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The wizard(64) [10.04.08.〜]


* * * * *



 大通りから1本入ったところにある店が開いたのはほんの1日振りだというのに、随分久しぶりな気がした。

「いらっしゃーい……なんだ、ウソップか」
「なんだとは失礼だな。店が開いてるっ聞いたから、様子見にきてやったんだぞ」
「俺のランチを愛してくださるレディ達をお待たせしておくわけにはいかねえよ」
「いや、本来レストランやカフェじゃねえだろ」
「ランチ、いらねえんだな」
「いる! いります! Aランチ食いたいです!」
「ちょっと待ってろ」

 そう言って、キッチンへ戻っていく後ろ姿を見てから、ウソップは店を見渡した。
 女性客への美辞麗句、男性客への愛想のなさ、楽しげな会話、料理の香り、食器の音。重厚な机にはアイスホッケーのスティックが立てかけられている。机上には、不思議な文字の書かれた古い本と、装飾された髑髏。
 いつも通りの風景。
 違うのは、緑の髪の亡霊がいないことだけだ。
 ウソップは、机の上の髑髏を見つめる。

「へい、お待ち」
「あー久しぶりのサンジの飯だ、美味そうだ」
「クソうめぇに決まってるだろ。今日は俺の奢りだ」
「いいのか? じゃあ遠慮なく。やっぱりうめえな」
「まあ、なんだ、ほら、少しとはいえ、いろいろ面倒掛けたからな」
「少しかよ!」

 そう言いながら、スプーンを置き、また髑髏に視線をやる。

「まあ……結局ゾロを連れて帰れなかったしな」
「何言ってんだ、お前がいなきゃ、これは今ここにねえよ」

 サンジはズボンの後ろのポケットから手帳を取り出した。それは、サンジの母親が書いたものだ。

「それは役に立ったか?」
「現在進行形だ。役に立ってる」
「そうか」
「おう」
「それには煉獄については書かれてねえのか?」
「今のところはな。まだ先があるから。何か分かったら知らせる」
「そうしてくれ。ごちそうさん。さーて、聞き込みの続きだ」
「ナミさんの足、引っ張るんじゃねえぞ」
「何言ってやがる。俺様の聞き込み能力は、ナミにだって頼りにされる超一流のもんだぞ。あ、ナミといえば、ルフィが何だか動いてるみてえだぜ」

皿を下げるサンジに続いて歩きながら、ふと思いだして言った。

「ナミが、いつも以上に慌ただしいって言ってたからな」

 サンジは、ちょっと考えるように視線を斜め上へやる。

「ルフィか……」
「アッチの世界を探ってんのかな」

 トリックスターは、地獄の住人だ。

「もし会ったら、店に来るよう言ってくれ」
「了解」

 ウソップは、軽く手を挙げて職場へ向かった。


* * * * *



 店の奥にある静まり返った寝室ではページを捲る音すら響く気がすると、感傷的な自分に苦笑しながら熱い紅茶を飲んだ。
 ウソップとエースが見つけたのは、日記を兼ねた研究ノートだった。
 母は、とても探求心の強い女性だったようで、ゾロから沢山の話を聞き出している。
 初めはゾロが生きていた時代の様々な様子を、それから魔法や魔物の話。
 ゾロが息子を託すに足る者かどうか、その力量を見極める意味もあったのかもしれない。しかし、ゾロ自身に関する話は書かれていない。意図的に書かれなかったとは思えず、聞き出せなかったか、聞き出さなかったのか。
 後半に進むと、母が自分の弟に対して強い警戒心と猜疑心を抱いていたことが分かる。今回のような事態も可能性としてはあると考えていたようだ。
 更に進めていくと、弟の考えている事がより具体的に書かれ始める。そして、恐らくはゾロに尋ねたのだろう推察も同時に書かれていた。
 現状に少なからず不満を抱いている魔法使いは、当時から意外にいたようで、弟は、まず彼らを味方につけようと動き始めているが、それは説得とみえてマインドコントロールだと、母は激しく書き立て、また実際に叱責したらしい。そして、地獄を統べるだけの力量のある魔物に、こちら側で十分に力を発揮できるだけの入れ物を提供することを交換条件にして地獄の動向を掌握しようと考えるが、万一に備えて、入れ物にはその無意識下に自分への服従の魔法をかけておくという方法を採ろうとしているのと推察していた。
 正に今回の事だ。
 ゾロはいつか起こり得ると知っていたのだ。そして、あの男が魔物に差し出す入れ物としてサンジを選ぶことも分かっていた。だからこそきっと、それに備えていたに違いない。
 サンジは、膝に乗せた髑髏をそっと撫で、眉間の辺りを指で弾いた。

「痛くねえのかよ、鈍感毬藻」


* * * * *



 煉獄の扉がゾロを連れたまま消えていったとき、自分の何かも連れ去られたように空っぽになった気がした。
 茫然自失。真っ白とさえ感じられなかった。
 それを引き戻したのは、高い音と共に受けた頬への衝撃だった。

「お前がそんな面してどうすんだ! まさか諦めちまったとか言うんじゃねえだろうな!? シャキッとしやがれ!」

 胸倉を捕んで怒鳴るウソップの表情を見て、我に返った。

「……ふざけんな、鼻。誰が諦めるかよ」
「鼻って呼ぶな!」

 この時、実はコイツが一番強いんじゃないかと思った。そして、コイツは間違いなくゾロの友人だとも思った。

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