顔のままでアルビダは自分の店へと帰っていった。
 そして、コーザとビビは、魔方陣や呪文、それからアルビダ同様の疑問など、今回の件に関するあらゆることを他言しないことはもちろん、個人的な追及も一切行わないことを約束した。知ってしまったことを隠し通すより、最初から知らないままでいた方が安全だと、暗黙のうちに理解した。
 2人は、サンジのアドバイスを聞き入れ、このままあの教会に身を隠すことにした。連絡を受けたシスターは、詮索はせずとも状況を感じ取ったのか、快く了承してくれ、街を出るための段取りやその守護をも請け負ってくれた。サンジ特製の魔除けのお守りを受け取り、何度も何度も頭を下げ、店を後にした。
 誰もいなくなった店内で、サンジは大きな伸びをした。「さ〜て、片付けるか」

 そう言って、魔方陣の真ん中に立ち、その床板をつま先で叩いた。ちょっとしたコツがいるが、そうすると床板がパコッと外れる。その中には、髑髏が納まっていた。
 魔方陣は本棚の目の前に描かれていたが、その本棚の後ろは例の隠し部屋だ。その部屋には、本棚を挟んで対称的な位置に、同じ魔方陣が描かれていた。実際には、コーザはそこの魔方陣で『鎖』を破壊する儀式を受けていた。皆が見ていた店の魔方陣の中のコーザは、隠し部屋の彼を投影したゾロだった。ギンが消したコーザは、単にゾロが消えただけで、本物のコーザは隠し部屋に潜んでいたというわけだ。

「大役、ご苦労さん」
「おう。久々の三文芝居だな」
「いやいや、なかなかの名演技だったぞ」
「騙せたか?」
「ギンはな。ただ……」
「評議会には、そのうちばれるだろうな」
「まあ、その時はその時だな。どうせ謹慎処分だろ」
「それで済むか?」
「禁固刑かもな」
「さすがに俺もだろうな」
「いつもだろ?」
「いつもはてめえだけが罰されているんだろうが。俺は魔法使いじゃねえ。処分を受けているてめえを監視しなきゃならないから一緒にいただけだ。俺は謹慎していたわけじゃねえよ」
「てめえ、悪の手先だったのか」
「何が悪だ、アホ。まあいい。後片付けするんだろ? 俺は寝る」

 ゾロが消えた後、サンジは髑髏を取り上げ、大事に胸に抱え込み、優しく指で撫でていた。
 あの呪文でゾロが壊れることはない。ギンに消されることもない。理性で分かっていても感情がついていかない。何度経験すれば慣れるのだろうか。
 こんなに側にいるのに。誰よりも一緒にいるのに。
 これからもずっとそうなんだから、こんな気持ちはくだらねえと無理矢理心の奥底に押しやってやる。

「さ〜て、片付けるか」

 さっきと同じ台詞を吐いて、自分を振り切った。


* * * * *



「いらっしゃーい……なんだ、ウソップか」
「なんだとは失礼だな」

 数日後、ランチタイムにウソップが訪れた。こんな時間帯を設けているから、余計に本業がどっちか分からなくなるんだろうと思うが、迂闊に口にしたら倍になって返ってくる。
 それに、ここのランチは値段も味もダントツだ。メニューは女性向きだが。

「この間はありがとうな」
「おう、進展したか?」
「手の紋様の情報から身元が割れたぜ」
「そいつはよかった。ゆっくり話聞きてえが、今は毬藻で我慢してくれ」

 そう言って、席を指差しながら奥へ向かい、パーテーションの向こうに声をかけた。

「日替わりランチでいいか?」
「おう、よろしく〜」
「情報が役に立ったって?」

 パーテーションの向こうからゾロが出て来て座った。店にいた客の視線が集まる。
 当然ながら、普段ゾロがこれほど客の側に来たりはしない。多少の優越感を感じる自分をミーハーだと思いながらも、そんな自分も意外と嫌いではない。

「まあ確かにいい男だよな」
「あ?」
「無自覚が鼻に付かねえのは、本当のいい男である証拠だって話だ」
「ああ?」
「まあいいや。教会のポストから指紋が採取できたんだよ。あの男、前科があったからすぐに身元が分かった。まあ、俺はお前のお陰で分かってはいたけどよ、さすがに証拠がなかったからどうもできねえかと思ったんだが、証拠と目撃証言が揃ったから、本当助かった」
「目撃者がいたのか?」
「ああ。教会のシスターが、あの男がポストの蓋を開けるのを見てたんだ。あのポストが使われるのは珍しいって言ってた通り、新しい指紋は一つだけだったから、その指紋はその男のものだと判断して、シスターに写真を見て貰ったってわけだ」
「手が焼けたことについては、何の問題にもならなかったのか?」
「なったはなったんだ。けどよ」

 ウソップが一息ついて、姿勢を正し、祈るように手を合わせた。

「『ここは教会です。悪の心では立ち入ることはできませんから』ってな」

 シスターを真似た姿に、ゾロは思わず吹き出した。

「おらよ、ランチ、お待ちどう……って、随分と楽しそうだな」
「おう。ゾロ、後でサンジに話す時、そっくりそのまま伝えろよ」
「アホか、誰がやるか」
「何だ何だ、気になるじゃねえか」
「リアリティは大切ですわ」

 またシスターを真似た口調で、祈りのポーズを取った。ゾロはまた吹き出した。

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