QLOOKアクセス解析

unofficial site 砂の船 - Z×S -

04.「眼鏡・ネクタイ・コーヒー・日本酒の日」より。


 いつものようにおやつ片手に教務室に入ると、ゾロが珍しく机の上を片付けていた。
 今日はそれを食べたら帰るのだと言う。ゾロが日が落ちる前に学校を出るなど、サンジの記憶には一度もない。教師の仕事は、時間がいくらあっても足りない。
 机の一番下の引き出しから紙袋を取り出し、サンジへ手渡す。中身はコーヒー豆。
 ゾロは、専門店でいろいろな豆を買ってくる。お陰で物凄く勉強になっている。以前は同じ豆だった。だから、恐らくこれは自分の為にしてくれているんだろうと、今では自惚れではなく思っている。
 思わず緩みそうになるのを抑え、コーヒーくらい自分で入れろと悪態をつく。そうしながらも袋を引ったくり、コーヒーメーカーの準備を始める。
 淹れながら目の端に姿を捉えるのは、相変わらずだ。
 いつも椅子に座ったまま大人しく待つゾロが、サンジの元へ歩み寄る。
 ちょっと動揺する。
 しかし、ゾロはコーヒーメーカーが乗る棚の隣にあるロッカーを開けた。
 なんだと思いながら、何をと思うが、やはり聞けずに目の端で追う。
 2人の間には、開けられたロッカーの扉。
 隠れきれない分がほんの少しだけ覗く。緑の短髪、襟足、首筋、背中、黒のボクサーパンツ。
 一瞬にして真っ赤になるサンジ。
 上半身は裸なんて日常的だが、下半身は常にジャージで、下着姿など初めだ。
 目の端にすら入れていられなくなり、ひたすら落ちるコーヒーを見つめながら動悸を鎮める。
 そうしながら、耳は衣擦れの音を追った。
 コーヒーメーカーのスイッチが切れるのとほぼ同時に、ロッカーの扉が閉められた。
 また目の端で追う。
 せっかく落ち着いた心臓が跳ね、思わず真っ正面から見つめてしまう。
 そんなに驚くほど似合わねえかと苦笑しながら歩き、いつものように椅子に座った。
 はっとして、コーヒーをカップに注いで運ぶ。
 滅多に見られないスーツ姿をガン見したい一方、そうしたらしたで見惚れてしまうのは分かりきっている、でも。
 挙動不審なサンジを面白そうに見ているゾロ。
 いつもは大して話もしないのにどうでもいい話を振ってくるゾロに、からかわれていると分かっていても、そちらを向けないままなんとかいつもの口調で応えるサンジは、反対に口数が少なかった。
 そろそろかと、ゾロが席を立ち、先程のロッカーから荷物を取ってきた。
 ドン、と机の上に置かれたのは、風呂敷に包まれた一升瓶。
 シュルッとした音に目を向けると、ゾロがネクタイを結んでいるところだった。結びは綺麗だが、長さがバラバラだ。いつもこれが上手くいかねえと、長さの合わないそれをピラピラとさせた。
 貸せと言いながら、サンジがその黒いネクタイを解き、丁寧に結び直す。
 綺麗に結ばれたそれに触れた後、大きな手が金色の髪を梳きそのまま引き寄せて抱き締めた。
 そっと。でも、しっかりと。
 何故か分からないが、優しくしてやりたい気持ちで、その広い背中をそっと撫でると、抱き締めてる腕にキュッと力が込められた。
 片腕はサンジに回されたままに、もう一方の手で引き出しから眼鏡ケースを取り出した。
 なんで眼鏡と問うと、ガラス越しでちょうどいいんだと返された。
 その表情を見て、また優しくしてやりたい切ない気持ちになった。だから、初めてリクエストを尋ねてみた。明日は何を食いてえか、と。
 明日か。小さな声。
 ああ、明日だ。
 そうだな、明日だな。
 微かな笑みを浮かべてそう呟いた唇に、サンジはそっと口付けた。

end.



 最初は「眼鏡の日」で書くつもりが、後から更に「ネクタイの日」で「コーヒーの日」で「日本酒の日」だって聞いたので、悩んだ末、全てのアイテム突っ込みました(笑)。10月1日。













「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -