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02.「恋人の日」より。


 放課後の教務室。

 この日もクラブ活動で作ったお菓子を手に、ノックもしないで静かに扉を開ける。
 サンジの視界に飛び込んできたのは、腕を組んで椅子に座ったまま寝ているゾロ。
 いつもより少し遅れたから、部活の指導後のゾロが起きているとは思っていなかったが、予想通りと少し頬が緩む。
 男らしい横顔が夕日に照らされ、意外に長い睫は影を作る。
 勝手知ったる様子でコーヒーメーカーに向かう。
 コーヒーの香りと、コポコポという音が室内に広がる。
 眠っている姿を、静かに目の端で見つめるのは、きっともう癖なんだろうと思う。
 コーヒーメーカーの音が止んだ。
 ふ、と軽く息を吐きゆっくり振り返る。
 寝ているゾロはなんの反応も見せない。
 この香りで起きねえのかよコラと悪態をつくが、その青い瞳には甘さが浮かんでいる。
 やはり反応のない横顔。
 すっとした目元。通った鼻筋。無駄な肉のない頬。意志の強そうな唇は、どこも固そうな風貌にあって、実は柔らかいことを知っている。
 今日は「恋人の日」らしい。その手の話題はあっという間にレディ達に広まり、何時もにも増して華やいでいた。頬を染めながらキラキラさせた瞳が、その可愛さに磨きをかけ、なんとも幸せの1日だったなあ。
 それなのに、少しの不安をちくりと感じたことをその唇が思い出させる。
 翌日机に忍ばせられたベルトは、壊されていなかった。
 思えば、手で引っ張って締め付けていただけで、バックルを固定したわけじゃなかった。ゾロが拘束を解くことなど容易なことだった。
 それなのに、解かれることのないまま交わしたキス。
 その意味を告げることも問うことよりも、こみ上げてくる涙を見せたくなかった。
 あの意味を知るべきなんだろうか。
 知らず知らず見つめていると、ちょっと眉間に皺が寄せられ、腕を組んだままちょいちょいと指で呼ばれた。
 はっとし、でも動揺を悟られまいと、偉そうな態度でよびつけんじゃねえよと悪態をつく。
 ゆっくりと目が開けられ、琥珀の瞳だけが向けられる。そして、不意に伸ばされた手で腕を引かれた。
 ゾロの上に覆い被さるような、あの日と同じ体勢。
 違うのは、ゾロの大きな手がサンジの襟足を覆って引き寄せていること。
 ゾロの額に、そして頬に、サラリと長い金の前髪が触れる。吐息が撫でる距離まで近付けられ、そこで止められた。
 今日は恋人の日だってよ、どうする、と、挑発には静かすぎる声音で告げられ。

 今度こそサンジからそっと唇を寄せた。



end.



6月12日は「恋人の日」だそうです。















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