アイドルタイム(2) [11.12.12.]
「ハニー君は、この後ウェイターか」
「あ?」
「コート、中に持っていったろ? 飯だけ食って帰るならあそこに掛けるだろ」
足も腕も組んで座っているゾロは、軽く肩をすくめて応えた。
「今日で19、だっけ?」
「ああ」
「見えねえ」
「よく言われる」
ちょっとそっぽを向いて言う。
ああ、本当に。
「うん、よかった」
「あ?」
「君で」
何がだと視線で問われて、思わずぷっと笑ってしまう。益々眉間に皺が寄せられた。
「いろいろ場数を踏んでるんでね、人を見る目には自信がある。大事なサンジが選んだ人間とはいえ、諸手を挙げて祝福していいかどうかは確かめないとな」
よくよく見ると目が笑っていない笑顔を向けられたゾロは、少しそれに対峙してから聞いた。
「あんた、誰だ?」
「ああ悪い。俺はエースだ」
「さっきぐる眉が言ってたからそれは分かってる」
「……ますます気に入った」
打って変わった人懐っこい笑顔は、どことなくサンジと通じるものがあるなあと、ふと思う。
「俺とサンジは、生まれた時からの悪友だよ」
ニッと笑ってから、キッチンのサンジに視線を向けるから、つられてそっちを向く。
エスプレッソがまだ出て来ないのは、このエースという男と話をさせたいからなんだろう。
「……というのが、いつもの説明」
視線を戻して、優しい笑みでサンジを見つめる男を見る。
一度軽く目を瞑ってから、ゾロに戻した視線は、同じように柔らかいもので。
「サンジは俺にとっては家族なんだ。大事な、2カ月年下の弟だ。血の繋がりなんかはねえ。それでもサンジは弟なんだよ」
その優しい力強さは、ゾロのよく知るものと同じだった。
「だから、ハニー君にはどうしても会いたかったわけだ。まあ、サンジの人を見る目も信用してはいたけど、想像以上で安心したよ」
「合格か」
「ずっと合格していられるように生きとけよ」
「……分かった」
何となく引っ掛かるものがあったが、今聞くことではないだろうと、ゾロは思った。
そんな真面目な雰囲気をすっ飛ばし、興味津々の体でとんでもない事を聞いてきた。
「それでさ、そっちが基本タチなのは確実だろうけど、ハニーってことはひょっとしてリバ?」
「………………はあっ!?」
いきなりの話題に反応は遅れ、言われたことが脳内に達すると、思わず大声が出てしまった。
「な、なんだ? どうした?」
さすがにサンジが焦った風に声を掛けた。
「いや、リバで楽しんでるのかなあと」
「こんのクソエロオヤジがっ!!」
「えー、大事なことだろ」
「プライベート中のプライベートだ! てめえの重要事項じゃねえ!」
座っているゾロの肩を掴んでまるで守ろうとするようにその後ろに立ち、真剣な目で睨んでくるサンジに、エースの方が思わず面食らった。
「……ぶわっはっはっはっ!! 悪い悪い。つい、な」
必死に笑いを収めようとしているが、肩どころか全身震えている。
「要するに、からかわれたわけだな」
「お前じゃねえ、俺がだよ。クソッたれ」
「プライベートって、サンジがそういう、いや、もう、何というか、よかったよ」
エースはまだ肩を振るわせ、浮かんだ涙を拭きなが言った。
「安心した。今後の不安は、サンジがハニー君に振られる日がいつか来るか、だな」
「はあ? この俺が毬藻に振られる!? ありえねえだろ」
けっと吐き捨てるように斜に構えた。
「年齢に容姿を考えりゃ、振られるのはサンジだろ。モテるだろうしね、ハニー君は」
そうだろうと、ゾロに視線で問い掛ける。
「知るか」
「そう? 女の子にも男にもモテそうだけどなあ。それに……いろいろよさそうだし?」
耳の後ろ辺りから肩までをすっと掌で撫で下ろした。サンジがその手の甲を思いっ切り抓った。
「いってえ!」
「勝手に触るんじゃねえ。セクハラすんな」
「ケチだなあ。減るもんじゃなし」
「減る!」
「口煩いだろ、コイツ。愚痴りたくなったらいつでも連絡していいよ。あ、携帯ある?」
「あ、ああ」
さっきから自分を挟んで繰り広げられるオトナの会話にガキの喧嘩を合わせた勢いに、さすがのゾロも半分固まっていた。何せまだ今日19になったばかりだ。
それで、つい携帯を渡してしまった。
エースは、サンジに取りあげられるより先に手慣れた手つきでさっさと操作し、サンキューとゾロにポイッと投げて返した。
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