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The wizard(4) [10.04.08.〜]


「一緒に行って下さい、お願いしますとか言えよ」
「アホか!」
「さっさとしろ」
「そっちじゃねえよ、万年迷子」

 そう言って、にやけてしまいそうな気持ちを抑えながら、サンジはスタスタ歩き出した。
 そんなサンジの様子など、ゾロにはとうにばれている。
 ゾロは、ガラスや鏡、写真などには映らない。物にも触れないし、また誰も触れられない。通り抜けてしまうからだ。だが、見た目には透けているわけではないので全く分からない。気をつけて振舞えば、ゾロが亡霊だと気付かれることはない。
 だが、近年街中はやたらとガラスの占める割合が増え、また人も増えた。普通の人のように、ゾロがサンジと歩ける場所も機会もめっきり減った。最近ではせいぜい夜に散歩するくらいだ。
 元々社交的でもない性格だから、ゾロ本人は別に何とも思わないが、サンジがそれを喜ぶことを知っている。何をするでもなく、ただブラブラと散歩するだけで、サンジはとても幸せそうな顔をする。ゾロは髑髏に呪縛されているから、それから離れることはできない。だから、外出するには必ずサンジが髑髏を持って歩かなければならない。重たいだの邪魔だのと口では文句を言いながら、決して乱暴に扱うことはない。
 こんないい天気の昼間に2人で出歩くなんて、本当に久しぶりだ。日に照らされて光る金髪に、ゾロはほんの僅か口元に笑みを浮かべ、彼の後をゆっくりと歩いていった。


* * * * *



 心身共に満足な昼食を取って帰宅すると、クローズのプレートの掛かった扉の前に一人の女性が立っていた。

「お待たせ致しました、レディ。貴女の魔法使いが馳せ参じました」

 テメエの店に馳せ参じるっておかしいだろうという声の発信源をスティックで叩き、店の中へ女性を促した。

「ハーブティーはお好きかな?」
「はい」

 切羽詰まった悲痛な表情。気持ちが落ち着くようにブレンドしたハーブティーを差し出し、自分も向かい合わせに座った。

「……美味しい……」
「お口に合ってよかった〜♪ あ、ケーキも食べるかい?」
「いえ、あの……」
「そいつは茶を飲みに来た訳じゃねえんだろうが。さっさと仕事しろよ」
「ああ!? テメエに言われたかねえ。まずは悲しみと不安で固まったお心を解して差し上げてるんだろうが。レディの繊細さを理解できねえ奴は黙ってろ。さ、レディ、芝生は無視……レディ?」

 少し離れた後方から聞こえた声に振り向き、ゾロを凝視している。

「そいつはここの留守番みたいなもんだ。気になるなら席を外させるよ」
「いいえ、大丈夫です。ごめんなさい」
「極悪人面だし、態度はデカいし、まともな奴には見えないだろうけど、実際まともじゃねえけど、取り敢えずは無害だから安心して」
「テメエの方がマトモじゃねえだろうが! この通りのアホだが、女相手なら全力を出すから、取り敢えずは相談してみろ」
「何でテメエが指示してやがる!」
「テメエがアホだからだろ」
「あの……」
「ああ失礼、レディ。俺としたことが。そのガラス細工のような美しくも繊細な心を痛めている訳をお話し頂けますか?」

 まだ迷いがあるのか、或いは目の前のやり取りに不安を感じたのか、少し躊躇するように、バッグから手帳を取り出した。

「私はビビと言います。人を捜してほしいんです」
「人捜しで、わざわざ俺に?」
「ええ。多分普通の探偵とかでは無理だと思うんです」
「魔法使いと信じてくださるんですね」
「悪魔なら知っていますから」

 そう言ったビビの瞳には強い意思が読み取れた。だが、手帳から抜き出した写真を見ると、また頼りなげな光を帯びた。

「捜してほしいのは彼です。名前はコーザ」

 差し出された写真には、ビビとコーザが幸せそうに映っている。ああ、そういうことかとサンジは思った。何となくではあるが、コーザは雰囲気がゾロと似ていた。恋人だろうと容易に察しがつく相手が行方不明なのだから、少なからず似ているものに反応してしまうのは道理だろう。

「それからもう一人。名前は分からないんですが、数日前にコーザと会っていたそうなんです。何か知っていると思うんですが、その後行方が分からなくなっていて」

 そう言いながら出されたもう一枚の写真。

「こいつは……」
「ご存知ですか?」
「知ってると言えば知っているんだけどね」
「死んだぞ」
「え!?」
「おい!」
「どんな死に方でしたか?」
「さすがにそれはちょっと。今警察が捜査中だからね。それから、遺体がその男だということも、極一部しか知らないことなんだ。分かってもらえるかな?」「ええ、十分です。じゃあもう、コーザは……」

 ビビは悲痛な声を上げ、両手で顔を覆った。

「遺体は一つだけだし、現場にも他にもあった形跡はなかったよ。諦めないで、ビビちゃん」
「魔法陣はあったがな」
「この馬鹿剣士! 捜査中の情報だろうが!!」
「事件を追う訳じゃねえ。それにこいつは今『どんな死に方だったか』って言っただろうが。普通じゃねえ、こっちの方法で死んだと思ってんだ。それなら、手持ちの情報が少なきゃこっちが危ねえことも分かってるはずだ。追い込まなきゃ話さねえぞ、この手の女は。おい、本当に助けたきゃ持っている情報を全部よこせ」
「テメエ、不安を抱えたレディに何て口利きやがる! ああ、ビビちゃん、こんなデリカシーの欠片もない馬鹿毬藻なんて、放っておいていいからね」

 まるっきりチンピラの体でゾロに向かい、別人のような柔らかな表情でビビに話しかけた。ウソップ辺りにこれぞ魔法と言わしめそうな、見事なまでの変わりようだ。

「ごめんね。この緑ハゲ、顔や頭も悪いけど、口の利き方が最悪なんだ」
「おい」
「でもね、言ってることは大事なことなんだ」

 分かるよねと、柔らかく諭すと、ビビは小さく頷いた。


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