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The wizard(11) [10.04.08.〜]


「……時間がねえのに、お茶かよ」
「緊張と不安を少しでも取り除いて差し上げるためだ。読みながら召し上がれるだろうが。テメエのはねえぞ。まずはテーブルと椅子を片付けてスペースを作りやがれ」

 コーザに指示を出しながら、一切手を貸さず、しかし抜け目のない様、しっかりと目を光らせていた。


* * * * *



 数十分後、床には魔法陣が描かれ、その中心には『鎖』を持ったコーザが立っている。
 魔法陣の外には、ビビが塩で書いた円の中に立つ。
 不安そうなビビに対して、揺らがない視線を注ぐコーザ。
 サンジは退かしたテーブルに寄っ掛かりながら、黙ってその様子を傍観していた。

「ビビ」

 名前を呼ばれ、手にしている数枚のメモを反射的に握りしめた彼女を宥めるように、優しい声で続けた。

「俺は大丈夫。さあ、始めてくれ」

 ビビは目を瞑って俯くと、意を決したように顔を上げた。
 メモを広げ、そこに書かれた言葉を読み上げていく。
 すると、魔法陣が少しずつ光り出し、コーザの握る『鎖』が熱を持ち始める。言葉が進むにつれ、魔法陣の放つ光は強まり、30p程しかなかった『鎖』が、まるでこれまで見えていなかっただけだというように片端がどんどんと姿を現し、同じように表れたコーザの首輪に繋がれた。
その姿を見、一生懸命に涙を堪えながら、ビビはメモの言葉を読み上げ続ける。コーザは、不安を煽らないように必死に声を上げる事を堪えていたが、光がどんどんと強まり、その姿がすっかり見えなくなった時、とうとう苦しみを爆発させるような雄叫びを上げた。それでもビビは気丈に最後まで読み上げた。
 光が一際強くなり、辺りが真っ白になったかと思った次の瞬間、何事もなかったように光が消えた。
 魔方陣の中にはコーザが倒れていた。持っていた『鎖』も、表れた首輪も消えていた。

「コーザ……?」

 ビビの声に、瞼が反応した。ゆっくりゆっくりと目が開かれる姿に、感極まって近寄ろうとするビビの腕をサンジが捕まえた。

「円から出たら駄目だよ」

 優しい笑顔に気が緩んだが、サンジの視線がふいに自分からその後方へ流れた。
振り返ると、そこにはエースとギンが立っていた。

「サンジさん……」
「おう、ギン。大分元気になったみたいじゃねえか」
「サンちゃ〜ん。この件には関与は駄目だって言ったよねえ」
「俺は何にもしてねえよ。下手に世間の目に入っちゃあ問題だろ? だから、場所を提供しただけさ。これを書いたのも、呪文と唱えたのも俺じゃねえ。もちろん教えたのも俺じゃねえ」
「何で止めなかった? せめて知らせてくれてもよかったんじゃないかな?」
「評議会の決定に従ってたからさ。関与はご法度なんだろ? だから、ただ見てたんだよ。知らぬ存ぜぬ、見て見ぬ振りってやつだ」

 そういって、煙草に火をつけ、ゆっくりと吸い込んだ。

「じゃあ、そのまま、ただ見ていてください」

 そう言いながら、ギンが魔方陣の側へ寄り、まだ起き上がれないでいるコーザを見下ろした。

「コーザ!!」
「ビビちゃん、動くな!!」
「『鎖』を壊してくれてありがとうよ。これでキサマを消しても体面が立つ」

 言うや否や、ギンが右手に持った武器を振り下ろした。コーザは、叫ぶ間もなく黒い煙となって消えた。

「いやあ! コーザ!!」
「ビビちゃん、駄目だ!!」

 サンジに押さえられているビビに、ギンが相対した。

「ビビちゃんは関係ねえぞ。彼女の身を守るのは、俺の仕事だ。それを邪魔するってえなら、相手してやるぜ」

 サンジの本気を感じ取り、エースが1歩前へ出たが、ギンはそれを手で制して言った。

「俺は、契約違反をした者に処分を下しに来ただけだ。その女とは何の契約もかわしちゃいねえ。だから何もしねえ。それに、サンジさんと対立する気なんざねえですよ。今回は俺が不甲斐ないせいであんたにも迷惑かけちまった。本当にすまねえ」
「用が済んだなら、とっとと帰れ。エースもだ。見てただろ。俺は何にもしてねえぞ」
「まあ、確かにね」

 エースは軽く肩をすくめて応じた。

「じゃあ、俺は評議会に終わったことを報告しに行ってくるよ。またね、サンちゃん」

 名残惜しそうな視線をサンジに投げたままのギンを連れて、エースは消えた。

「やれやれ。ビビちゃん、大丈夫?」
「コーザ……」
「あら、失敗したの?」

 そう言いながら、今度はアルビダが現れた。

「こんな時間に出歩かれるなんて珍しいですね、アルビダお姉様」
「あら、やっぱり気になるでしょう? そちらがコーザのフィアンセね。まあ可愛らしいお嬢さんね」
「……サンジさん、この方が?」
「そう、コーザに入れ知恵なさった人だよ」
「入れ知恵なんて、随分な言われ様ね。でも、コーザが消されてしまったのなら、それも仕方がないわね。良かれと思ったことなんだけど、まさか失敗するなんて……」
「失敗なんてさせませんよ。俺がついていながら、みすみすレディが悲しみの涙を流すようなことを許すとお思いですか?」
「でも、ギンが彼を消すところを“見た”わよ」
「ええ、確かにね。これは愛の生せる奇跡ということで」

 アルビダに向かってにっこり笑ってから、本棚の方に向かって言った。

「おい、もういいぞ」

 すると、その後ろからコーザが出てきた。
 声も出ないまま、ビビはコーザに駆け寄り、2人はしっかりと抱き合った。
 さすがにアルビダも絶句した。

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