エスプレッソ(2) [11.02.28.]
ゾロは、食べ終わった食器を片手にキッチンへと入ってきた。
「ごちそうさま」
「おう、ごちそうでした」
「なあ、明日学校ねえんだ。寄っていっていいか?」
「構わねえけど、店は定時までだ。てめえの相手はしてやれねえぞ」
「別にそれはいいけどよ」
「朝も早えし。っつうか、明日のケーキはなし、か?」
「……そうだよな」
ちょっと拗ねたような顔。本当に、どうしようもねえな。仕方ねえ。
そう思うサンジの顔の方が緩みっぱなしだという自覚は、恐らくは皆無だろう。 そんなことは知らないゾロは、そのままキッチンを出て、荷物とコートを持ってドアへと向かった。
「ゾロ!」
キッチンから顔を出し、ゾロを呼び止めると、何だと言いたげな表情で見返される。ちょっといじめた気分じゃねえか。お子様め。
何かを投げて渡してやる。
それは、サンジのマンションの部屋の鍵だ。
「迷うなよ」
からかうような声。
「もう覚えた」
はっきりとした声が耳に届く。
それを握り締め、嬉しそうな顔で、軽く手を挙げて出て行った。単純なヤツめ。
ロビンちゃんに連絡……は大丈夫だろうな。シスコン毬藻が怠る訳はねえか。まあ、していなかったら、真夜中でも蹴りだしてやるがな。
帰ったら、ゾロが爆睡してるんだろうな。それだけでこんなに満たされる。まだまだ青いねえ、俺様も。
さーて、張り切って仕事だ。
ちょうどデザートを運ぶにいいタイミングだ。
レディ達の予約が今日でよかった。明日だったら、このケーキを食べていただけないところだった。
洋梨のケーキに色鮮やかなソルベを添えたプレートをさっと飾り付けた。
「レディ達、デザートです。このケーキは俺が惚れ込んだ一品なんです。お口に合えばいいですが」
食後のコーヒーを召し上がりながら、レディ達が楽しげに会話する声は、本当に至福の時間を奏でてくれるなあと思っていたら、お二人が席を立たれた。
「もうお帰りですか? 今宵はお目にかかれて幸せな日となりました。お気に召しましたら、この上なく幸せです♪」
女性が、どれもとても美味しかったと伝えれば、サンジはこぼれんばかりの、それでいてとても自信に満ちた笑顔を返した。
ケーキもとても美味しかったと伝えた時は、また違った笑顔を見せた。ほんの一瞬、照れたような喜びを含んだ綺麗な笑みだった。
そして、とても優雅な仕草でドアを開け、見送りに立った。
「またのお越しをお待ちしております」
レディ達は何度かこちらを振り返り、キャアキャアと可愛らしい声で楽しげにお話されながら帰っていかれた。
やっぱりレディは天使だなあ。
そんな天使とは雲泥の差の毬藻が、俺の布団でガーガー寝ているんだろうなあ。
明日、臨時休業にしてしまいたくなるが、確実に店を手伝ってくれるだろうゾロのギャルソン姿を想像し、思わずにやけていたことなど、もちろん自覚は皆無だった。
end.
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