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The wizard(66) [10.04.08.〜]


「お、ゾロ、いるいじゃねえか」
「残念ながら、毬藻は留守だ」

 明るい声に、苦笑しながらサンジが答えると、困惑した表情でエースが髑髏を見つめた。

「……ちょっと待て。それ、本物か?」
「ああ。俺が間違えるわけねえだろ」
「どういうことだ?」
「どうって、何がだ?」

 エースの困惑に、返ってウソップが困惑する。

「煉獄で焼かれると、肉体も魂も全て焼かれて無に帰するって言っただろ。だから、それがゾロの髑髏なら、焼かれて消えているはずだろう?」
「あ!」

 ウソップが絶句する。

「でも、あれ、ゾロだぜ」

 ルフィの声は、あくまでも明るい。

「どういうことだ?」

 ウソップの疑問は、エースの困惑そのものを指していた。

「ばっかだなあ。そんなことも分かんねえのかよ」

 またあっけらかんとルフィが言い放った。優しい手つきでそっと髑髏を一撫でして、サンジが続けた。

「ゾロは焼かれちゃいねえってことだろ」

 いつものふてぶてしい態で、サンジはニヤリと笑った。

「地獄だろうが煉獄だろうが、消えてなきゃ問題ねえ。赤い刀を持っているんだ。1本でも持ってりゃ大人しくやられるってことはねえだろ。この髑髏が消えない限り、あいつはいるってことだ。消えてなけりゃ助ける手段もあるはずだ」
「そうか、そうだよなっ!」

 ちょっと涙ぐみながら、ウソップが相槌を打つ。
 サンジは、エースを見た。その真っ直ぐで揺らがない力強さに、エースは自然と笑みが浮かぶのを感じた。

「そうだな。そうなればとにかく行動だ。まずは場所を移そう」

 何でだというみんなの視線がエースに集まる。

「ゾロが言っていただろう? 『やつらが来る前に』って。神の意思とは無関係で、おまけに天使すら関わっていないのに煉獄の扉が開かれたんだ。十中八九、天使が来るだろう。その前にずらかろう」

 そう言って、サンジが屋敷の結界を張り直し、ルフィの力でその場を去った。
 サンジとウソップは、サンジの店の前に送ってもらい、エースとルフィは、拘束していた魔法使いとアルビダを連れて、評議会へと向かった。今回の件を評議会の管轄下に置くことで、天との交渉を評議会に委ねるためだ。さすがに事が大きすぎると、エースが提案した。

「まあ、ゴチャゴチャしたことをお偉方に押し付けて、その間にゾロを助け出す方法がないか探ろうって訳だ」

 いつもの茶目っ気たっぷりの笑顔で言った。

「俺も、不可思議な現象とかねえか、探ってみるぜ」

 そういって、ウソップも帰っていった。
 みんなを見送った後、そういえばもうハロウィンの時期かと唐突に思い出し、大っぴらにこれを抱えて夜の街を2人で歩いた昨年が、なんだか遠い昔のように感じられた。
 そうして、サンジは髑髏を抱いたまま店の前に佇んでいた。暫くしてようやくドアを開けて、中へと入っていった。


* * * * *



 ゾロが煉獄へ消え、数日が経った。
 エースも、ウソップも、そしてルフィも、自分の生きる世界の中で、精一杯に手掛かりを探してくれていた。それでも、そう簡単に見つかるわけがない。ましてや、その中で、自分が探せるのは1冊の手帳の中だけで。不安から目を反らしていても、反らしきれるものではない。それを誤魔化すように、ハロウィンは賑やかに盛り上げた。
 そのハロウィンの日、ルフィがナミと共に訪れた。あのナミさんがあのトリックスターな猿と付き合っているなんて、目の当たりにしても信じ難い。否、信じたくない。鼻にしろ猿にしろ、あんな素敵なレディ達とと思うと、怒りに似た思いが沸々と湧くようだ。
 言葉にできないほどのあまり、思わず脱線しかけた。今は毬藻だ、毬藻。
 ルフィが帰り際に「迷子を捜してくる」と言った。探険といったから、地獄のどこを捜しに行くのかと思ったが、まあ詳しく聞いても無駄というものだろう。10日くらいでなんとかしたいというのは、ゾロの誕生日を考えてのことに違いない。俺としたことが、すっかりそんなことが頭から吹っ飛んでいた。
 物心ついたときから祝ってきたゾロの誕生日。できることなら、今年は「本当の姿」のゾロを祝いたい。亡霊の姿も本物には違いないが、肉体を持った姿を目にし、触れた今、今までしたくてもできなかったことで祝いたい気持ちが急に膨らんできた。料理も食わせたい。ケーキも食わせたい。酒も飲ませてやりたい。でも、迷子のままなら、そんなことはおろかおめでとうの一言も伝えられない。

「誕生日プレゼントに何でも欲しい物くれてやるから、その日までに帰ってきてみやがれ。甲斐性なし」

 髑髏に手を伸ばし、眉間の辺りを指でなぞる。そして、軽く弾いてやる。
 ふと、あの戦いの最中に浮かんだ疑問を思い出した。
 ワニやアルビダは、甦らせた肉体にゾロを憑り付かせたと思っているが、実際のところはどうなのか。
 心臓は動いていた。温かかった。いや、熱いくらいだった。あの流れ落ちる汗も、そして……。
 あれは絶対に本物だ。生きているゾロだ。悪魔が甦らせたわけではなさそうだし、ゾロが自分で自分を生き返らせた隙があったかどうかは知らない。でも、あれは絶対に本物だった。それならそれで、今度は生きた人間が煉獄で生きていられるのかという疑問も生じてくるが、もうそんなこと知ったことか。とにかくゾロは生きていて、それも肉体を持って生きているというところから考えることにしてやる。
 地獄はルフィが探しに行った。じゃあ自分はどこを探せるのか。この世界のどこを探せばいいのか。
 まず浮かぶのは、屋敷だ。あの屋敷のどこにあったのかは知らないが、あそこにゾロの肉体は冷凍保存されていたらしい。だが、今あそこは評議会の監視下に置かれているとエースが言っていた。あそこで煉獄の門が開かれたことで、天使と魔法使いのお偉方がいろいろとやり合っている隙に、エースはこっそり捜索してくれているが、今のところ何の連絡もない。
 もう一つの場所。それはサンジもまだ訪れたことのない場所―――ミホークの館だ。アルビダがゾロの3本の刀のうちの1本を見つけたというその場所に、何か手掛かりがあるかもしれない。
 ミホーク卿についての記述は、母の手帳に幾つか記されていた。それを確認すると、サンジはザックの中に手帳とタオルに包んだ髑髏を入れ、ホッケーのスティックを掴んだ。

「おっと、忘れるところだった」

 店のドアのプレートを『close』にすると、軽くスティックを揺らして店に結界を張り巡らした。そして、携帯で電話を掛けながら、歩き出した。


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