Halloween cafe
普段と違うのは、オープンカフェとなっていることと、子供がたくさん混じっていることだ。そして、見事に仮装したたくさんのウェイターが、テーブルの間を行き来していた。
「……なんか凄いわね」
店に向かう足が止まり、思わずナミが呟いた。
「何がだ?」
ルフィは遠くのテーブルに乗っているデザートにキョロキョロしながら聞いた。
「何って、この風景よ」
吸血鬼に狼男、ゴブリンに骸骨、等々。ハロウィンパーティー御用達の仮装が全て揃っているんじゃないだろうか。
「楽しそうでいいじゃねえか。サンジー!飯ー!!」
駆け出さんばかりの勢いでそちらへと向かう。
「ちょっと待ってよ」
慌てて後を追うと、店の中からサンジが出て来た。
「うるせえよ! ああ、ナミさんもご一緒なんだ。いらっしゃーい♪ さあ、中のお席へどうぞ」
ミイラ男とすれ違いながら店内へ入り、席につく。いつも通りにサンジが椅子を引いてくれてだ。
「それにしても凄い仮装」
「何言ってんだ、ナミ、こいつら全部本物だぞ」
「はいはい。よく集めたわねぇ、サンジ君」
「ちょっとしたつてがあってね。希望する魔物にサーブさせてるんだ。子供達が大喜びでさ。ナミさんはお目当ての魔物はいるかい?」
「サンジ君でいいわ。リアル過ぎて、どれもパス」
「ああ!ナミさんのご指名なんて、幸せー!」
「そうだ、ゾロがいいわ」
「ゾロ、いねえよ」
ルフィがメニューから目を離さずに言った。ナミは店内を見回した。確かにあの目立つ緑の髪は見えない。
「何に変装してるの?」
「いや、本当にいないんだ」
「あら、外出? 珍しい」
「そうだね」
相槌を打ちながらちょっと視線をやった先には、古いドクロ。
「いつ帰ってくるか分かんねえから、俺がサーブさせていただくよ」
「そうね。お願いするわ。今日のお勧めは?」
「もちろんハロウィンに因んだカボチャを使ったメニューだよ」
ルフィからメニューを取り上げてナミに渡し、説明する。
オーダーを受けると、厨房へと向かう。魔物たちも、入れ替わり立ち替わりサンジにオーダーを伝え、プレートを運んでいく。
いつもより賑やかな店内。なのに、いつも以上に欠落したものを感じてしまう。
それに気付かない振りをして、サンジはいつも以上に甲斐甲斐しく動いていた。
食後のコーヒーを2人に差し出すと、メニューを一通り平らげ満足そうなルフィが思い出したようにサンジに言った。
「俺、明日からちょっとまた冒険してくるから」
「そういうことは、俺じゃなくてナミさんに言え」
「ナミには言ってある」
「そうか。テメエのいない間、ナミさんのことは俺に任せろ」
「んー、お前に面倒見てもらわなくても大丈夫だ。ウソップにも頼んであるしな」
「俺より鼻の方が頼りになるってえのか!」
「同じ職場だからな」
「納得いかねえ」
「どーでもいいよ」
ルフィは本当にどうでもいいように鼻をほじりながら応じた。
会計を済ましたナミは既に店を出ていて、その後を追おうと席を立ったルフィがドアの所で立ち止まった。
不意の言葉に反応が遅れた。
「迷子探しに行ってくる」
「……え」
「帰ってくるのは何時か分かんねえけど、10日くらいで何とかしてえとは思ってる」
「……」
「帰ってきたら、肉山ほど食わせてくれ」
ニカッと笑ったルフィに、何も言えなかった。うまい言葉が見つからない。
「ルフィ、いつまで待たせるの!」
「悪い、今行く」
じゃあなと手を振り、ルフィはナミの元へ急いだ。サンジは、その後ろ姿を呆然と見つめていた。
「サンジさん?」
向こうの世界の住人を自主的に取りまとめているギンの呼びかけに、はっと我に返る。
「あ、ああ、悪い。オーダー溜まっちまったな。急いで作るから運んでくれ」
そう言って、厨房へと戻っていく。その時に一度机の方へ向けた綺麗で切ない視線を、ギンは見逃さなかった。
迷子か。
そうか、迷子になってやがるんだな。
そうだった、奴は天才的な迷子だった。そんなことも考えなかったなんて、俺としたことが。
ハロウィンなんて、てめえが帰ってくるにはお誂え向きの日だろうが。魔法使いだろうが悪魔だろうが、亡霊でも生き霊でも何でもいい。
さっさと帰ってきやがれ。