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Another universe(4) [11.11.17.]


「さて、と」

 サンジが手を止めた。

「ナミさん、病院から出してくれてありがとう。俺の資産は最終的にはナミさんのところへ渡るように手配してあるから。ナミさんの幸せのために使ってね」

 そういうと、うやうやしく手の甲にキスをした。
 そして、ウソップには1つのチップを渡した。

「その中には雑多なデータが入ってる。ナミさんに渡した俺の論文や研究データに関する機器類の設計図だ。万が一を考えて暗号化してあるから。ま、頑張って解読するんだな」

 そう言うと、サンジは調合した薬品を注射器に準備し、それを持って、水槽の階段を上っていく。

「サンジくん、大丈夫なの?」
「心配してもらえるなんて、幸せ―――!!」
『アホは健在か』
「あ? なんか言ったか? バカ毬藻」
『さらにアホになったか』
「ああ!? テメエ、蹴り倒してやるから、そこを動くなよ!!」
『2年間もゴロゴロして過ごしていた奴の蹴りなんか効くかよ』
「ほーう、もう一度三途の川を拝ませてやるから待ってやがれ!」

 この口喧嘩も2年振りだなあと、呆れながら思うウソップの隣で、ナミは握りこぶしを震わせていた。

「うるさい!! さっさとしないと刑事だかなんだかいろいろ戻ってくるわよ! 行くの、行かないの?」
「行きます、行きます!」

 うひゃあと、慌てて水槽の扉を開け、額に電極を貼り付け、左腕に注射器の針を刺した。薬品を体内に注入すると、その注射器を床に投げ捨て、叩き割る。そして、何かの気体の入ったボンベのバルブを開けた。

「この‘入り口’を開けることに関するデータだけは残していかねえ。そのモニターの方も、データは自動消去されるから」

 ちゃぷんと、サンジの足が水槽に入れられる。

「俺にスイッチを入れさせてもらえねえか?」
「私も一緒に」

 少し泣きそうな笑顔で、サンジは頷いた。そして、握っていたスイッチを投げて寄越した。
 モニターのゾロに視線を合わせると、いつもの人を挑発するような笑みを浮かべ、水槽の中へドボンと入り、扉を閉めた。そして、ボンベ内の気体を吸いながら、静かに液体の中に潜る。水槽のガラス越しに、ナミとウソップと対面するとニッと笑って、親指をぐっと立てた。
 それを合図に、ナミとウソップは、渡されたスイッチを押した。機器に電気が流れる音が静かにすると、サンジから発光したように、不思議な色の光が水槽の中を満たした。
 光が止み、眇めた目をしっかり開けてみると、水槽の中にいたはずのサンジが消え、装置も止まっていた。
 慌ててモニターを振り返ってみると、全身ずぶ濡れのサンジとゾロがしっかりと抱き合っている姿が映し出されていた。それから、サンジがゾロにピアスをつけてやる姿も映った。2年前、瀕死のゾロを助けるために、無理矢理‘向こうの世界’への‘入り口’を開いた時、サンジがはずしたのだった。3つのピアスをつけ終わり、シャラリとそれに指で触れた時の綺麗な笑顔を、そして、そんなサンジと額を付き合わせながら浮かべたゾロの優しい笑みを、ウソップとナミはずっと忘れないと心に刻んだ。
 ゾロとサンジがこちらを一度も振り返らずに歩みだすと、モニターも消え、データの一切が消去された。


* * * * *



 その後。
 ‘こちら’の世界では何か大きな弊害が起こることもなかった。時々、不可思議な現象が報告されることはあったが、知らない間に‘向こう側’への‘入り口’が開いて大問題が生じたりするよりはずっといいと、事ある毎にウソップとナミは話をする。2年前と違い、最小限の影響で済む‘向こう側’への移動手段を、サンジは病院の中で必至に考えていたに違いない。パソコンはおろか紙もペンも渡してもらえない状況だったというのだから、あれだけのことを頭の中だけで計算するなんて、もっと稼げたのにねえと、ナミは冗談めかして笑った。
 そして、天才科学者の捜索は、その権限を国家の上層部に引き上げられ、今はどうなっているのか、ナミの元へも報告がなされなくなった。報告できるものがないからだろうと、それならそれでいいと、ナミは思っている。
 世界の崩壊よりも1人の男の喪失を恐れた天才科学者は、今もあのこぼれるような笑顔でいるに違いないと、高く青い空を見上げた。



end.

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