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The wizard(63) [10.04.08.〜]


 余裕のない声に弾かれたように反応し、サンジは雪走を‘杖’として力の限りの防御を整え、ルフィも体勢を整える。

「な、なんなんだ、あの扉が何かわかったのか?」
「ことごとく焼き尽くすにはあそこしかない。あの扉は……」

 構えたゾロから風が生まれたように感じた瞬間、3本の刀が振り下ろされ、扉の鎖が断ち切られ、重厚な石の扉が内側から勢いよく開かれた。

「煉獄の門だ!!」
「れれれ煉獄!? 何だそれは〜!!」

 サンジを抑えていたはずが逆にしがみつきながら、ウソップはもう勘弁してくれと嘆くが、エースにもサンジにも、それに答える余裕はなかった。
 扉が開け放たれた風圧で、その上にいた2人も吹き上げられた。そして、クロコダイルを囲んでいた魔法陣も吹き消されかけ、クロコダイルがその隙に飛びすさった。

「逃がすか!」

 取り出した小瓶を軽く投げて刀で斬り、中の液体を刃に浴びせると、そのままクロコダイルを斬りつけた。

「な……!!」
「魔力に頼るなよ、天才なんだろ?」
「聖水か!」
「純粋に魔法で描きゃあよかったな」
「ぐおっ!!」

 魔力で描かれた魔法陣は聖水を纏ったゾロの剣技で切り捨てられ、クロコダイルの身体から血が舞った。油断していたといえるだろう、クロコダイルはゾロの刀を受ける体勢を整える間を与えられず、幾度と斬りつけられた。
 そこにいたのは魔法使いではない。1人の剣士だった。

「これが本当の姿か」

 サンジは誰にも届かないような小さな声で呟いた。
 小さな頃から憧れたのは、魔法も魔力もない、ただ剣士になる事だけで。それがいつの間にか、葛藤の日々の中、剣を振るい続けていた時だけが自分としていられたのかもしれない。そんなことが思われてならなかった。
 そして、赤い刀がクロコダイルの身体を貫いた。

「急所は外してある。楽に死なせてなんざやらねえから安心しとけ」
「貴様……!!」

 妖刀の、内から侵蝕するような気にクロコダイルは手を触れる事さえ出来ない。

「やったー!」
「ゾロ、すげえ…!」

 ルフィとウソップが感嘆の声を上げた。サンジとエースは一瞬だけほっとした表情を見せたが、すぐにまた険しいものに戻る。

「捕らえたのはいいけど、どうやって煉獄に落とす気だ?」
「それはゾロに任せるとして、扉を閉める時くらいは何かできるだろ」
「俺、地獄の門も見たことねえから、閉めるとか分かんねえよ」
「俺も自分で開けたり閉めたりはしたことないなあ」

 話しながらも何も見落とすまいとゾロを凝視していると、煉獄の扉を封じていた鎖を魔法で引き寄せ、白い刀に絡ませた。

「扉が閉じたら封印しろ! 和同一文字で封じる」

 そして、黒い刀をサンジへ投げ、ニヤリとして言った。

「そいつを使っても封じられなきゃ半人前にも劣るぜ」
「誰に向かって言ってやがる! オロすぞっ!!」
「そいつは楽しみだ」

 言うが早いか、ゾロは赤い刀をクロコダイルから引き抜き、背後に回る。
 その隙を見逃す訳もなく、魔力の宿った鉤腕で襲い掛かる。間一髪で避けるが、その気はゾロの左目に新しい傷を付けた。だが、同時にまたクロコダイルも刀に貫かれた。
 そして、そのまま風圧に逆らい真っ直ぐに扉に向かって落ちていく。左手は赤い刀を貫いたまま、右手には鎖。鎖の先には白い刀。

「ゾロ!!」
「奴らが来る前にすぐ封じろ! 躊躇するな!!」

 その時、初めてクロコダイルに狼狽の表情が浮かんだ。「貴様、まさか」
「反撃のチャンスはやらねえよ。てめえが魂の欠片まで、生きながら焼き尽くされるのを見ていてやる」
「貴様も焼かれるぞ」
「だから何だ」

 琥珀の瞳の中に、怒りで揺らめく金の光。煉獄の熱風に曝されているのに、凍り付きそうにゾッとした。
 扉に絡まった状態の鎖の端をも呼び寄せ、白い刀と繋いだ鎖と合わせて右腕に絡ませると、妖刀を更に貫く様に自分ごとクロコダイルを扉の向こうへと押しやっていく。
 あっという間だった。
2人が門をくぐると、ゾロに引かれた鎖が扉を閉ざしていく。そして、鎖が挟まった状態にまでなった時、扉の向こうから魔法陣の光が透けたかと思うと、鎖は砕け散り、扉は完全に閉まった。そして、白い刀だけが扉に張り付くようにしてこちら側に残った。

「ゾロ!?」

 サンジの声に応えるように、刀を中心に魔法陣が浮かび上がった。

「サンジ!」

 エースに呼ばれ、はっと気付くと、2人は封印の魔法をかけ始めた。内側からのゾロの魔法と、こちら側のサンジとエースの魔法がリンクする。
 すると、白い刀から幾筋もの光がロープ状に放たれ、まるで縛り付けるように扉に巻きついた。そして、光がやんでくると、それは最初に現れた時のように頑丈な鎖となっていた。

「見ろ、きっちり封じただろうが。隙間からとっとと出てきやがれ、毬藻お化け!……え!?」

 思わずサンジは駆け寄った。
 扉は、また地下へと沈むように消えていく。

「ゾロ!? ゾロ!! クソッ」

 サンジは、また黒い刀が変容したスティックを扉の鎖に突き刺そうと振りかぶった。

「サンジ! 無理だ!」

 エースの言うとおり、振り下ろしたスティックは既に届かず、扉はそのまま沈んでいった。


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