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見えないモノ[13.01.25.]


 空港から電車に乗り、この国の中心に降り立つ。
 日本では目立つこの容姿も、ここじゃ全く珍しくもない。
 駅構内から出て、正面の広場の真ん中辺りまで歩いて振り返る。モデルにしたんだか建築家が同じなんだか忘れたが、縁があるだけはある、よく似てると思う。周りの風景と行き交う人々とよく馴染んでいるからか、どうしても向こうで感じていた違和感はない。
 駅に背を向けて歩き出す。
 張り巡らされた運河。たくさんの船着場。ゆったりと進む船を見て、ちょっと乗ってみてえとか思う。
 おもちゃのような街をしばらく歩く。あった。ここだ。送られてきた写メの店。
 白いオープンカフェの、一番外側の一番端の席に座り、可愛らしいレディに紅茶をお願いする。
 目の前にはやはり運河。小さな船には素敵なレディと野郎が幸せそうに乗っている。笑顔が多い国に見えるのは、きっと今の自分の心情のせいだろうか。


* * * * *



 カミングアウト後の実家の反応は、いやもう、ゾロがいなくてよかったと心底思う。誰に遠慮することなく派手に親子喧嘩できたってもんだ。勢いってのは怖いもんで、そのまま職場でもカミングアウト。店で親父が喧嘩売ってきやがったのを買ったからなんだけど、不可抗力だ、仕方ねえ。でもまあ、その時の啖呵のおかげで、店は全面的に俺の味方になってくれたから、結果オーライだ。
 あれだけ女々しく悩んでいたのはなんだったのかと思うくらいの開き直りっぷりは、我ながら男前だと思う。っつーか、思わないとやってられねえ。なにせ一緒に乗り越えていく相手は海の向こうだ。それは俺が望んだことなんだけど。
 元々ゾロを気に入っていた両親は、いろいろな事情も本人の人となりも知っていたから、それはそれで難しかったんだろう。もはや意地の張り合いのようだった。
 それでも、親父達が最終的に負け(?)を認めざるを得なかったのは、奴の歌。
 奴が日本を離れているこの2年の間に作った、正式に発売されたものではなくネットで個人的に配信したそれは、奴自身の心内を綴った言葉と、俺への言葉。
 不器用で真っ直ぐな、奴そのものの歌が、そこにはあった。


* * * * *



 冷めて少し苦味を増した紅茶を飲む。 ブルネットの髪の麗しいレディと連れ立って歩くマリモを発見。レディが白魚のような指でこっちを指し示し、緑頭が軽く手を挙げることでお礼の意を示した。
 初めて来た俺がたどり着けたのに、何で写メした本人が迷子なんだ。変わらない様子に、ちょっと視界が歪みかける。全く、世界のどこかにダメに効く薬はないもんかね。実に残念で泣けてくるぜ。
 ようやく気付いたか。嬉しそうな顔しやがって。近付いてくる姿が滲んできた。からかってやりたいのに、変な声になりそうで口を開けない。目の前まで来た奴は、酷く優しい顔をしている。名前を呼びたいのに何も言えない俺の頬を指で拭われ、そのまま頭を引き寄せられた。

 ああ、ゾロだ。

 2年の月日も物理的な距離も、あっという間に霧散する。
 同性同士の結婚も認められているこの国ではこんなシーンも珍しくないだろうと、俺も腕を回して奴を抱きしめた。

 ただいまとおかえりをお互いに伝え合おう。
 そして、これからの道を歩んでいこう。
 共に。





end.

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