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The wizard(6) [10.04.08.〜]


「うーん、あれが『鎖』なら、危険よりも後は時間との闘いだろうな。アルビダさんなら多分薬を使っているだろうから、その効力が弱まってきているはずだ」
「薬、ですか」
「悪魔に薬を盛って、その隙に『鎖』を盗んだんだと思う。あくまでも憶測だけどね」

 さて、と一度ゾロを見やり、立ち上がった。

「ビビちゃん、コーザ探しの件、お引き受けいたします。但し、この件はコーザだけじゃなく、ビビちゃん自身も危険に晒されることを忘れないでね」
「はい。よろしくお願いします」

 ビビは深々と頭を下げ、店を出た。

「俺らも出掛けるか」
「俺もか?」
「当然。テメエの意思なんか関係ねえ。まずはアルビダさんの所、それから『鎖』だな。遺体の手の模様と関係がありそうだよな」
「ああいう柄で一昔前っつったら、教会やらそんな類の装飾に使われてたぞ。そっちの気配は探ってやるから、あの女の所では起こすな」
「あの女たあ何だ!」
「うっせえ、寝る」

 ケンカもせずに髑髏に消えたゾロに、小さな溜め息をつき、また出掛ける準備を始めた。
 1日に2度も本業の仕事で出るなんて滅多にないなあと思っていると、突然気配がし、振り向くと、今まさに上半身が現れるところだった。

「エース、ギン」

 先ほど会ったエースの後ろに、真っ黒な服装の顔色の悪い悪魔が一人立っていた。

「さっきのサンちゃんの話、上に報告したんだ。あれはギン絡みの問題だったよ」

 そう言って、後ろの悪魔を指差した。

「ギン、『狩り』はご法度だろうが。俺にテメエを狩らせる気か」
「久しぶりですね、サンジさん。あれは『狩り』の為に仕掛けたわけじゃねえんだ。『鎖』を呼び寄せようとしたら、あの男が勝手に入ってきたんですよ」
「魔方陣に踏み入れた時点で、気付くはずだよな。それからだって助けてやれたはずだ」
「焼け焦げたのは『鎖』に関わった証拠だ。そんなものに義理はねえですよ」
「で? 『鎖』はめでたくテメエの元に返ったのか?」
「それが、相変わらずの行方不明で」
「間抜けだな」
「そう言われても仕方ねえ。確かに間抜けな話だ」
「どうやら糧と一緒に毒を盛られたみたいなんだよ。その隙に『鎖』を断ち切られて、持ち逃げされた、と」

 話を聞きながら、タバコをふかしていたサンジは、ふーっと長い煙を吐いた。

「で?」
「ん?」
「必要があれば報告するって言ったよな。今の内容だけじゃあ、エースは俺に報告なんかしないだろ」
「サンちゃんの顔を見たかったんだよ」
「ヤローに興味ねえ。さっさと話せ」
「本当につれないなあ。まあ、それはともかく、これはギンと提供者との契約違反の問題だから、俺達が手を出す問題じゃないというのが評議会のお達しだ」

 サンジは咥えタバコでギンを見る。

「まだ薬が残ってるみてえだな」
「他の提供者から糧をどんどん貰ってるんで、心配いらないですよ。明日にはしっかりケリをつけますよ」

 そういったギンの目は、残忍さを湛えていた。

「さ〜て、まだ仕事が残ってるから、今日は残念だけど帰るね」
「ご苦労さんなこって」
「サンジさん、お会いできて嬉しかったです」
「だから、悪魔であろうと魔法使いであろうと、ヤローには興味ねえっての」

 心底履き捨てるように言うサンジに、エースが意味深な視線を投げた。

「亡霊は例外なのかい?」
「レディの亡霊ほど切ねえものはねえな。何せ触れねえ。それもまた女神の神秘性を高める要素ではあるけどな〜♪」

 そう言って、起用にハートの煙を吐いた。
 苦笑して、現れた時と同じように、エースとギンはその場から消えた。


* * * * *



 間接照明に照らされたアールデコ調の店内は、まるでそこだけ時間を遡ったようだった。
 開店前ではあったが、艶めかしいドレスに身を包んだ美女が出迎えた。

「いらっしゃい」
「ああ、今日も何てお美しい!」
「ありがとう。お店に来てくれるなんて、久しぶりね。それも2人でなんて、初めてかしら?」
「よくお分かりになりましたね」
「色男の気配を感じられなくなったら、女としてつまらないでしょう?」

 妖艶に微笑みながらバッグを指でなぞった。

「相変わらずつれないわねぇ」

 ちょっと拗ねた風にバッグの中に語りかける。

「万年寝太郎なんて、無視すればいいんですよ、レディ」

 そう言いながら、バッグを撫でる手をさりげなく取り、甲にキスをした。

「今夜はどういったご用件?」
「お分かりでは? アルビダお姉様」
「……奥で話しましょう」

 踵を返し、一番奥にある部屋へと向かう。アルビダが部屋の前に来ると扉は自然と開き、2人が部屋に入るとやはり自然と静かに閉じられた。

「何を聞きに?」
「コーザに話したことと、何を考えていらっしゃるのかを」


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