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 あれだけ昼飯を食ったのに、ゾロはしっかり夕食も平らげた。
 食っている間は、映画やドラマの話や、本の話をした。フランキーとロビンちゃんは好むジャンルが違うから、今もよく姉弟で映画を見に行くことも。

「ロビンちゃんとデート!?生意気な!!今度はぜひ俺がお供を!」
「ホラーの時に声掛けてやる」
「ううっ!」
「ロビンはリアルな心霊ものが大好きだぞ。ミラ・○ョボビッチのやつとか」
「あれ!?俺、パッケージだけで鳥肌たった」
「中身も凄かったぞ。本物の映像もあって」
「ほ、本物!?うわ〜。俺のホラーの限界は『リトル・ショップ・○ブ・ホラーズ』だ」
「あれ、コメディだろ」
「あのシュールさは立派なホラーだ!つうか、お前、あれ見たことあるのか?年齢詐称してるだろ」
「するかっ!!」

 こんなふうに一緒にいるのは初めてだなと、不意に思った。いつも互いの店が殆どで、2人だけでいられた時間もそう長くはなかった。それなのに、こんなふうに人を好きになるのかと、皿を洗いながら顔が綻んじまう。いやあ、末期だなあ。

「おい、風呂入るだろ?今湯を張ってやるから」
「てめえは?」
「俺はもうシャワー浴びた」
「いつ?」
「爆睡中。俺は基本的に夕食の前にシャワー浴びるんだよ。食って片付けたらすぐ寝られるようにな」
「へえ。じゃあ湯は張らなくていい。俺もシャワーで十分だ」
「そうか?風呂はこっちだ」

 大人しくついてくる様子も犬みてえ。

「着替えは適当でいいな」
「おう」

 返事をして、おもむろに脱ぎだした。夏の薄着の時に思った以上に綺麗な力強い裸の背中。
 カチャカチャとベルトを外す金属音に我に返った。
 さっと寝室に入って、大きく息を吐き出した。
 やべえ。
 可愛くねえぞ、あの背中は。
 バイやゲイの知り合いがいて、当然そっちサイドの要らねえ知識も持ってはいるが、いくら男に言い寄られても抱く気になるわけもなく、抱かれるなんざ有り得なかった。
 その俺が、男のゾロを抱きてえと思っただけでも天変地異なのに。

『逆側の方が落とせる可能性は上がるんじゃねえ?』

 それからというもの、俺が突っ込まれることを考えてみた。恐ろしいことに、ゾロに抱かれることを想像できちまった。
 あの背中。想像がよりリアルになる。 11も年下の男にときめくってなんだーーーっ!!
 取り敢えず、落ち着け、俺。
 気を取り直して、着替えとタオルを持って戻った。
 風呂場のドアにぼんやりと映るシルエット。
 ……俺、本当に29かよ。ああ、クソッ!
 半ばやけっぱちな勢いで、寝室に戻った。

「あー、さっぱりした」
「そいつはよかった……とことんムカつくな」

 風呂から上がってきたゾロの声に振り向き、その姿に腹がたつ。
 俺には少しだぶつくスウェットがぴったりだ。上はきついくらいか?これでズボンの丈も短かったら蹴り飛ばしてえが、幸い足は俺の方が微妙に長いみてえだ。まあ、当然だな。

「あ、てめえだけ何飲んでんだ」
「お酒は二十歳になってから、だ」
「飲める。よこせ」
「この酒の価値が分からねえやつに飲ませるかよ」
「俺の舌は肥えてるんだろ?分からせろよ」
「いちいち言いやがる」

 酒の入ったグラスを持って、ソファに座るヤツの隣へ座った。
 グラスに伸ばされた手を避ける。
 ムッとした顔を見ながら酒を口に含んで飲ませてやった。
 面食らった顔のまま、派手にゴクリと音をたてて飲み干した。

「美味いだろ?」

 誘いかけるように笑ってやる。
 一瞬で瞳に情欲が浮かんだ。くくっ、若えな。やっぱり可愛いか。

「……くれよ」

 低い声が少し掠れて、男の顔が覗く。
 もう一口含み、飲ませてやりながら、その膝に跨って座った。
 自慢じゃねえが、腹筋がそこそこ割れている程度には鍛えられた男の体だ。現実を目にして、お前はどうするだろう。
 そう思いながら、パジャマのボタンを全て外してみせた。
 ゾロは、はだけた男の胸を凝視した。

「すげえ白いな」

 舐めるような視線が、首筋や胸元に注がれる。
 そして、気付いた。

「こんな男の体に勃つのか」
「惚れてるからな」
「……なあ、お前、したことねえのか?」
「ねえ」
「そうか」

 やっぱり。

「してえなんて思ったのは、てめえが初めてだ」

 真摯な目に見つめられ、胸が苦しい。

「ゾロ」
「ん?」
「好きだぞ」
「俺もだ」
「抱かせてやるよ」

 さっと色付いた目元。
 すげえ、すげえ好きだ。

「セックスしよう」

 自分でも驚くほど優しい声だった。
 それに応えるように、ゾロは優しいキスをくれた。


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