03.「露天風呂の日」より。
梅雨入り宣言した途端、これ見よがしに照りつける日差しは夏のそれのようだ。もう放課後だというのに、一向に気温は下がらない。
西日の差し込むこの教務室は、なおのこと暑苦しい。
部活の指導を終えたゾロは、ぐったりと椅子に座り、タオルを巻いた保冷剤を額に乗せている。
それならアイスコーヒーにすればいいのに、ゾロは淹れ立てのホットコーヒーしか飲まない、それがなけりゃ水でいいとか言う。そんなどうでもいいことを知って、しょうがねえなあと嘯きながら、サンジはこのクソ暑い中でコーヒーメーカーをセットする。
レモンのきいたレアチーズケーキは、皿ごと冷蔵庫で冷やしてある。
机を見ると、授業で使うプリントの山の横に仕事の書類。
修学旅行の担当なのかと、日程を覗く。まだかなり先だ。
サンジの視線の先に気付いたゾロは、昨年被災した例年お世話になっているホテルが営業を再開したので、生徒を安全に泊められるかを下見に行くのだという。
サンジはまだ旅行に行く学年ではない。
例え学校行事とはいえ、ゾロと旅行に行ける先輩が羨ましいが、そんな様子は絶対に見せたくないと、サンジは思う。
教師であるゾロと生徒のサンジは、数回だけどキスを交わした。 距離は少しずつ近付いていると、2人とも感じている。
この教務室の中だけであるけれども。
このホテルは大浴場も露天だぞと、コーヒーを受け取りながらゾロが言うと、サンジはまだ温泉自体入ったことがないと応えた。
この周辺は大半が露天で、部屋ごとの風呂も露天のところが多い。趣のある宿や秘湯も多く、野生動物が入りに来るようなところもあると教えてやると、青い瞳が真ん丸になる。
くくっと、思わず笑う。
すげーと屈託ない表情で想像を巡らしている様子を見つめる。その優しい視線に、サンジは気付いかない。
ゾロはすうっと一呼吸すると、連れて行ってやるから2年待ってろと告げた。
end.
6月26日は「露天風呂」の日。教務室のシチュエーションで露天風呂は無理かと思っていたんですが、無理矢理こじつけ(笑)。