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Another universe(2) [11.11.17.]


* * * * *



 そこは国によって管理されているだけあって、とても手入れの行き届いた場所だった。
 その一角に、とてもシンプルな―――名前と生没年月日しか彫られていない墓があった。
 少し離れた所で一度立ち止まってから、サンジはその墓の前に膝をついた。そっと刻まれた名前を指で辿り、墓石を優しく撫でた。何も語らないまましばらくそうしていたが、ようやく気が済んだのか、持っていた花を手向け、そして、その墓を少しだけ掘り出した。同行した刑事や監視役がぎょっとして近付くと、既にサンジが指輪のケースのようなものを取り出したところだった。

「別に危険なもんじゃねえよ。これは俺が病院に入れられる前に埋めたもんだ。なんなら記録を調べりゃいい。中身もこれと同じもんが書いてあるはずだ」

 そういって、箱の中身を彼らに見せた。そこには金のピアスが3つあった。

「さて、帰るか」

 そう言って、サンジは踵を返した。
 刑事は振り返って墓碑を見た。名はロロノア・ゾロ。2年前に19歳で亡くなったことが刻まれていた。天才科学者と同い年。確か殉職したSPとしてニュースで見たような記憶があるが、友人といったところだろうか。

「友人? まさか」

 心外だとでも言うような顔で返される。友人でなければなぜ墓参りなどと思ったが、どうせまた相手にされまいと、刑事はそれきり訊ねる事はしなかった。


* * * * *



 ラボに戻ると、機器は既にできあがっていた。

「さすがウソップ。ありがとよ。ここからは図面に描いてねえんだ。悪いな」

 そういうと、コンピュータに接続し、ウソップが個々に作ったパーツを繋ぎ合わせたりし始めた。

「完成。さて、実験するか」

 そういうと、ナミ以外のその場にいた者全てああしろ、こうしろと指示を出し、実験をするスペースを確保したり、6人がかりで運ぶほどの鉄の板を準備し、簡易の事件現場を再現した。そして、さらに刑事達を顎で使いながら、出来上がったばかりの装置をセットし、スイッチを押す。振動音だけがかすかにする。

「その円の中に手を突っ込んでみろ。ゆっくりな」

 そう言われても、誰も手を出さない。

「仕方ねえな。痛くもなんてもないってのに」

 そういうと、咥えていたタバコを指で摘まんだままの左手をゆっくりと円の中へと近付けた。そして、止まることなくそのまま鉄板を突き抜けた。続けて灰皿を持った右手もゆっくりと鉄板を突き抜けさせると、向こう側で灰皿に灰を落としてみせた。

「こうしてちゃんと動くぜ。この円のサイズをもうちっとでかくすりゃ、人も抜けられるだろ」

 にわかに騒がしくなった。刑事達は各部署に連絡を入れ、結果を伝えたり、犯人逮捕に向けて動き出す。科学班はその装置に釘付けだ。その科学班への説明をウソップに押し付け、サンジはナミにハートを撒き散らしていた。
 ラボが静かになってきた時に、監視人がサンジを病院へと促そうとした。

「おいおい、協力しただろ。あそこから出すことが交換条件だったはずだ」

 事件解決までの間退院させるという意味だと言うと、それは契約違反だとナミが食ってかかったが、監視人も引く気配を見せなかった。ナミがどれだけ何を言おうと頑として譲らない。国が相当サンジを恐れていることが分かる。だが、たかだか監視するだけの役目の彼らは、何故そこまでサンジを警戒するのかは知らされていないはずだ。あの場所は封鎖された。誰も近付くことはできない。だが、恐らく、サンジならこのラボで「覗く」ことはできる。せめて一目その姿を見せてあげたい。見るチャンスをあげたいと、ナミは思っている。だから、交換条件にサンジを病院から出させたのだ。
 ナミと監視人との間に入ったのは、サンジ本人だった。

「分かった。病院には戻る。仕方ねえ。だけど、明日だ。2年振りの外界だぜ。ホテルの豪勢なバスに柔らかいベッドと今夜ぐれえ味合わせてくれてもいいじゃねえか。それくらいなら譲歩できるだろ?」

 そんな妥協する必要ないと、ナミは言ったが、その気持ちだけで十分嬉しいよと、サンジは笑った。監視人もそれくらいならと許可を出した。

「まだホテルに戻るには時間があるだろ。これだけつけてみていいか?」

 大きな四角い枠を指差して、監視人に尋ねた。

「これ? ただのモニターだよ。俺が好きな風景を見られるように設置してあるカメラの映像が枠の中に映し出されるだけだ。なんならテメエ等も見るか?」

 ああ、やはりとナミは思った。やはり詳しくは知らないのだろう、その程度ならと、監視人が許可を出した。

「サンキュー」

 サンジは煙草を咥えると、モニターとそれに接続されているパソコンのスイッチを入れた。鼻歌を歌いながら、キーボードを叩くと、枠内にぼんやりと何かが映し出された。映像が少しずつはっきりとしてくる。どこの公園だろうか。そこに1人の男が映っている。煙草が1本灰になるまで、サンジはただその姿を眺めていた。

「ナミさんも見るかい? ウソップも」

 呼ばれて2人も画面の前に来る。懐かしいわね、2年振りに見るわと、ナミが呟いた。本当だと、ウソップも呟いた。

「見るか?」

 サンジは周囲の刑事達にも声を掛けた。もっともわざわざ覗き込まなくても十分見られるくらいに大きなモニターだ。刑事の1人が公園の名を挙げた。娘とよく遊びに行くのだという。

「ふーん。でも、残念。同じだけど違う場所だ。これは‘もう一つの世界’にある方の公園だ」

 また聞き慣れない言葉が語られた。

「この世界と並行した別の世界がある。鏡の世界ととらえる奴が多いが、鏡じゃねえ。ただ、質量は同じだから、ほぼ同じ様なもんだ。向こうにも‘俺’はいるし、ナミさんもウソップも、それからテメエ等もいるだろうな。パラレルワールドっていう方が想像しやすいのか? まあ、そういう、表裏一体の似て非なる世界がある。これはその‘向こうの世界’を垣間見ているってこった。信じる方が難しいんだろうよ。」

 そういうと、理解できるかどうかなど興味がないような態度でモニターを見つめていた。


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