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unofficial site 砂の船 - Z×S -

equivocal(2) [10.03.12.]


* * * * *



 客が落ち着いてくると、ゾロはエプロンを外したが、帰ることなくカウンターで雑誌を開いていた。
 そして、当たり前のように閉店までいて、片付けも手伝ってくれた。

「サンキューな。でも、こんな時間までいて大丈夫か?」
「終電あるだろ。なかったら泊めてくれ」
「襲われてもいいなら泊めてやる」
「力で俺に勝てるとでも?」
「コックさんの腕力、なめるなよ」
「俺は柔道も黒帯だ」
「マジ?」
「おう」
「何かムカつくな」

 煙草に火をつける。あー、体に染み渡る。

「まあ、どっちにしろ、18までは手は出さねえんだろ?」
「それが俺様の恋愛のポリシーだ」
「あと1年弱か。まあ頑張れ」
「俺様の本気をなめんじゃねえぞ。首洗って待っていやがれ! ……って、何だ、その顔」

 何かを我慢するような、困ったような、変な顔。そりゃ困るか、普通は。

「本気なんだな」
「ああ、残念なことに。末期だね」
「残念なら止めておけよ」
「止められねえから、残念で末期なんだろ、アホマッチョマン」
「アホじゃねえ。そのマッチョマンを押し倒したいって、おかしくねえか?」
「仕方ねえよ、惚れちまったんだから。男が惚れたら押し倒したくなるのが自然の摂理だ。健康で健全な三十路前、プラトニックなおままごとで済むわけねえだろ」
「こっちは健康で健全な男子高校生だ。その道理でいけば、俺だって押し倒す側だぜ」
「まあ、そりゃそうだな」
「どうすんだ?」
「やり方か?」
「違え!」
「冗談だ、成人指定な話はしねえよ」
「てめえが欲しいのは、俺の体ってわけじゃねえんだろ?」
「おう」
「俺はどう転んだって突っ込ませる側にはなる気はねえよ」
「だろうな」
「だったら、逆側の方が落とせる可能性は上がるんじゃねえ?」

 ……逆?
 ……俺が突っ込まれる方?
 ………………。

「ん?」
「何だ?」
「ってえことは、何、てめえは突っ込まれるのは無理だが、突っ込むのはOKってことか?」
「さあな。てめえ次第じゃねえの?」
「男ってところは問題ねえのか?」
「今更だろ、それ」
「いやいや、まずそこから問題視するもんだろ」

 あ、その顔。年相応のその笑顔、弱いんだよなあ。好きだと思う気持ちと、少しの背徳感。

「誕生日おめでとう」
「唐突だな」
「ちゃんと言ってなかったのを思い出した」
「朝、言ってもらった」
「?」
「ケーキのプレート」
「……あれか」
「すげえ嬉しかった。ありがとう」
「試作品みてえで悪いけど」
「言ったろ? 気持ちが一番嬉しいんだ。これからゆっくりご馳走になるよ」
「まだ食ってなかったのか」
「部屋でゆっくり味わいたくてな」
「そうか。じゃあ俺は帰るか」

 高校生の顔が、一瞬で男の顔をした。そう思った時には。
 唇に、柔らかくて温かな感触。

「邪魔はしねえよ。一人でゆっくり味わってくれ。おやすみ」
「ゾロ!」

 歩きながら学ランに袖を通して振り向いた顔は、いつもの少し皮肉めいた笑顔。ほんの少しだけ目元を赤くしたゾロの笑顔。
 キス一つでこんだけ嬉しいって、どっちが高校生だよ。馬鹿だな、俺。

 一瞬見せられた顔は、紛れもなく一人の男のそれだった。
 でも今はまだ、人生の中でも大きな意味を持つ年頃に差し掛かる、大人と子供の曖昧な年頃の高校生。
 相手の将来を思って引いてやれるようなものだったらよかった。自分がそうできないから、相手の逃げ道を常に作っておくのはオトナな態度といいつつ、その実それが一番幼い態度だと分かっている。
 それでも、今日一日は、幸せだけを感じていることを許して欲しい。

 最高の誕生日をありがとう。



end.

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