brunch(2)
あれだけ昼飯を食ったのに、ゾロはしっかり夕食も平らげた。
食っている間は、映画やドラマの話や、本の話をした。フランキーとロビンちゃんは好むジャンルが違うから、今もよく姉弟で映画を見に行くことも。
「ロビンちゃんとデート!?生意気な!!今度はぜひ俺がお供を!」
「ホラーの時に声掛けてやる」
「ううっ!」
「ロビンはリアルな心霊ものが大好きだぞ。ミラ・○ョボビッチのやつとか」
「あれ!?俺、パッケージだけで鳥肌たった」
「中身も凄かったぞ。本物の映像もあって」
「ほ、本物!?うわ〜。俺のホラーの限界は『リトル・ショップ・○ブ・ホラーズ』だ」
「あれ、コメディだろ」
「あのシュールさは立派なホラーだ!つうか、お前、あれ見たことあるのか?年齢詐称してるだろ」
「するかっ!!」
こんなふうに一緒にいるのは初めてだなと、不意に思った。いつも互いの店が殆どで、2人だけでいられた時間もそう長くはなかった。それなのに、こんなふうに人を好きになるのかと、皿を洗いながら顔が綻んじまう。いやあ、末期だなあ。
「おい、風呂入るだろ?今湯を張ってやるから」
「てめえは?」
「俺はもうシャワー浴びた」
「いつ?」
「爆睡中。俺は基本的に夕食の前にシャワー浴びるんだよ。食って片付けたらすぐ寝られるようにな」
「へえ。じゃあ湯は張らなくていい。俺もシャワーで十分だ」
「そうか?風呂はこっちだ」
大人しくついてくる様子も犬みてえ。
「着替えは適当でいいな」
「おう」
返事をして、おもむろに脱ぎだした。夏の薄着の時に思った以上に綺麗な力強い裸の背中。
カチャカチャとベルトを外す金属音に我に返った。
さっと寝室に入って、大きく息を吐き出した。
やべえ。
可愛くねえぞ、あの背中は。
バイやゲイの知り合いがいて、当然そっちサイドの要らねえ知識も持ってはいるが、いくら男に言い寄られても抱く気になるわけもなく、抱かれるなんざ有り得なかった。
その俺が、男のゾロを抱きてえと思っただけでも天変地異なのに。
『逆側の方が落とせる可能性は上がるんじゃねえ?』
それからというもの、俺が突っ込まれることを考えてみた。恐ろしいことに、ゾロに抱かれることを想像できちまった。
あの背中。想像がよりリアルになる。 11も年下の男にときめくってなんだーーーっ!!
取り敢えず、落ち着け、俺。
気を取り直して、着替えとタオルを持って戻った。
風呂場のドアにぼんやりと映るシルエット。
……俺、本当に29かよ。ああ、クソッ!
半ばやけっぱちな勢いで、寝室に戻った。
「あー、さっぱりした」
「そいつはよかった……とことんムカつくな」
風呂から上がってきたゾロの声に振り向き、その姿に腹がたつ。
俺には少しだぶつくスウェットがぴったりだ。上はきついくらいか?これでズボンの丈も短かったら蹴り飛ばしてえが、幸い足は俺の方が微妙に長いみてえだ。まあ、当然だな。
「あ、てめえだけ何飲んでんだ」
「お酒は二十歳になってから、だ」
「飲める。よこせ」
「この酒の価値が分からねえやつに飲ませるかよ」
「俺の舌は肥えてるんだろ?分からせろよ」
「いちいち言いやがる」
酒の入ったグラスを持って、ソファに座るヤツの隣へ座った。
グラスに伸ばされた手を避ける。
ムッとした顔を見ながら酒を口に含んで飲ませてやった。
面食らった顔のまま、派手にゴクリと音をたてて飲み干した。
「美味いだろ?」
誘いかけるように笑ってやる。
一瞬で瞳に情欲が浮かんだ。くくっ、若えな。やっぱり可愛いか。
「……くれよ」
低い声が少し掠れて、男の顔が覗く。
もう一口含み、飲ませてやりながら、その膝に跨って座った。
自慢じゃねえが、腹筋がそこそこ割れている程度には鍛えられた男の体だ。現実を目にして、お前はどうするだろう。
そう思いながら、パジャマのボタンを全て外してみせた。
ゾロは、はだけた男の胸を凝視した。
「すげえ白いな」
舐めるような視線が、首筋や胸元に注がれる。
そして、気付いた。
「こんな男の体に勃つのか」
「惚れてるからな」
「……なあ、お前、したことねえのか?」
「ねえ」
「そうか」
やっぱり。
「してえなんて思ったのは、てめえが初めてだ」
真摯な目に見つめられ、胸が苦しい。
「ゾロ」
「ん?」
「好きだぞ」
「俺もだ」
「抱かせてやるよ」
さっと色付いた目元。
すげえ、すげえ好きだ。
「セックスしよう」
自分でも驚くほど優しい声だった。
それに応えるように、ゾロは優しいキスをくれた。
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