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The wizard(7) [10.04.08.〜]


「コーザが何か?」
「行方不明なんです。それから『鎖』もね。ギンは、一服盛られたようで、具合が悪そうでした」
「顔色の悪さはいつものことでしょ?」
「確かにね」

 ワイングラスを置き、アルビダはその細い指でサンジの頬を撫でた。

「私は彼に教えてあげただけよ」
「何をですか?」
「『鎖』を壊す魔法陣があるってこと。もちろんコーザは、耐えていればいつかはなくなることを知っていたわ。それでも彼は一刻も早く断ち切りたいと望んだのよ。私も可愛い婚約者との人生を心から幸せなものにしてあげたいと思ったから、教えてあげたの。それだけよ」
「ああ、レディ。そのお心までもお美しい。でも、じゃあ薬は?」
「薬?」
「悪魔に効く薬を扱える人は、限られていますからね」

 柔らかではあるが、真っ直ぐにアルビダを見つめた。
 誤魔化しようがないと思ったか、あるいは初めから誤魔化すつもりはなかったのか。アルビダはちょっと肩を竦めて見せ、挑発的に微笑み、グラスを口に運んだ。

「この件、評議会にも知られていますよ。好んで対立するとは、賢明な貴女らしくありませんね」
「あら、私が評議会を敵に回すつもりなんてあるわけないでしょ。それに、評議会はこの件に関して関与しない。そうでしょう?」
「もうお耳に入っていましたか。さすが情報通でいらっしゃる」
「褒められると、何だか心が痛むわねえ」

 吸血鬼の本性を覗かせる妖しく美しい笑みを浮かべて言った。

「だって、評議会に追われるのはアナタなんですもの」

 サンジもさすがに軽く目を見張った。

「私は『狩り』をしたわけじゃない。魔法陣の話をしただけよ。それから、『悪魔に効くくらいの睡眠薬が欲しい』と言われたから与えただけ。誰にとっても毒ではない薬よ。それをコーザが何に使うつもりなのかなんて聞かなかったわ。用途なんて、私の知るところではないもの。魔法陣の話も薬も、違反ではないもの。私が評議会に罰せられる理由はないわ。でも、関与を禁じられていることを知りながら可愛い女の子を助けたりしたら、アナタは罰せられてしまうわねえ」
「それが貴女のお望みですか?」

 アルビダはそれに答えず、サンジの目を見ながらワインを飲んだ。

「貴女のようなお美しいレディを怒らせるような不届きなことをしちまったかなあ」
「そんなことはないわよ」
「じゃあ、何故?」
「アナタに落ち度はないし、嫌いな訳でもないわ。むしろ好きよ」

 入ってきた時と同じように、重厚な扉が静かに開いた。

「ごめんなさいね」

 やはり妖艶な笑みを浮かべたまま、部屋から出て行くよう無言で促した。



* * * * *



 アルビダの店を出て、古い建物や教会などが多く残る地区を歩いていた。
 いつの間にか目を覚ましたのか、或いは始めから起きていたのか、デイバッグから声がした。

「見境なく女に言い寄るからだ」
「ああ!?」
「あの女にいいように踊らされる羽目になりやがって」
「踊らされてねえ」
「これから踊らされるんだろうが」
「踊らねえよ」
「じゃあ今すぐ家に帰れ」
「誰が帰るかよ。あの紋様を探さねえと」
「関わると、評議会から罰せられるぞ」
「ビビちゃんが困ってるんだ! 俺に助けを求めてきたんだぞ! レディに頼られるなんざ男冥利につきるってもんだろうが! それに応えるは男の義務だ! 評議会がなんだ! ビビちゃん、このサンジ、喜んで貴女のために恋の奴隷になります〜!」
「十分踊らされてんじゃねえか」
「踊らされてねえ、踊ってんだ。ビビちゃんのためなら何だって踊るぜ!」
「アホか」
「何だと!?」

 一応周囲を気にして小声ではあるが、時々怪訝な顔で通り過ぎる人がいることにようやく気づいたサンジは、小さく舌打ちをした。

「それよりまずあの紋様を突き止めねえと」
「評議会の決定は無視か。あの女の目的が分かっていながら、てめえから首を突っ込むのか?」
 
 さっきまでの小声ではない、はっきりと発せられたテノールに、サンジは勢いよく振り返った。ほぼ同じ視線の高さにある琥珀の瞳が、真っ直ぐにサンジを射る。そこには、発せられた言葉にあるような非難ではなく、その身を案じている様子が浮かんでいた。ゾロ、と、声には出さずにその名を呼んだのは、恐らくは無意識だった。

「評議会の決定を聞くより先に依頼を受けてる。どっちが優先されるかなんて、明白だろ?」
「それだけか?」
「いや。アルビダお姉様が何を考えていらっしゃるか、それを知るには、お姉様のご希望を叶えてさしあげるのが一番手っ取り早いと思わねえか?」
「女と見りゃあ、誰彼構わず鼻の下伸ばしてるからこういうことになるんだろうが」

 またさっきと同じようなことを言われ、思わず口走った。

「人のこと、言えんのかよ」
「あ?」
「繊細なプライドを傷つけたとばっちりが俺に向いてるだけなんじゃねえのか? こっちこそいい迷惑だ」
「は?」
「アルビダお姉様は、マッチョマンがお好みらしいからな」
「何だそれは」
「だーかーらー!! テメエがお美しいレディを無下に扱うからだ!」
「その気もねえのに、何で相手なんかしなきゃいけねえんだ。馬鹿らしい」
「そういう態度が、彼女のプライドを傷つけてるんだろうが! お断りするにしても、もう少し相手を気遣えねえのかよ。ったく、女心の分からねえ朴念仁が」
「相手にした後の方が面倒臭えことになるじゃねえか」
「ああ!? それはあれか、モテ自慢か? レディがなかなか諦めてくださらないとかいう気か?」
「違えよ、何でそうなるんだ。っつうか、もう面倒なことになってるじゃねえか」


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